この研究は、ブルガリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Materials (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
食品を守る包装材には、外からの汚れや衝撃を防ぐ役割に加えて、近年は中身に働きかける「活性包装」としての機能が期待されています。活性包装とは、包装材そのものが微生物の増殖を抑える成分を放出したり、余分な水分や酸素を取り除いたりするしくみを備えたものです。研究チームは、この抗菌成分として天然物であるプロポリスを使えるかどうかに着目しました。プロポリスはミツバチが集めた樹脂などからつくる物質で、フラボノイドやフェノール酸を多く含み、さまざまな微生物の増殖を抑える働きが報告されています。
著者らが設定した目的は、ブルガリアの異なる地域で採取されたプロポリスの抽出液で紙を処理し、食品包装材としての利用可能性を評価することでした。紙は生分解性があり、成分を染み込ませる担体としても使えるため、研究チームは紙を土台に選んでいます。
何をどのように調べたか
用意されたプロポリスは3種類です。1つはブルガリア北東部で採取され30年間保管されていた試料、もう1つは2023年に中央部で採取された試料、残る1つは2023年に北東部で採取された試料でした。論文によれば、これら3試料の成分構成には差があり、たとえばフラバノン・フラボン類の割合は30年保管の試料で74.85%、中央部の2023年産で55.38%、北東部の2023年産で35.85%と報告されています。著者らは、この違いは採取地、採取年、保管期間の違いによると説明しています。
抽出は70%エタノールを溶媒とし、プロポリスと溶媒の比を1対7、温度20度、暗所で7日間という条件で行われました。紙のほうは、針葉樹と広葉樹の漂白クラフトパルプを80対20で混ぜたものを使い、パルプのみの試料と、サイズ剤などを加えて水をはじきやすくした基材紙の2種類が準備されました。紙は5センチ角に切って抽出液に1分間浸し、乾かしてから、吸収された抽出液の量が計算されています。
抗菌性の試験には、グラム陽性菌の黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌・セレウス菌、グラム陰性菌の緑膿菌、酵母のカンジダ・アルビカンス、カビのフザリウムが用いられました。処理した紙に微生物の懸濁液を広げ、室温で最長120時間まで、コロニー(微生物の集まり)の数の変化を追い、抽出液を塗っていない紙を対照として比較しています。
報告された主な結果
紙に吸着した抽出液の量は、3試料の平均でおよそ1.04ミリグラム毎平方センチメートルでした。著者らは、この結果から紙がプロポリス抽出液を保持する担体として適していると述べています。走査電子顕微鏡による観察では、紙の表面の孔が薄い被膜で均一に覆われ、ひび割れや塗りむらは認められなかったと報告されています。
抗菌効果は接種直後(24時間)の段階から確認され、48時間後、120時間後にも見られました。論文では、試験したすべての微生物に対する全体の効率が、30年保管の試料で99.82%、中央部の試料で99.35%、北東部の2023年産試料で99.37%と報告されています。個別に見ると、グラム陰性菌である緑膿菌に対する抑制率はそれぞれ98.9%、96.1%、96.2%でした。中央部産と北東部産の抽出液で処理した紙の効率に差が見られたのは、24時間の時点で緑膿菌に対してのみだったとされています。
紙そのものの性質については、サイズ剤と保持剤を加えた基材紙が、パルプのみの試料に比べて引張指数や引裂指数などの強度で高い値を示しました。なお著者らは、プロポリス抽出液で処理した後の紙の物性評価は今後の課題として残されていると記しています。
この研究が示すこと
著者らは、採取地や保管期間が違ってもプロポリスの主要成分は量の差はあれ共通して含まれており、その一貫性が活性包装材への応用にとって重要だと述べています。処理効率が90%を超えたことから、プロポリスは抗菌性の活性包装材に組み込む素材として大きな可能性を持つ、というのが論文の結論です。
同時に著者らは、実際に食品包装として使うには、食品接触材料に関する法規制への適合や製造管理の指針をふまえた総合的な検討が必要だと指摘しています。プロポリスには独特の味と香りがあるため、包装される食品の風味に影響しないかを確かめる官能評価も欠かせないとされ、これらは今後の検討課題として挙げられています。
著者:Damyanova S(Department of Biotechnologies and Food Technologies, University of Ruse "Angel Kanchev", Razgrad Branch, 7200 Razgrad, Bulgaria.)、Georgieva D(Department of Biotechnologies and Food Technologies, University of Ruse "Angel Kanchev", Razgrad Branch, 7200 Razgrad, Bulgaria.)、Kostova I(Department of Biotechnologies and Food Technologies, University of Ruse "Angel Kanchev", Razgrad Branch, 7200 Razgrad, Bulgaria.)、Nikolova I(Department of Biotechnologies and Food Technologies, University of Ruse "Angel Kanchev", Razgrad Branch, 7200 Razgrad, Bulgaria.)、Prodanova-Stefanova V(Technical Faculty, South-West University "Neofit Rilski", 2700 Blagoevgrad, Bulgaria.; Sliven Faculty and College, Technical University of Sofia, 8800 Sliven, Bulgaria.)、Dimitrov I(Department of Engineering Technology and Metal Cutting Machines, University of Ruse "Angel Kanchev", 7017 Ruse, Bulgaria.)、Stoyanova A(Department of Tobacco, Sugar, Vegetable and Essential Oils, University of Food Technologies, 4002 Plovdiv, Bulgaria.)、Todorova D(Department of Pulp, Paper and Printing Arts, Faculty of Chemical Technology, University of Chemical Technology and Metallurgy, 1797 Sofia, Bulgaria.)、Yavorov N(Department of Pulp, Paper and Printing Arts, Faculty of Chemical Technology, University of Chemical Technology and Metallurgy, 1797 Sofia, Bulgaria.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Damyanova S, Georgieva D, Kostova I, et al. Effect of Ethanol Extract of Propolis on Paper Packaging Material. Materials (Basel, Switzerland) 2026-09-21. DOI: 10.3390/ma19184016. 原著ライセンス:CC BY.