著者の所属・活動拠点の国は、リトアニアです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
塩分は、世界的に作物生産を制限する大きな環境要因です。一方で、塩分のある環境でも育つ「塩生植物」と呼ばれる植物があります。そのうち「条件的塩生植物」は、本来は塩分のない条件でよく育つものの、塩分のある条件にも適応できる植物です。研究チームによると、こうした植物は特に中程度の塩分のもとで、生育に直接必要な物質以外の成分をつくる代謝(二次代謝)を高めることがあり、温度や湿度などを管理した屋内で作物を育てる「制御環境農業」での活用が期待されています。
ただし、食用になる条件的塩生植物が水耕栽培でどの程度の塩分まで耐え、代謝がどこで切り替わるのかは、はっきりしていませんでした。著者らは特に、ヒユ科のジャイアントアカザ(Chenopodium giganteum)について、管理された環境で塩分を変えて育てた研究が見当たらないと指摘しています。そこで研究チームは、このジャイアントアカザとハゲイトウの仲間(Amaranthus tricolor)を、塩分濃度の異なる水耕液で育て、生育、抗酸化活性、糖や有機酸などの成分を比べました。
どのように調べたか
研究チームは市販の種子をロックウールで発芽させ、養液で育てた苗を、水を張った容器に根を浸して育てる水耕方式に移しました。水耕液には食塩(塩化ナトリウム)を0、150、300ミリモーラー(mM)の3段階の濃度で加え、0mMを塩を加えない対照としました。各濃度について3つの水槽を用意し、1つの水槽に10株を植えています。栽培は昼22℃、夜18℃、湿度約65%に保たれた部屋で行われました。
調べた項目は、生存率、葉の面積、地上部の乾燥重量、成長速度、葉の面積あたりの重さなどの生育指標と、地上部に含まれる糖や有機酸の量です。さらに、性質の異なる2種類の試験法で抗酸化活性(物質を酸化させる働きを打ち消す力)を測り、ポリフェノールなどのフェノール化合物の総量も調べました。
主な結果
生育の差がはっきり表れたのは生存率でした。ハゲイトウの仲間の生存率は、300mMで50%に下がりました。これに対し、ジャイアントアカザはすべての塩分濃度で100%生き残りました。300mMで対照と比べると、葉の面積はハゲイトウの仲間で94.6%、ジャイアントアカザで76.1%減り、地上部の乾燥重量はそれぞれ51.1%、26.6%減りました。一方、葉の面積あたりの重さは両種とも増え、面積のわりに重い葉になる方向へ変化しました。なお、300mMでのハゲイトウの仲間の測定値は、生き残った半数の株だけにもとづくと著者らは注意を促しています。
成分では、ブドウ糖と果糖が両種とも塩分が濃くなるほど増えました。300mMでは、ハゲイトウの仲間のブドウ糖はジャイアントアカザの1.8倍、果糖は1.5倍でした。また、ラフィノースという糖は、ジャイアントアカザでは塩分を加えた条件でのみ検出されました。有機酸の変化は種によって異なりました。ハゲイトウの仲間ではリンゴ酸が300mMで6.3倍に増えました。ジャイアントアカザではシュウ酸が150mMで最も多くなり、300mMでは減りました。
抗酸化活性のうち、DPPHと呼ばれる試験法で測った値は、両種とも塩分が濃くなるにつれて高まりました。もう一つのFRAPという試験法では、ハゲイトウの仲間は150mMで58.1%上がったあと300mMで下がり、ジャイアントアカザはどの濃度でもほぼ同じでした。フェノール化合物の総量は、塩分による有意な変化が見られませんでした。
研究が示すこと
この研究は、同じ条件的塩生植物であっても、水耕液の塩分に対する生育と成分の反応が種によって大きく異なることを示しました。ジャイアントアカザは高い塩分でも全株が生き残り、生育の落ち込みも比較的小さかったことから、著者らはより高い耐塩性をもつと結論づけています。ハゲイトウの仲間は、高い塩分で糖を多くため込む反応が目立ちました。
また著者らは、両種とも150mMでは生き残り、生育指標が300mMより比較的安定していた点を重要な結果として挙げています。ただし、この濃度範囲が管理された環境での栽培に有効かどうかは、さらに調べる必要があるとしています。塩分の強さに応じて植物の形や成分がどう変わるのかを具体的に示したことが、この研究の意義といえます。
原著論文の著者・所属:Ayesha Khan(Lithuanian Research Centre for Agriculture and Forestry, Kėdainiai, 58344, Lithuania)、Audrius Pukalskas(Lithuanian Research Centre for Agriculture and Forestry, Kėdainiai, 58344, Lithuania)、Giedrė Samuolienė(Lithuanian Research Centre for Agriculture and Forestry, Kėdainiai, 58344, Lithuania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ayesha Khan, Audrius Pukalskas, Giedrė Samuolienė. Physiological and biochemical responses of facultative halophytes to differential hydroponic solution salinities. Scientific Reports 2026-10-30. DOI: 10.1038/s41598-026-78561-8. 原著ライセンス:CC BY.