著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、ネパールです。

掲載誌:Frontiers in Plant Physiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

環境への強さに関わる遺伝子を整理する

干ばつ、塩分、高温や低温などは、イネの生産を妨げる要因です。こうした環境ストレスへの強さには多くの遺伝子が関わり、栽培環境によっても応答が変わるため、従来の育種だけで改良を進めることには難しさがあります。著者らは、ゲノム編集を使ったイネの研究をまとめ、どのような遺伝子の働きが確かめられ、ストレスへの強さの向上につながっているかを整理しました。

この論文は、新たな栽培実験の報告ではなく、既存研究をまとめた総説です。狙ったDNAの位置を変えるCRISPR/Casなどの技術について、乾燥、塩分、温度、水没、重金属、除草剤によるストレスを対象に、成果と課題を紹介しています。

低温への強さは、どの遺伝子を変えるかで異なる

低温への耐性を扱った研究では、遺伝子の働きを失わせる編集によって、寒さに強くなる例と、逆に弱くなる例が報告されています。総説で紹介されたOsNAC50の研究では、この遺伝子の働きを失わせると、抗酸化酵素の活性や光合成の効率、糖の代謝が高まり、低温耐性が向上しました。また、OsPIN5b、GS3、OsMYB30を同時に編集した研究では、穂が長く、粒が大きく、低温耐性も高い系統が得られたと報告されています。

一方、OsPRP1の働きを失わせたイネでは、低温下の生存率と根の量が低下しました。著者らは、耐性を抑える遺伝子の働きを止めることと、耐性を支える遺伝子を見つけることを区別しています。遺伝子を壊して寒さに弱くなったという結果は、その遺伝子の重要性を示しますが、それだけで耐性の高いイネが作れたことにはなりません。

個々の遺伝子から、つながった仕組みへ

著者らが総説全体から示したのは、環境ストレスへの強さが、独立した遺伝子一つだけで決まるわけではないという点です。細胞に損傷を与えうる活性酸素の量を調節する仕組み、植物ホルモンによる情報伝達、塩類などのイオンの輸送といった仕組みが結びついています。そのため、一つの調節因子を変えることが複数の生理機能に影響し、複数のストレスへの耐性につながる場合もあると整理しています。

ただし、まとめられた研究の多くは、管理された環境で、苗に一種類のストレスを与えて遺伝子の働きを確かめたものです。複数の季節や場所で評価された編集系統は少なく、ストレスのない条件での収量や米の品質も十分には調べられていないと著者らは述べています。この総説は、ゲノム編集がイネの耐性を支える仕組みの解明と改良に役立っている一方、実験で示された耐性の向上と、栽培現場での安定した生産性は分けて捉える必要があることを伝えています。

原著論文の著者・所属:Dipak Khanal(Department of Soil and Crop Sciences, Texas A&M University)、Sandeep Chapagain(Department of Science, Technology and Mathematics, Lincoln University of Missouri)、Shubh Pravat Singh Yadav(Agronomy Department, Institute of Food and Agricultural Sciences, University of Florida)、Kabita Poudel(Department of Agronomy and Plant Genetics, University of Minnesota)、Nishma Dhakal(Department of Horticultural Sciences, Texas A&M University)、Laxmi Prasad Joshi(Department of Plant Pathology, University of Georgia)、Dhurba Banjade(Institute of Agriculture and Animal Science, Tribhuvan University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dipak Khanal, Sandeep Chapagain, Shubh Pravat Singh Yadav, et al. Engineering rice for enhanced abiotic stress tolerance using genome editing. Frontiers in Plant Physiology 2026-11-02. DOI: 10.3389/fphgy.2026.1969774. 原著ライセンス:CC BY.