著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Applied Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
豆乳や豆腐をつくる過程で大量に出る副産物「おから」は、食物繊維やたんぱく質を多く含みながらも、多くが廃棄されているといわれます。粉末化して食品に混ぜ込む試みもありますが、水や油を抱え込む力や生地への馴染みやすさといった機能面の制約から、活用が広がりにくいという課題があります。今回紹介する研究は、この課題に対して「放射線照射」という加工技術を使い、おから粉末の性質をどこまで改良できるかを調べたものです。
研究を行ったのは、タイのタマサート大学(Thammasat University)食品科学技術学科および化学科の研究チームです。乾燥させたおから粉末に対して、電子線照射(EBI)とガンマ線照射(GI)という二種類の放射線処理を、2.5〜7.5kGyという複数の線量で施し、それぞれの効果を比較しました。
放射線を当てるとおから粉末はどう変わるのか
まず注目されたのは、粉末が水や油をどれだけ抱え込めるかという性質です。無処理では1gあたり5.52gの水を保持できたのに対し、電子線照射後は4.89g、ガンマ線照射後は4.66gまで低下したと報告されています。一方で油を保持する力は逆に高まり、無処理の1.66g/gから、電子線照射で1.92g/g、ガンマ線照射で1.78g/gに増えたとされています。放射線照射によって、粉末が水となじみにくく、油となじみやすい性質へと変化したことがうかがえます。
抗酸化に関わる成分にも変化が見られました。総フェノール含量は、照射線量が5.0kGyのときに最も高くなり、電子線照射で100gあたり74.22mg(没食子酸当量)、ガンマ線照射で71.08mgに達しましたが、7.5kGyまで線量を上げるとかえって減少したと述べられています。これは、中程度の線量ではフェノール成分が取り出されやすくなる一方、線量が高くなりすぎると成分自体が壊れてしまう可能性を示すものとされています。
さらに、赤外分光法(FTIR)、示差走査熱量測定(DSC)、走査型電子顕微鏡(SEM)による分析では、たんぱく質の構造変化、熱に対する安定性の低下、そしてより多孔質になった微細構造が確認されたと報告されています。
パンに混ぜてみるとどうなるか
これらの結果を踏まえ、研究チームはフェノール含量が最も高くなった5.0kGyの照射条件で処理したおから粉末を選び、実際にパンへ配合する実験を行いました。その結果、小麦粉の5%を照射済みおから粉末に置き換えたパンは、内相(クラム)の構造が無添加のパンと同程度に保たれつつ、フェノール含量と抗酸化活性が高まったとされています。一方で、置き換える割合を7.5〜10%まで増やすと、クラムの構造が詰まった状態になり、硬さも増したと報告されています。
また、電子線照射とガンマ線照射を比べると、電子線照射で処理した粉末のほうが抗酸化活性と油保持力がわずかに高い傾向にあったものの、実際に焼き上げたパンの特性としては両者の間に大きな差は見られなかったとされています。
この研究をどう読むか
この研究は、おから粉末という一つの副産物を対象に、特定の照射条件・特定の配合割合のパンで得られた結果です。今回の要旨で示された事実だけでは、他の食品副産物や他の食品への応用可能性、あるいは長期的な安全性や風味への影響などについて結論づけることはできません。一つの研究であり、その知見が確定した結論というわけではない点に留意が必要です。
おからのように扱いにくいとされてきた副産物にも、加工方法次第で新しい使い道が見いだせる可能性があることを示す一例として、この研究は位置づけられそうです。今後、他の食品への応用や、より幅広い条件での検証が積み重なることで、こうした技術の実用性がさらに明らかになっていくことが期待されます。
原著論文の著者・所属:Krittiya Khuenpet(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science and Technology, Thammasat University, Rangsit Campus, Phahonyothin Road, Khlong Nueng, Klong Luang, Pathum Thani 12120, Thailand)、Charida Pakasap(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science and Technology, Thammasat University, Rangsit Campus, Phahonyothin Road, Khlong Nueng, Klong Luang, Pathum Thani 12120, Thailand)、Thajanyawan Sahaspornchaikul(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science and Technology, Thammasat University, Rangsit Campus, Phahonyothin Road, Khlong Nueng, Klong Luang, Pathum Thani 12120, Thailand)、Danita Sornkeawthanadet(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science and Technology, Thammasat University, Rangsit Campus, Phahonyothin Road, Khlong Nueng, Klong Luang, Pathum Thani 12120, Thailand)、Peerasak Paoprasert(Department of Chemistry, Faculty of Science and Technology, Thammasat University, Rangsit Campus, Phahonyothin Road, Khlong Nueng, Klong Luang, Pathum Thani 12120, Thailand)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Krittiya Khuenpet, Charida Pakasap, Thajanyawan Sahaspornchaikul, et al. Comparative effects of electron beam and gamma irradiation on properties of okara powder and its utilization in bread production. アプライド・フード・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.afres.2026.102505. 原著ライセンス: cc-by.