著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデンです。

掲載誌:Physiological Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

持久系の運動では、血液中の乳酸がどれだけたまるかが持久力と深く関係するとされています。同じ強さの運動で乳酸値が低く抑えられることは、持久力トレーニングによって体が適応したサインのひとつと考えられてきました。

ケールやブロッコリー、キャベツなどアブラナ科の野菜には、グルコシノレートという成分が含まれています。これが植物の酵素ミロシナーゼによって分解されると、イソチオシアネートという化合物になります。その代表がスルフォラファンです。スルフォラファンは、細胞の酸化ストレスへの対応を調節するNrf2というたんぱく質を働かせることで知られ、動物実験では運動中の乳酸の変化なども報告されてきました。研究チームは以前、ブロッコリースプラウトを1週間とり続けながら高強度のトレーニングをした人で、運動中の乳酸値が下がったと報告しています。

今回の研究の目的は、グルコシノレートを多く含む赤ケールのスプラウト(新芽)の飲料を1回飲んだときに、約3時間後の運動中の乳酸と血糖(血液中のブドウ糖)にどのような変化が出るかを、量を変えて調べることでした。

どのように調べたか

研究には18〜40歳の男女が参加し、最後まで終えたのは15人(女性11人、男性4人)でした。運動習慣はさまざまな人が含まれています。参加者は1週間おきに3回研究室を訪れ、毎回異なる飲料を飲みました。飲料は、赤ケールスプラウト37.5グラム分、75グラム分、そしてグルコシノレートをほとんど含まないアルファルファスプラウトを使った比較用の飲料(プラセボ)の3種類です。参加者には、どの飲料かは知らされていませんでした。赤ケールのスプラウトは、調べた中でグルコシノレートとスルフォラファンの含有量が最も多かったため選ばれました。

各回では、まず自転車エルゴメーターで、乳酸値がおよそ2、3、4ミリモル(mM)になるよう一人ひとりに合わせた3段階の強さで、それぞれ5分間こぎました。その後に飲料を飲み、絶食のまま3時間休んでから、同じ運動をもう一度行いました。飲む前と後の変化を、飲料ごとに比べています。3時間という間隔は、イソチオシアネートの血中濃度がおよそ3時間後に最も高くなるという先行研究の知見に基づいています。ただし、今回の研究では血中のイソチオシアネート濃度そのものは測っていません。分解を助けるため、飲む直前にミロシナーゼを多く含むブラウンマスタードの種を飲料に混ぜました。食事は試験前の数日間アブラナ科の野菜などを避け、各回で同じ内容になるよう指示されました。

主な結果

同じ運動の強さで比べると、赤ケールスプラウト飲料を飲んだあとは、プラセボより血中乳酸値が低くなりました。37.5グラムでは、2段階目の強さで平均0.2ミリモル、3段階目で0.4ミリモル低い値でした。75グラムでは3段階目で0.3ミリモル低くなりましたが、2段階目の差は統計的に明確ではありませんでした。最も軽い1段階目では、どちらの量でもはっきりした差は見られませんでした。量を増やすほど効くのではなく、中間の量で最も下がるU字型の関係が見られ、著者らの計算では乳酸値が最も低くなる量は44グラムと推定されました。

血糖については、3時間休んだあとの安静時の値が、どちらの量でもプラセボより高くなりました(プラセボ後3.9、両方の量で4.3ミリモル/リットル)。安静時の血糖が4ミリモル/リットル未満だった人は、プラセボ後が15人中10人だったのに対し、37.5グラムで4人、75グラムで2人でした。

このほか、血圧や心拍数には差がありませんでした。酸化ストレスや炎症に関わる指標とされる酵素ミエロペルオキシダーゼは、飲料を飲んだあとにわずかに低くなっていました。運動のきつさの感じ方にも違いは見られませんでした。

この研究が示すこと

著者らは、グルコシノレートを多く含む飲料を1回飲むだけで、約3時間後の中程度の運動中の乳酸や、安静時の血糖に変化が生じる可能性があると結論づけています。ただし、乳酸値が下がった仕組みは分かっておらず、論文で挙げられている説明はあくまで推測の段階です。また、乳酸値の低下が実際の運動能力の向上につながるかどうかは、この研究では調べていません。75グラムの飲料は炭水化物がプラセボの2倍だった点も、研究の限界として挙げられています。

少人数を対象に、1回の摂取で起きる短時間の反応を調べた研究ですが、身近な野菜に含まれる成分と運動中の体の反応との関係を、量の違いも含めて示した報告といえます。

原著論文の著者・所属:Fredrik Vinge(Department of Physiology, Nutrition and Biomechanics The Swedish School of Sport and Health Sciences Stockholm Sweden)、Emma Tillqvist(Department of Physiology and Pharmacology Karolinska Institute Stockholm Sweden; Department of Physiology, Nutrition and Biomechanics The Swedish School of Sport and Health Sciences Stockholm Sweden)、Oscar Horwath(Department of Physiology, Nutrition and Biomechanics The Swedish School of Sport and Health Sciences Stockholm Sweden; Department of Women's and Children's Health Karolinska Institute Stockholm Sweden)、William Apró(Department of Physiology, Nutrition and Biomechanics The Swedish School of Sport and Health Sciences Stockholm Sweden)、Filip J. Larsen(Department of Physiology, Nutrition and Biomechanics The Swedish School of Sport and Health Sciences Stockholm Sweden)、Michaela L. Sundqvist(Department of Physiology, Nutrition and Biomechanics The Swedish School of Sport and Health Sciences Stockholm Sweden)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fredrik Vinge, Emma Tillqvist, Oscar Horwath, et al. Effects of a glucosinolate‐rich beverage on blood lactate concentrations during submaximal exercise. Physiological Reports 2026-08-01. DOI: 10.14814/phy2.71081. 原著ライセンス:CC BY.