著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、イタリア、カナダです。

掲載誌:Frontiers in Disaster and Emergency Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

地震は、養育者の死亡や離別、断水、物資の供給停止などを通じて、乳幼児への授乳や食事を難しくします。緊急時の乳幼児の栄養支援に関する運用指針「OG-IFE」は、母乳育児の支援と、母乳で育てられない乳児への安全な栄養支援を含む、災害への備えの枠組みです。

研究チームは、地震によって乳幼児への栄養供給が途絶える条件が重なる国を特定し、OG-IFEに沿った備えを優先的に検討する手掛かりを得ようとしました。指針が各国の言語で利用できるかどうかも調べました。

何を、どのように調べたか

研究チームは、2023年版の世界地震リスクモデルに含まれる198の国・地域について、地震による「年平均死者数」と「年平均被害面積」を調べました。これらは実際のある年の被害ではなく、地震の揺れ、建物の分布や壊れやすさから、想定される被害を長期的に計算して年平均にした推計値です。死者数は養育者を失う可能性、被害面積は水や医療、授乳用品などへのアクセスが損なわれる可能性を考える指標として用いました。

それぞれの指標で上位20か国を独立に選び、どちらかに該当する計24か国を分析対象としました。さらに、UNICEFや各国の資料から、生後6か月未満の乳児を母乳だけで育てている割合である「完全母乳育児率」を確認しました。研究チームは、この割合が低い国ほど、平時から乳児用調製乳などの母乳代替品への依存が大きいと捉えました。指標を合算した総合点や順位は作っていません。

対象国では、OG-IFEが各国の言語で提供されているかも確認しました。これは支援に当たる人が文書を利用しやすいかを示す指標であり、研修、人員、物資、連携体制まで含めた備え全体の評価ではありません。

主な報告結果

24か国のうち、中国、パキスタン、インド、トルコ、イランなど16か国が、年平均死者数と年平均被害面積の両方で上位20か国に入りました。研究チームは、これらを、養育者の喪失と生活基盤の損傷に関わる条件が重なる国と位置付けました。中国の推計値は年平均死者数3,979人、年平均被害面積13.79平方キロメートルで、パキスタンではそれぞれ2,615人、8.73平方キロメートルでした。

一方、日本、米国、コロンビア、エクアドルは被害面積のみ、エルサルバドル、ハイチ、ネパール、ウズベキスタンは死者数のみで上位20か国に入りました。著者らは、前者では生活基盤や供給網への影響、後者では養育者の喪失に関わる問題に、それぞれ重点を置いた備えが必要になり得ると説明しています。

完全母乳育児率にも違いがあり、資料上の値はペルーで66.9%、アフガニスタンで63.3%だったのに対し、ルーマニアでは15.8%、米国では25.8%でした。著者らは、低い割合を示す国では、母乳代替品の供給と安全な調乳を維持する備えが特に重要になるとしています。ただし、分類の目安とした50%に近い国は、基準を変えると分類も変わるため、明確に異なる集団とは扱えないと報告しました。

OG-IFEの各国語版については、アフガニスタン、中国、イラン、ネパール、パキスタン、フィリピン、ルーマニア、台湾、ウズベキスタンの9か国で、対象言語の翻訳がないと報告しました。これは、指針を利用する上での具体的な障壁として挙げられています。

この報告が示すこと

著者らが示したのは、災害前に乳幼児の栄養支援の備えを点検する国を選ぶための手掛かりです。地震リスクと授乳の中断との因果関係を実証した研究ではありません。研究チームは、母乳育児の保護・支援と、母乳代替品を必要とする乳児への管理された支援を、国の災害対策に組み込む必要があると結論付けています。

分析は国単位のため、国内の地域差を捉えられません。また、完全母乳育児率は資料によって調査年や方法が異なり、現在の状況や国同士の違いをそのまま表すとは限りません。死者数の推計も、母親や養育者を区別したものではありません。著者らは、具体的な支援計画には地域別の被害想定や栄養状況、医療へのアクセス、対応能力の確認が必要だとしています。指針の翻訳はその備えの一部であり、利用可能であるだけで実施体制が整っているとは判断できません。

原著論文の著者・所属:Aly Drame(Independent Researcher, Atlanta, GA, United States)、Andrés Abarca(Global Earthquake Model (GEM) Foundation)、Jodine Chase(SafelyFed Canada)、Mija Ververs(Center for Humanitarian Health, Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aly Drame, Andrés Abarca, Jodine Chase, et al. Prioritizing earthquake-prone countries for implementing the operational guidance on infant and young child feeding in emergencies (OG-IFE): a descriptive risk mapping and prioritization analysis. Frontiers in Disaster and Emergency Medicine(出版社:Frontiers Media) 2026-08-28. DOI: 10.3389/femer.2026.1830252. 原著ライセンス:CC BY.