魚介や海藻を醤油とみりんでじっくり煮詰めた「佃煮」は、日本の食卓に古くから根づいた保存食のひとつです。デンマークのコペンハーゲン大学食品科学部門に所属する研究者が、この佃煮という調理法・保存法を食のサイエンスの視点から整理した総説論文を発表しました。掲載誌はインターナショナル・ジャーナル・オブ・ガストロノミー・アンド・フード・サイエンスで、2026年8月に掲載予定です。
この論文は日本の伝統的な食文化である佃煮そのものをテーマにしており、内容全体が日本の食習慣に関わるものです。著者自身が日本の研究機関に所属しているわけではありませんが、佃煮という日本発祥の保存食の文化史・製法・食材の多様性を扱った研究として、日本との関わりが深い内容になっています。
佃煮とは何を、どう保存する食べ物なのか
論文では、佃煮を「醤油とみりん(甘い米酒)、あるいは砂糖で煮詰めることで、さまざまな食材を調理しながら保存する伝統的な日本の方法」と位置づけています。対象となる食材は幅広く、小魚、貝類(ムール貝など)、海藻、きのこ、昆虫、山菜、そして場合によっては肉まで及ぶとされています。こうして作られた佃煮は、そのままスナックとして食べられるほか、調味料や小さな副菜として食事に添えられる存在であると説明されています。
味・香り・食感はどのように生まれるのか
論文が注目しているのは、佃煮が食事にもたらす複合的な感覚体験です。まず味の面では、甘味・旨味・塩味の三つが組み合わさっていると述べられています。香りについては、砂糖やみりんが加熱される過程で起こるカラメル化反応、そして醤油などに含まれる成分が加熱されることで生じるメイラード反応による香気成分が寄与しているとされます。食感に関しては、煮詰まった際にできる粘り気のあるカラメル状の質感と、じっくり煮込まれた元の食材そのものの柔らかさが影響しており、素材によっては歯ごたえのある食感も生まれると説明されています。
現代の料理への応用と「無駄を出さない」という視点
論文はさらに、佃煮が伝統的な用途だけにとどまらない可能性にも触れています。具体的には、植物性食材を中心とした現代的な料理(プラントフォワード料理)への応用例が紹介されており、佃煮を植物由来の食材と組み合わせる調理例が示されています。この文脈で著者は、食材を無駄にしないという「ノーウェイスト」の考え方とも関連づけて佃煮を論じています。もともと小魚や海藻など多様な素材を余さず活用する保存法である佃煮の性質が、食品ロス削減という現代的な課題とも結びつく可能性が示唆されている、と理解できます。
この研究をどう読むか
この論文は、実験によって特定の効果を検証したものではなく、佃煮という食文化・調理法についての知見を整理し紹介する総説(フィーチャー記事)です。そのため、健康への効果や栄養価について定量的な結論を示すものではなく、あくまで文化的背景、製法、食材の多様性、味や香りの成り立ち、現代的な応用例をまとめた内容である点に注意が必要です。一つの総説としてこの分野の見取り図を提供するものであり、佃煮の効能や優劣を断定するものではありません。
まとめ
この論文は、醤油とみりん(または砂糖)で煮詰めるという日本の伝統的な保存法である佃煮について、使われる食材の幅広さ、甘味・旨味・塩味が重なり合う味わい、カラメル化やメイラード反応による香り、そして粘りと柔らかさが特徴の食感までを整理し、現代の植物性食材を活かした料理や食品ロス削減という視点との接点も紹介しています。佃煮という身近な保存食を、食文化と食科学の両面から見直すきっかけになる内容といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ole G. Mouritsen. Tsukudani―salt-sweet-savoury preservation. インターナショナル・ジャーナル・オブ・ガストロノミー・アンド・フード・サイエンス (2026). DOI: 10.1016/j.ijgfs.2026.101624. 原著ライセンス: cc-by.