著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
報告の目的
体重を減らしたいという思いから、ダイエット用のサプリメントを使う人は少なくありません。著者らは、減量用製品の効果は科学的な裏付けが十分でないと指摘しています。また、臨床データや研究が限られているため、副作用も明らかになっていないとしています。さらに、規制を受けていない製品や偽造品がサプリメント市場で増えているという世界的な傾向にも触れています。
緑茶の葉はサプリメントの成分としてよく知られています。主なカテキンであるエピガロカテキンガレート(EGCG)は、脂肪を減らす目的の製品にも広く使われています。これまで緑茶抽出物の副作用として注目されてきたのは、主に肝臓への害(肝毒性)でした。一方、EGCGはむしろ膵臓を守る方向の作用が報告されてきた成分でもあります。この論文は、緑茶カテキンを含むサプリメントを2週間、水以外には食べ物も薬もとらずに摂取していた患者に、重症の急性膵炎が起きた1例を報告するものです。
症例の経過
患者は36歳の女性で、うつ病と間欠性爆発性障害の既往がありました。体格指数(BMI)が27であったことから、これまで何度も減量を試みていました。受診の2週間前からは、1日量あたり300mgの緑茶カテキンを含むサプリメントを使い始めました。この期間、水とそのサプリメント以外は、食べ物も薬も口にしていなかったといいます。
受診のおよそ1週間前から全身のだるさが現れました。直近3日間には、合わせて5リットルを超える水を飲んでいました。救急外来に着いた時点では意識がぼんやりして話し方も不明瞭で、血圧は低めでした。腹部は張っており、右上腹部に押すと痛む所見がありました。
血液検査では、肝臓の酵素と膵臓の酵素がいずれも大きく上昇していました。血液中のナトリウムも大きく低下していました。ウイルス感染の指標や血中脂質には目立った異常がなく、CT検査でも胆石や胆管の結石は見つかりませんでした。CTでは膵臓の腫れや周囲への炎症の広がりが認められ、重症急性膵炎に相当すると判断されました。肝臓にも、重い脂肪肝または中毒性肝炎の可能性を示す所見がありました。
薬剤による肝障害の因果関係を評価する指標(RUCAM)では、「関連の可能性が高い」とされる点数が得られました。医療チームは、摂取した物質による急性膵炎と、中毒性肝炎の合併の疑いと診断しました。精神科の診察では、意図的な過量摂取ではなく、減量のための不適切な摂取によるものと判断されました。
治療として、点滴による水分補給、感染予防のための抗菌薬投与、最初の10日間の点滴による栄養補給が行われ、精神科的な支援も並行して行われました。症状と検査値は改善し、患者は入院から15日後に目立った合併症なく退院しました。3か月後の外来受診でも、遅れて現れる後遺症は見られなかったと報告されています。
著者らの考察と限界
薬や物質が原因の膵炎は診断が難しい病態です。ほかの原因を除外し、人での症例報告を検討し、再び摂取したときに症状が再現するかどうかを確かめる必要があります。著者らは、この症例は、ほかに摂取したものがなかったという明確な状況とほかの原因の除外に基づくものだとしています。そのうえで、カテキンによる膵炎という新しい知見を示すものだと位置づけています。著者らによれば、人でEGCGによる膵臓への毒性を証明した臨床研究はこれまでありません。
EGCGは膵臓を保護する作用が知られている成分です。この症例はそれと逆の結果になっており、なぜこのようなことが起きたのか、正確な仕組みは突き止められませんでした。著者らは仮説として、長期間の絶食や脱水、代謝の変化がEGCGの毒性を強めた可能性を挙げています。具体的には、高用量で生じる酸化を促す作用が考えられるとしています。また、絶食によって、膵臓の細胞が自らの成分を分解・再利用する仕組み(オートファジー)が乱れることも挙げています。過去の研究でも、空腹時にはEGCGの毒性がより強く現れることが報告されています。
一方で、この報告には限界もあります。倫理的な理由から再摂取による確認は行われていません。そのため、薬剤性膵炎の分類上は確実性が高い区分には位置づけられていません。血液中のEGCG濃度も測定されておらず、肝生検による確定診断も行われていません。また、これは1人の患者についての報告です。著者らは、緑茶をよく飲むアジアでは同様の例が見過ごされている可能性を挙げています。そのうえで、この毒性のパターンを裏付けるにはさらなる証拠と臨床経験が必要だとしています。
この報告が示すこと
この症例報告は、一般に膵臓を守ると考えられてきた緑茶カテキンについて、膵炎が起こりうる可能性を示しています。この患者は、絶食しながらサプリメントだけを摂取していました。著者らは、空腹時の摂取を避けるといったEGCG製品への注意表示を提言しています。また、こうした副作用の可能性について、医療者の理解を深めることも求めています。「天然」とうたわれる減量用サプリメントでも、使い方によっては重い健康被害と結びつきうることを伝える報告です。
原著論文の著者・所属:Yeonwoo Kim(Department of Emergency Medicine, CHA Gumi Medical Center, CHA University, Gumi, Republic of Korea)、Woo Young Nho(Department of Emergency Medicine, Keimyung University Dongsan Hospital, Daegu, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yeonwoo Kim, Woo Young Nho. Severe acute pancreatitis and toxic hepatitis after solitary dietary supplement ingestion: A case report. Medicine 2026-08-07. DOI: 10.1097/md.0000000000050060. 原著ライセンス:CC BY.