大学生アスリートは、競技力を保ちながら学業もこなし、しかも自分の食事は自分で管理しなければならない立場に置かれています。何を食べればよいかという知識だけでなく、時間の余裕、経済的な事情、食べ物へのアクセス、チームの文化や人間関係といった環境要因が、実際の食行動を大きく左右する——この研究は、そうした問題意識から出発しています。著者の一人は元陸上競技選手で、現在はスポーツ栄養士を目指して大学で学ぶ学生です。経験豊富なスポーツ栄養士や食事づくりの専門家と協力しながら、今後の研究につながるアイデアをまとめたのがこの論文であり、日本の大学に所属する著者らによって書かれています。

日本の『食の豊かさ』の裏にある課題

論文はまず、日本の食をめぐる状況を整理しています。四季があり地域ごとに多様な農産物を持つ日本は、豊かな食文化を持つ国として国際的に知られている一方、食料自給率の構造的な不安定さ、輸入依存、気候変動や物流の混乱に弱い供給体制といった課題を抱えているといいます。近年の食料品価格の上昇により、学生を含む一部の人々が経済的な理由で十分な食料を得られない状況も指摘されており、著者らはこれを「食料の不足」ではなく「アクセスと分配の不平等」の問題だと位置づけています。こうした社会全体の食をめぐる課題は、成長期にあり運動量の多い学生アスリートの食環境にも直結していると論文は述べています。

この視点を深める材料として、茨城県つくば市の「みずほの村市場」の取り組みや、同市のCaHaYa Farmによるルバーブ栽培の事例が紹介されています。地域で生産し、地域で消費し、地域が支えるという循環を重視するこうした実践は、生産者の考えが見える食のあり方として言及されており、著者らが学生アスリートの食環境を考える際の背景の一つになったとされています。

学生アスリートが直面する栄養の問題

論文では、大学生アスリートが抱える栄養上の課題を、健康・栄養面の問題と、社会的な要因による問題の二つに整理しています。健康・栄養面では、トレーニングに必要な量に対してエネルギー摂取が不足する「利用可能エネルギー不足(LEA)」のリスクが挙げられ、貧血や疲労、回復の遅れ、月経異常、筋量の減少などにつながりうるとされています。女性アスリートではこれが「女性アスリートの三主徴」と呼ばれる、エネルギー不足・月経異常・骨密度低下が重なった状態に発展する可能性があるとも述べられています。

社会的な要因としては、学業やアルバイトとの両立による時間・気力の不足、「痩せている方が競技力が上がる」といった体型に関する誤った思い込みが過度な食事制限や摂食障害のリスクにつながること、そして自炊や食材の管理といった生活スキルの不足が挙げられています。海外の研究では、大学生アスリートの約23%が、栄養的に十分な食料を安定して得られない「フードインセキュリティ」の状態にあるという報告も紹介されており、支援を受けることへのためらいがその改善を妨げる要因になるとされています。論文はこれらの要因が互いに関係し合い、ストレス→不適切な食行動→栄養状態の悪化→回復の遅れ→競技力低下という悪循環を生みうる、という関係図を示しています。例として、時間や調理スキルの制約からコンビニ食に頼りがちな長距離走選手が、体重への不安から食事を減らし、貧血や疲労、パフォーマンス低下に陥っていくという状況が具体例として描かれています。

筑波大学ラグビー部の『チーム食』という事例

研究の中心的な事例として取り上げられているのが、筑波大学男子ラグビー部の「チーム食」プログラムです。導入前は、簡単な弁当やパンで昼食を済ませる選手もおり、大学の食堂も一般学生向けで、量や栄養バランス、価格の面でアスリートのニーズに必ずしも合っていなかったといいます。このプログラムが始まった背景には新型コロナウイルス流行期の生活リズムの乱れがあり、オンライン授業への移行で朝早く家を出る必要がなくなったことから、朝食を抜く習慣が一部の選手に広がったことが一つのきっかけになったと述べられています。そこでチームがスポーツ栄養の研究セミナーに支援を依頼したことが、この取り組みの出発点になったとされています。

現在このプログラムは、朝または昼のタイミングで、選手のニーズに応じて食事支援を行う形で運営されています。注目すべき点として論文が強調しているのは、これが単に食事を提供する場ではなく「学びの場」として機能しているということです。選手自身が「リカバリー委員会」や「朝食委員会」といった役割を担い、仲間の体重や体組成をチェックしたり、体重の増減目標に応じたご飯の量を助言し合ったりする、選手同士による管理の仕組みが作られています。手洗いやテーブル拭き、補食づくり、食材の買い出し、衛生管理なども活動に含まれ、長期休暇中には選手自身が買い出しを担当し、先輩から後輩へ知識や実践が引き継がれる文化があるとされています。一方で、何を選べばよいか分からない選手もいたといい、食に関する実践的な生活スキルは当然に備わっているわけではないことも示されたと述べられています。

管理栄養士の関わり方にも特徴があり、すべてに介入するのではなく、相談があったときや、チームメイトや指導者から懸念が伝えられたときに対応するという、選手の主体的な判断を尊重する姿勢がとられていたといいます。また、局地的な制約として、炊飯器を複数同時に使うとブレーカーが落ちるといった設備上の限界があったことも記録されており、著者らはスポーツ栄養支援が完璧な条件下ではなく、限られた環境の中での工夫と調整によって成り立っていることを示す例として挙げています。地元企業からの食材提供もあり、支援が選手や栄養士だけでなく地域社会ともつながっていた点も紹介されています。

この研究の位置づけ

この論文自体は、筑波大学ラグビー部のチーム食を今後の本格的な調査の対象として位置づける「研究アイデアの提案」であり、著者らはこの事例をもとに、選手たちが食に関する行動をどのように学び、実践し、自立につなげていくのかを今後明らかにしたいとしています。あわせて、管理栄養士がどのような意図や工夫でこうした学びの環境を設計しているのかも、今後の調査対象として挙げられています。つまり、ここで示されているのは特定の栄養素や食事法の効果を検証した結果ではなく、次の研究段階に向けた枠組みと着想であり、今後の調査によって内容が深められていく性質のものです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kazuha Sugimoto, Norihiko Asada, Yumi Kato, et al. WISH - Woman in sports and health: An undergraduate research/researcher collaborative journey towards becoming a sports dietitian, the case of a team meal. 国際体育スポーツ健康誌 (2026). DOI: 10.22271/kheljournal.2026.v13.i8a.4724.