著者の所属・活動拠点の国は、フランス、イタリア、スウェーデンです。
掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:生物多様性を活かした食の価値を「見える」ようにする
欧州の研究プロジェクトDIVINFOODは、古くからの穀物や、あまり食べられなくなった豆類など、多様な作物を食品や畑、景観の中で活かすことを目指しています。こうした作物は報告書の中で「顧みられず十分に活用されていない作物(NUCs)」と呼ばれています。この報告書は、その活用による価値を評価するための道具をまとめた「バリュエーション・ツールボックス」を紹介するものです。
著者らによると、この取り組みは二段階で計画されました。第一段階では、農業の生物多様性を活かすことで生まれる利点のうち、消費者が食品を選ぶ際に重視するものを「生物多様性利用基準」として整理しました。2025年に、デンマーク、フランス、ハンガリー、イタリアの7つの「リビングラボ」(生産者や消費者などが参加して実践的に課題に取り組む場)で、消費者がこれらの基準を順位づけしました。その結果、健康・栄養面の利点、地元の農家と地域経済への支援、環境全体への利点、生物多様性そのものの価値、景観の美しさと文化的遺産、気候変動への強さ、という6つの基準がこの順に並びました。
第二段階にあたる本報告書の目的は、この6つの基準を、プロジェクトの参加団体が開発・運用してきた既存の評価ツールに組み込んだ作業を示すことです。あわせて、それらの作業を、生産者や消費者がすでに使っている評価ツール全体の中に位置づけることも目指しています。
何を行ったか:食品データベース、参加型認証、消費者向けアプリ
一つ目の対象は、市民が協力して世界中の食品情報を集める無料・公開のデータベース「Open Food Facts」です。運営団体は、多言語で整備された原材料の分類体系に、DIVINFOODで特定したNUCsをすべて追加しました。たとえばグラスピー(ガラスマメ)は、10言語での名称とラテン語の学名で認識されます。さらに、製品がNUCsを含むかどうかを示すデータ項目を新設し、ほかのアプリやデータベースからも共通の公開形式で読み取れるようにしました。また、該当する製品をアプリで読み取ったりウェブサイトで閲覧したりすると、「農業の生物多様性に良い」という情報パネルが表示される仕組みも作りました。報告書によると、このパネルの文章は6つの基準すべてに触れており、選ぶその瞬間に消費者へ届くよう設計されています。
二つ目は「参加型保証システム(PGS)」です。PGSは、第三者機関の監査ではなく、関係者自身の参加と信頼、知識の共有にもとづいて生産者を認証する、地域に根ざした品質保証の仕組みです。フランス・リヨンのリビングラボでは、生産者と料理人をつなぐ団体mes Producteurs mes Cuisiniersが、フランス国立農業・食料・環境研究所(INRAE)とともに、2026年1月から3月にかけて4回のワークショップを開きました。そこで、理念を示す憲章、点検可能な要件を定めた技術基準、現地訪問で使う評価チェックリスト、運営のための事業モデルを作成しました。技術基準には、農業の生物多様性の利用から得られる利点を確認する項目があり、その6つの細目は6つの生物多様性利用基準と一対一で対応しています。この方法は、フランスのオクシタニー地方とハンガリーのリビングラボでも再現される予定と報告されています。
三つ目は消費者向けの評価アプリです。ハンガリーの「Conscious Consumer」アプリは、包装食品の原材料表示を読み取った際にNUCsや豆類、穀物を認識し、前向きなメッセージを返すようになりました。レシピ機能では、これらの作物の調理法も紹介しています。一方、デンマークで更新を予定していた食品スキャンアプリは運用を終えていたため、その部分の作業は実施できなかったと著者らは記しています。
主な結果:登録製品の増加と、既存ツールにおける基準の乏しさ
プロジェクト期間中に、Open Food Factsの協力者とプロジェクト関係者は、NUCsを含む製品を1万1,000点以上データベースに登録しました。2026年6月時点で、原材料表示のある127万287製品のうち3万3,511製品、割合にして2.6%からNUCsが検出されました。国別ではフランス、アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリアの順に多くなっています。ただし著者らは、この順位はNUCsが各国でどれだけ普及しているかではなく、主に各国がデータベースにどれだけ登録されているかを反映していると注意しています。
Open Food Factsの利用者などを対象としたオンライン調査の詳細は、別の報告書で扱われています。本報告書では、その主要な知見の一つが紹介されています。回答者が「重視する」と答えたのは健康でしたが、行動を変えるという回答と結びついていたのは、生物多様性や農村、景観といった、社会全体に関わる動機のほうでした。また、事前の知識の有無は購入の意向と関連しておらず、パネルの内容を拡充しても変化は見られませんでした。そのため著者らは、表示の置き場所や、価格・入手しやすさ・調理法と情報を結びつけることに力を注ぐほうがよいと述べています。
さらに研究チームは、リビングラボの参加者が実際に使っている評価ツールなどを調べ、27種類のツールを一覧にまとめて比較しました。その結果、既存の評価ツールには生物多様性の利用に関する基準がごく部分的にしか取り入れられていないことが示されました。著者らは、この点がプロジェクト内で行った組み込み作業の新しさと意義を裏づけていると位置づけています。なお、当初予定していた各ツールの多言語利用ガイドは、AIによる翻訳がオンラインで手軽に使えるようになったため不要と判断されました。
この報告が示すこと
この報告書は、消費者が重視する生物多様性の利点を、食品データベースの表示、地域の参加型認証、消費者向けアプリといった、食品を選び評価する身近な場面に実際に組み込んだ過程を記録しています。既存の評価ツールではこうした観点がまだ乏しいことも明らかにしており、多様な作物を活かす食の価値を人々に伝えるための具体的な手がかりを示すものといえます。
原著論文の著者・所属:Loconto, Allison(Institut National de Recherche pour l'Agriculture, l'Alimentation et l'Environnement)、Veér, Zsófia(AgriKulti)、Nagyiván, Adél(AgriKulti)、Feller, Samuel(Open Food France)、Tedesco, Jean-François(Mes Producteurs Mes cuisiniers)、Gigandet, Stéphane(Open Food Facts)、Alfréd, Szilágyi、Udvarnoki, Tünde(ACC)、Colombo, Luca(Fondazione Italiana per la Ricerca in Agricoltura Biologica e Biodinamica)、Jard, Gwenaëlle(Institut National de Recherche pour l'Agriculture, l'Alimentation et l'Environnement; EIP Purpan)、Carlsson, Georg(Swedish University of Agricultural Sciences)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Loconto, Allison, Veér, Zsófia, Nagyiván, Adél, et al. Deliverable D1.6 - Valuation toolbox. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-09-30. DOI: 10.5281/zenodo.23046142. 原著ライセンス:CC BY.