著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

緑以外の葉色の茶で抹茶を作ると何が変わるのか

抹茶は、収穫前に日光を遮って育てた茶葉を蒸して乾燥させ、「碾茶(てんちゃ)」にしてから細かく挽いた粉末茶です。食品や飲料などに広く使われていますが、原料はほとんどが緑色の葉をもつ品種です。研究チームは、この偏りが製品の多様性を狭めていると指摘しています。

中国では近年、葉が紫色や黄色になる品種の登録申請が増えています。しかし、こうした品種を抹茶に使う試みは限られていました。そこで研究チームは、緑葉・紫葉・黄葉の茶から抹茶を作り、見た目や味、香りと成分を比べました。味や香りの違いが、どのような化学的な違いに支えられているかを探ることが目的です。

6種類の抹茶を同じ条件で作って比較

材料には6系統を用いました。緑葉は日本の品種「やぶきた」と中国の品種「平水日鋳」です。紫葉は紫葉品種「紫娟」の交配後代2系統、黄葉は「白鶏冠」の交配後代2系統です。いずれも同じ試験圃場で、同じ施肥と管理のもとで育てられました。

収穫前には、光を80%遮る黒い網で短期間覆いました。遮光で黄葉品種が緑に戻ることがあるため、特徴的な葉色が大きく変わらないよう期間を短くしたと説明されています。摘み取った新芽は、同じ設備と条件で碾茶に加工し、石臼で抹茶にしました。各系統につき、3回に分けて別々に製造したものを繰り返しの試料としています。

評価は三つの柱で行いました。一つ目は、訓練を受けた5人の評価者による、粉の外観、お茶の色、味、香りの採点です。二つ目は、香りに直接かかわらない成分(不揮発性成分)を幅広く測る分析です。三つ目は、香りのもとになる揮発性成分の分析です。

葉色ごとに異なる味・香りと成分

官能評価では、緑葉の抹茶が鮮やかな緑色、さわやかな味、海苔のような香りという高品質な抹茶の特徴を示しました。総合点は92.3と報告されています。黄葉の抹茶は黄色からあんず色がかった色合いで、うま味が中心の味でした。総合点は90.4〜91.7と、緑葉の抹茶に近い評価です。紫葉の抹茶は、外観とお茶の色が従来の抹茶の基準から外れ、色の評価は低めでした。わずかな苦味と渋味もありましたが、香りの評価は緑葉の抹茶と同程度で、さわやかな香りをもっていたと著者らは述べています。

成分分析では、合わせて3,139種類の不揮発性成分が検出されました。成分の全体像を要約する統計手法で整理すると、試料は葉色ごとにまとまって分かれました。論文によると、緑葉の抹茶はうま味に関わるアミノ酸が多く、渋味や苦味のもとになるカテキン類とカフェインが比較的少ないため、さわやかで苦味・渋味の穏やかな味になっていました。紫葉の抹茶では、カテキン類の一部、カフェイン、紫色の色素アントシアニンに関連するフラボノイドが多く、強い渋味と後に残る苦味につながっていました。黄葉の抹茶は、アミノ酸全体と、うま味や甘みに関わるテアニンが最も多く、まろやかな味に寄与していると報告されています。

各葉色から代表1品種ずつを選んだ詳しい比較では、品種間で量が大きく異なる成分が見つかりました。こうした成分は、フラボノイドを作る代謝やアミノ酸の代謝に関わる経路に集中していました。ただし、この比較は各葉色1品種によるものです。そのため著者らは、葉色そのものの影響と品種固有の影響は区別できず、探索的な比較として解釈すべきだとしています。

香り成分は67種類が確認され、最も多い分類はテルペン類でした。揮発性成分の量は緑葉の抹茶が最も多く、紫葉、黄葉の順でした。研究チームは、ジヒドロアクチニジオリドや、青葉の香りをもつ「青葉アルコール」の関連成分が主要な香り成分であり、それぞれの抹茶に特徴的な香りと関係している可能性があると報告しています。

抹茶の多様化を支える化学的な手がかり

この研究は、同じ製法で作った抹茶でも、原料の葉色によって味・香り・成分の組み合わせがはっきり異なることを示しました。著者らによると、抹茶の味は特定の成分だけで決まるわけではありません。アミノ酸、カテキン類、カフェインなどの量のバランスによって形づくられています。今回の結果は、緑以外の葉色をもつ茶品種を生かして新しいタイプの抹茶を作るための、生化学的な基礎になるものと位置づけられています。

原著論文の著者・所属:Shiqi Ding(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Dingding Liu(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Haoran Liu(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Yang Gong(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Piao Mei(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Yuanyuan Ye(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Peixin Wang(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Chenyu Zhang(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Jiedan Chen(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Chunlei Ma(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)、Xuecheng Zhao(National Key Laboratory for Tea Plant Germplasm Innovation and Resource Utilization, Tea Research Institute of the Chinese Academy of Agricultural Sciences)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shiqi Ding, Dingding Liu, Haoran Liu, et al. Metabolic characteristics and chemical basis of matcha from cultivars with different leaf colors. Frontiers in Nutrition 2026-10-19. DOI: 10.3389/fnut.2026.1951952. 原著ライセンス:CC BY.