著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、アメリカです。
掲載誌:Chemistry & biodiversity
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
糖尿病は、体がインスリンを十分につくれない、またはうまく使えないために血糖値が高い状態が続く病気です。長く続くと心臓、血管、目、腎臓、神経などに障害が起こります。治療薬には副作用などの限界があることから、糖尿病に働きかける天然素材の研究が続けられています。
その候補の一つがパッションフルーツ(学名パッシフローラ・エデュリス)です。黄色い品種と紫色の品種があり、両者は遺伝的にも含まれる成分の面でも違いがあることが知られています。動物実験では血糖を下げる作用が多く報告されてきました。しかし研究ごとに、品種、使う部位(果皮、葉、果肉など)、抽出方法が異なり、成分の分析もされていないことが多いため、結果を比べにくい状況でした。また、どのような仕組みで働くのかもよく分かっていませんでした。
そこで著者らは、糖尿病の動物モデルでパッションフルーツがどのような影響を示したかを、系統的レビューで整理しました。系統的レビューとは、決められた手順で関連論文を網羅的に集め、一定の基準で評価する方法です。
何を調べたか
研究チームは五つの主要な文献データベースを、出版年や言語の制限を設けずに検索しました。採用した論文の参考文献リストも確認しています。対象は、パッションフルーツのいずれかの部位を糖尿病の動物に与えた生体での前臨床研究に限りました。ヒトでの臨床研究、試験管内の実験、総説などは除外しています。選定とデータの抽出は二人の評価者がそれぞれ行い、意見が分かれた場合は三人目が判断しました。
最終的に、2004年から2025年に発表された22件の研究を分析しました。ほとんどの研究はラットを使っており、オスの動物が中心でした。糖尿病を起こさせる方法としては、アロキサンという薬剤を使う研究が最も多くありました。使われた部位は果皮が半数の11件で最も多く、葉、果肉と続きます。研究間で動物モデル、材料、抽出法、投与量、評価項目のばらつきが大きいため、複数の研究の数値をまとめて統計的に統合するメタ解析は行っていません。
あわせて、動物実験向けの評価ツール(SYRCLE)を使い、各研究の結果が偏る危険性も評価しました。
主な結果
最も多く調べられていたのは、血糖値やHbA1c(過去数か月の血糖状態を反映する指標)など血糖コントロールに関する項目で、22件中18件が評価していました。この目的で最もよく使われた部位は果皮でした。次に多く報告された結果は脂質の改善で、9件がコレステロールや中性脂肪の低下などを報告していました。8件では、細胞を傷つける活性酸素の抑制や、体内の抗酸化酵素の働きの増強といった抗酸化作用が報告されていました。
成分分析は8件でのみ行われていました。最も多く見つかった成分群はフラボノイドで、オリエンチンやビテキシンなどが含まれます。著者らは、果皮、特に水で抽出したものが血糖コントロールで最も有望だとしています。果皮に多い水溶性の食物繊維ペクチンが作用の中心である可能性を挙げつつも、ペクチンを含まない抽出物や葉、果肉でも血糖低下が報告されていることから、フラボノイドなど他の成分も関わっていると考察しています。
著者らは、腸での糖の吸収を遅らせる作用や、細胞内の代謝やインスリンの情報伝達に関わる経路への作用などを組み合わせた仮説的な作用モデルも示しました。ただし論文は、これらの仕組みの多くは対象研究で直接確かめられたものではなく、他の文献から推定したものだと明記しています。
研究の意味と注意点
偏りの評価では、どの動物をどの群に割り当てたかを隠す手順や、実験者に投与内容を伏せる盲検化が、22件すべてで不十分と判定されました。著者らは、これにより効果が過大に見積もられている可能性を指摘しています。さらに、半数近くの研究が品種を明記していないこと、成分分析が不足していること、投与量や手順がそろっていないこと、安全性が系統的に評価されていないことも、課題として挙げています。
このレビューは、パッションフルーツ、とりわけ普段は捨てられることの多い果皮が、動物実験で血糖や脂質、酸化ストレスに好ましい変化を示してきたことを整理したものです。同時に、その根拠はまだ動物実験の段階にあり、研究方法のばらつきが大きいことも明らかにしています。期待される作用と、まだ確かめられていない点を区別して示したことが、この研究の意味といえます。
原著論文の著者・所属:de Farias LRT(Department of Pharmacy, Federal University of Rio Grande do Norte, Natal, Rio Grande do Norte, Brazil.)、Sarandy MM(Department of Animal Sciences, Plants for Human Health Institute, NC Research Campus, NC, State University, Kannapolis, North Carolina, USA.; Department of General Biology, Federal University of Viçosa, Viçosa, MG, Brazil.)、Gonçalves RV(Department of Animal Sciences, Plants for Human Health Institute, NC Research Campus, NC, State University, Kannapolis, North Carolina, USA.; Department of General Biology, Federal University of Viçosa, Viçosa, MG, Brazil.)、Tavares EA(Department of Pharmacy, Federal University of Rio Grande do Norte, Natal, Rio Grande do Norte, Brazil.)、Zucolotto SM(Department of Pharmacy, Federal University of Rio Grande do Norte, Natal, Rio Grande do Norte, Brazil.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):de Farias LRT, Sarandy MM, Gonçalves RV, et al. A Systematic Review of Antidiabetic Mechanisms of Passiflora edulis: Beyond Glycemic Control. Chemistry & biodiversity 2026-10-01. DOI: 10.1002/cbdv.71700. 原著ライセンス:CC BY.