著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。

掲載誌:BMC Veterinary Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

羊の腎機能を評価する手がかりを求めて

研究チームは、羊の腎機能を血液検査で評価するため、対称性ジメチルアルギニン(SDMA)という物質の基準範囲を調べました。さらに、病気の羊の保存血清を使い、従来の指標であるクレアチニンと比べて、腎機能の低下を捉える手がかりになるかを検討しました。

クレアチニンの血中濃度は筋肉量に左右されるため、ひどく痩せた羊では腎臓のろ過能力を十分に反映しないことがあります。一方、SDMAは核を持つ細胞で作られる物質で、犬や猫ではすでに腎機能の指標として使われていますが、羊については基準となるデータがありませんでした。

健康な羊から基準範囲を算出

研究チームは、単一の酪農羊群で飼育されていたラコーヌ種160頭から採血し、診察所見や体の肉付き、貧血の目安などの条件を満たした143頭を解析対象としました。血清中のSDMAは、抗体を利用して物質の量を測るELISA法で測定しました。

統計的に外れた値を除く138頭から算出したSDMAの基準範囲は、0.59~1.72 µmol/Lでした。これは測定値の中央90%が収まる範囲であり、健康な羊でも範囲外になる場合があります。

性別による有意な差は認められませんでしたが、1歳未満の羊は1歳以上の羊よりSDMA濃度が高くなっていました。年齢別に算出した基準範囲は、1歳未満で0.59~1.83 µmol/L、1歳以上で0.59~1.56 µmol/Lでした。

病気の羊では、重い腎病変との関連を確認

研究チームは別に、死亡または安楽死後に病理解剖を受けた羊51頭について、病理検査前48時間以内に採取された保存血清を調べました。腎臓の組織に見られた病変を、異常なし、軽度、中等度、重度に分け、SDMAとクレアチニンの濃度を比較しました。

クレアチニン濃度には病変の程度による有意な差がなかった一方、SDMA濃度は重度の病変がある群で、ほかの各群より有意に高くなっていました。重度の病変があった8頭のうち、基準上限を超えたのはクレアチニンで3頭、SDMAで7頭でした。著者らは、肉付きの悪い羊ではクレアチニンが低くなる傾向がある一方、SDMAでは同様の影響が見られなかったと報告しています。

ただし、腎臓の組織に病変が認められなかった33頭のうち13頭でも、SDMAは基準上限を超えていました。著者らは、組織の病変と腎機能は必ずしも一致せず、重い病気に伴う脱水やショックで腎臓への血流が減った可能性などを挙げています。

年齢と測定条件を踏まえた解釈が重要

今回の基準範囲は、単一農場のラコーヌ種を特定のELISA法で測定して得られたものです。著者らは、ほかの品種や飼育集団への適用には注意が必要で、病気の羊での比較も診断上の有用性を示す予備的な結果と位置づけています。

この研究は、羊のSDMAを解釈するための基準を示すとともに、年齢によって値が異なることを明らかにしました。また、特に痩せた羊では、クレアチニンだけでは捉えにくい腎機能の問題を評価する手がかりになり得ることを示しています。

原著論文の著者・所属:Frederik Kiene、Matthias G. Wagener、Petra Röhrig、Martin Ganter

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Frederik Kiene, Matthias G. Wagener, Petra Röhrig, et al. Determination of reference intervals for symmetric dimethylarginine (SDMA) in Lacaune sheep. BMC Veterinary Research 2026-11-05. DOI: 10.1186/s12917-026-06074-7. 原著ライセンス:CC BY.