著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、ケニアです。

掲載誌:Frontiers in Immunology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

回虫(Ascaris属の寄生虫)は、人にもブタなどの家畜にも広く感染する土壌媒介性の寄生虫です。人では駆虫薬の効きにくさが報告されるようになり、また繰り返し感染してしまうことや有効なワクチンがまだないことから、薬に頼るだけではない別の対策方法が必要とされています。今回紹介する論文は、そうした背景のもと「食事の内容」が寄生虫への防御にどう関わるのかを、ブタを対象に調べたものです。

これまでの研究で、発酵性の食物繊維(腸内細菌によって発酵されやすい繊維)をブタに与えると、2型免疫応答と呼ばれる免疫の働きや、腸の粘膜バリア機能が高まることが示されてきたそうです。2型免疫応答は、寄生虫のような比較的大きな異物に対する生体防御に関わるとされる免疫の仕組みです。この論文では、こうした食物繊維の効果が実際に回虫感染の経過にどう影響するのかを検証しています。

研究でわかったこと

研究チームは、離乳後のブタを2つのグループに分け、一方には発酵性食物繊維を豊富に含む飼料(HFD)を、もう一方には発酵性食物繊維の少ない対照飼料(LFD)を与えました。飼料の摂取を開始してから4週間後、ブタにAscaris suum(ブタ回虫)の卵を投与して感染させ、その後さらに5週間、それぞれの飼料を与え続けたということです。

その結果、HFD(発酵性食物繊維を強化した飼料)を摂取したブタでは、体内の寄生虫の数(虫体数)自体には変化が見られなかった一方で、寄生虫のサイズが有意に小さくなったと報告されています。つまり、感染そのものを防いだわけではないものの、寄生虫の成長が妨げられた可能性が示されたということです。

この変化には、全身および腸の粘膜における2型免疫応答の増強が関連していたとされています。具体的には、小腸におけるTh2応答(2型免疫を担うT細胞の働き)、粘液を分泌する杯細胞の増加、そして抗蠕虫作用を持つとされるArg1やRELM-βというエフェクター分子の産生増加が見られ、さらに血液中の好酸球(アレルギーや寄生虫感染に関わる免疫細胞)の数も増えていたということです。これらの結果から、発酵性食物繊維の摂取が自然免疫と獲得免疫の両方でTh2応答を促し、それが寄生虫の発育を妨げる方向に働いたと論文では考察されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、イヌリンやビートパルプなどの発酵性食物繊維が、宿主側の免疫状態だけでなく寄生虫側の成長にも影響を与えうることを示唆するものだと述べられています。ただし、これはブタを対象とした一つの研究であり、虫体数そのものを減らす効果は認められていない点には注意が必要です。またこの結果がヒトにそのまま当てはまるかどうかについては、要旨の中では述べられていません。あくまで寄生虫対策を補完する一つの可能性を示すデータとして受け止めるのが妥当だと考えられます。

まとめ

発酵性食物繊維を豊富に含む飼料をブタに与えたところ、Ascaris suum感染後の寄生虫の虫体数は変わらなかったものの、そのサイズは有意に小さくなり、免疫応答の各種指標にも変化が見られたと報告されています。薬剤に頼る駆虫だけでなく、食事内容を通じて寄生虫への生体防御を後押しできる可能性を示す基礎研究として、今後の展開が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):豚における発酵性食物繊維の摂取が抗寄生虫防御機構を促進し、回虫(Ascaris suum)感染における寄生虫の成長に影響する(フロンティアーズ・イン・イムノロジー・2026年07月)

原著論文の著者・所属:Philipp Höfler(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Josephine Schlosser-Brandenburg(Methodology and Research Infrastructure, Animal Experimental Research and 3R (MF3), Robert-Koch-Institute, Berlin, Germany)、Arkadi Kundik(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Sebastian Rausch(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Eva-Maria Saliu(Department for Landscape, Society and Economy, University of Applied Science for Sustainable Development, Eberswalde, Germany)、Larissa Oser(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Anja A. Kühl(Charité Universitätsmedizin Berlin, Corporate Member of Freie Universität Berlin and Humboldt-Universität zu Berlin, iPATH.Berlin, Core unit of Charité, Campus Benjamin Franklin, Berlin, Germany)、Robert M. Mugo(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Robert M. Mugo(Kenya Medical Research Institute (KEMRI), KEMRI-Wellcome Trust, Kilifi, Kenya)、Alexandra Laubschat(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Zaneta Musimbi Kidiavai(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Ankur Midha(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Robert Klopfleisch(Department of Veterinary, Institute of Veterinary Pathology, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Jürgen Zentek(Department of Veterinary Medicine, Institute of Animal Nutrition, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)、Susanne Hartmann(Department of Veterinary Medicine, Institute of Immunology, Centre for Infection Medicine, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany)