著者の所属・活動拠点の国は、チュニジアです。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられがちな種を素材として生かす

ナツメヤシの実(デーツ)を加工すると、大量の種が副産物として残ります。種にはフェノール酸やフラボノイド、縮合型タンニンなど、抗酸化作用と関連づけられる植物成分(ポリフェノール類)が含まれますが、十分に活用されていません。研究チームは、農業・食品加工の副産物を価値ある素材に変える循環型の取り組みの一環として、チュニジア産デーツの種に注目しました。

著者らによると、こうした成分は取り出すだけでは不十分で、その後の加工や保存の間に失われやすいという課題があります。そこで本研究では、環境負荷の小さい抽出法で成分を取り出す工程と、それを粉末に閉じ込めて安定させる工程を組み合わせ、保存中や模擬的な消化の過程で成分がどの程度残るかを調べました。

三つの抽出法を比べ、粉末に閉じ込める

研究チームは、デーツ加工会社から提供された種の粉末を水に混ぜ、三つの方法で成分を抽出しました。超音波の振動で植物組織を崩して成分を溶け出させる「超音波抽出」、密閉容器内で圧力と温度を上げる「高圧オートクレーブ抽出」、そして超音波抽出の後に高圧抽出を行う組み合わせ処理です。それぞれの抽出液について、ポリフェノール総量、フラボノイド総量、縮合型タンニン量、抗酸化活性を測定しました。

次に、良好な結果を示した抽出液をアルギン酸とキサンタンガムを混ぜた液に加え、熱風の中に霧状に吹き付けて短時間で乾燥させる「噴霧乾燥」で粉末にしました。成分をこうした素材で包む処理をカプセル化と呼びます。カプセル化した粉末と、していない粉末を、光の当たる条件・暗所・25℃・40℃で14日間保存して比較しました。さらに、口・胃・腸の段階を試験管内で再現する標準化された消化試験(INFOGEST 2.0)にかけ、成分がどれだけ残るかを調べました。

高圧抽出が最も多く成分を回収し、カプセル化で保存中の減少が抑えられた

抽出の比較では、高圧抽出(30分)のポリフェノール総量が没食子酸に換算した値で約133.7 mg/gと最も多く、超音波抽出(30分)の約31.7 mg/g、組み合わせ処理の約63.8 mg/gを上回りました。フラボノイドとタンニンでも同様の傾向でした。超音波処理を前に加えると高圧抽出の効果が高まるという相乗効果は、今回の結果からは支持されませんでした。ただし著者らは、実験の組み方の都合上、組み合わせ処理は一つの特定条件として解釈すべきだとしています。抗酸化活性は測定法によって順位が異なり、一つの方法では高圧抽出が最も高く、別の方法では高圧抽出と組み合わせ処理が同程度で最も高い値でした。

保存試験では、カプセル化した粉末のほうが成分の減少が小さいという結果でした。光を当てて14日間保存すると、カプセル化していない粉末のポリフェノール総量は初期値の約77%まで減ったのに対し、カプセル化した粉末は約95%を保っていました。40℃での保存では差がさらに大きく、カプセル化していない粉末が約65%、カプセル化した粉末が約91%でした。

模擬消化試験でも、カプセル化した粉末のほうが各成分と抗酸化活性を多く保っていました。消化前のポリフェノール量に対して、腸の段階の液中で測定された量の割合(消化の過程で溶け出して利用されうる状態にある割合を示す「バイオアクセシビリティ」の指標)は、カプセル化した粉末で約66%、していない粉末で約58%と報告されています。

結果が示すことと、その範囲

この研究は、捨てられがちなデーツの種から水を使った高圧抽出で抗酸化成分を取り出し、噴霧乾燥で粉末に閉じ込めることで、保存中や試験管内の消化過程で成分が残りやすくなりうることを、実験室規模で示しました。

一方で著者らは、カプセル化がなぜ成分を守るのかという仕組みは直接調べておらず、測定値の差には成分の取り出しやすさの変化が関わっている可能性もあると述べています。また、測定は成分全体の総量を調べる方法で、個々の化合物は特定していません。保存期間は14日間に限られ、カプセル化の効率も中程度でした。今回の結果はあくまで試験管内の条件でのものであり、腸からの吸収や体内での働き、健康効果を示すものではないと著者らは強調しています。

原著論文の著者・所属:Olfa Rebai(Laboratory of EcoChemistry LR21ES02, National Institute of Applied Sciences and Technology (INSAT) University of Carthage Tunis Tunisia)、Faten Raboudi(Department of Technics, Higher Institute of Animation for Youth and Culture University of Tunis Tunis Tunisia; Laboratory of EcoChemistry LR21ES02, National Institute of Applied Sciences and Technology (INSAT) University of Carthage Tunis Tunisia)、Malek Ben Temessek(Laboratory of EcoChemistry LR21ES02, National Institute of Applied Sciences and Technology (INSAT) University of Carthage Tunis Tunisia)、Rafik Gatri(Laboratory of Selective Organic & Heterocyclic Synthesis Biological Activity Evaluation (LR17ES01), Faculty of Science of Tunis University of Tunis El Manar Tunis Tunisia)、Sami Fattouch(Laboratory of EcoChemistry LR21ES02, National Institute of Applied Sciences and Technology (INSAT) University of Carthage Tunis Tunisia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Olfa Rebai, Faten Raboudi, Malek Ben Temessek, et al. Green Extraction Coupled With Spray‐Drying Encapsulation Enhances Stability and In Vitro Bioaccessibility of Phoenix dactylifera Seed Bioactives. Food Science & Nutrition 2026-10-31. DOI: 10.1002/fsn3.72488. 原著ライセンス:CC BY.