著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:International Journal of Science and Research (IJSR)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

インドのバンジャラは、地域によってランバディ、ランバニ、スガリなどとも呼ばれる人々です。歴史的には「タンダ」と呼ばれる大規模なキャラバンで各地を移動し、穀物や塩などの農産物を運ぶ商人・運搬者、また牧畜民として活動してきました。この論文は、そうした移動を中心とする暮らしのなかで、植民地期以前のバンジャラがどのような食べ物や飲み物をとり、食が祭りや儀礼、社会のしくみとどう結びついていたのかを明らかにしようとしたものです。

著者は、移動生活が食習慣に与えた影響、伝統的な飲み物、食と祭り・儀礼・社会制度との関係、そしてその後の時代における食文化の継続と変化を、研究の柱として掲げています。

どのように調べたか

この研究は、新たな現地調査や測定を行ったものではなく、既存の資料をもとに過去の食のあり方を再構成する歴史的・記述的な研究です。用いられたのは、歴史書、植民地時代の記録、インド国勢調査の民族誌(特定の集団の生活や文化を記録した報告)、部族研究機関の刊行物、政府報告書、学術書や論文などです。

著者は、バンジャラの人々がインド各地に暮らし移動してきたことから、すべての集団が同じ食生活を送っていたとは仮定せず、それぞれの地域の生態環境や経済、文化の文脈のなかで食の慣習を読み解く姿勢をとっています。

報告された主な内容

論文によると、食生活の土台はジョワール(モロコシ)、バジュラ(トウジンビエ)、ラギ(シコクビエ)といった雑穀と米でした。なかでもジョワールの粉と水だけでつくる平焼きパン「ジョワール・ロティ」は重要な食べ物とされ、簡単な道具で平鍋の上で焼けるため、移動する暮らしに適していたと述べられています。これに豆類の煮込み(ダール)、野菜、チャツネ(薬味)、ヨーグルトにあたるカード、バターミルクなどが組み合わされました。

保存がきき、運んでも傷みにくい穀物や豆類、漬物や乾燥食材、そして土鍋などの簡素な調理道具は、長距離の旅に向いた組み合わせだったと著者は論じています。前夜の残りものを、雑穀とバターミルクを合わせた液状の料理「アンバリ」として朝食にするといった工夫も紹介されています。

肉料理は文化的に重要な位置を占めていましたが、資料に基づき、すべての家庭が日常的に食べていたわけではなく、経済力や入手のしやすさ、季節、行事によって頻度が異なったと報告されています。ヤギや羊、鶏が好まれた一方、記録された共同体では牛肉と豚肉は禁じられていたとされます。

飲み物では、バターミルクが日々の食事を支えたのに対し、米を発酵させた飲み物「チャウリ」や地酒などは、祭りや儀礼、もてなしの場と結びついていたと述べられています。祖先の霊に炊いた米や鶏肉を供える習わしなど、食は宗教や共同体の記憶とも深く関わっていました。また、食事づくりを主に担ったのは女性で、食材や保存法、儀礼食の知識は女性の日々の営みを通して世代を超えて受け継がれてきたと論じられています。

さらに論文は、キャラバンによる交易が各地の食材や料理の知識を運ぶ役割も果たしたと指摘します。植民地期には移動を制限する政策やキャラバン交易の衰退によって定住化が進み、食生活も変化しました。それでも現在まで、雑穀を使った料理や乳製品、チャツネ、儀礼食などが受け継がれ、伝統と新しい食習慣が共存していると報告されています。

研究が示す意味

著者は、バンジャラの食の伝統を単なる食事の習慣としてではなく、移動、生態環境、生業、社会のしくみ、そして集団の記憶を映し出す「適応の文化体系」として捉えるべきだと論じています。同時に、伝統的な食を理想化せず、移動生活には食料不足の危うさもあったことにも触れています。

この論文は、移動する暮らしが独自の食の安定のしくみと文化を生み出しうることを示す例としてバンジャラの食文化を描き、その記録が無形の文化遺産と、先住の食体系に込められた知識を理解するうえで大切だと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Daravath Ravi(Research Scholar , Department of History and Tourism Management , Kakatiya University , Warangal , TG. , India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Daravath Ravi. Food, Food Habits and Beverages of the Banjara Community in the Pre-Colonial Era in India. International Journal of Science and Research (IJSR) 2026-09-19. DOI: 10.21275/sr26913144707. 原著ライセンス:CC BY.