この研究は、中国、カナダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Quality and Safety

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

高尿酸血症は、体内でプリン体が分解されてできる最終産物である尿酸が血液中に過剰にたまる代謝異常です。論文によれば、成人における推定有病率はおよそ21%とされ、痛風だけでなく腎臓の機能低下や炎症性の障害とも深く関わることが知られています。ヒトの尿酸のおよそ67%は体内で作られ、残りの約3分の1は食事由来のプリン体に由来すると報告されています。

現在の治療には、尿酸を作る酵素キサンチンオキシダーゼ(XOD)を抑えるアロプリノールや、尿酸の排泄を促すベンズブロマロンなどが使われています。ただし著者らは、これらの薬に肝毒性や腎機能障害といった副作用があり、長期使用が制限される点を課題として挙げています。そこで、食べられる天然物に由来する安全で有効な成分を探す必要があるとしています。

研究チームが着目したのは、シチメンソウ(Suaeda maritima subsp. salsa (L.) Soó、論文ではJPと略記)です。ヒユ科の一年生の塩生植物で、海岸の干潟や塩性土壌、湖岸などに自生し、アジアの一部地域では若い葉や茎が野草のサラダとして食べられてきました。フラボノイド、フェノール酸、アルカロイドを豊富に含むことが先行研究で示されていますが、この植物そのものやその抽出物が尿酸の恒常性と腎臓の炎症にどう影響するかは、これまで調べられていませんでした。本研究はその点を検証し、作用の仕組みを明らかにすることを目的としています。

何をどのように調べたか

研究チームは、シチメンソウの地上部を乾燥・粉砕してエタノールで抽出し、さらに酢酸エチルで分けた画分(JP-EA)を調製しました。この抽出物に含まれる成分は、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)という、混合物中の化合物を分離して一つずつ同定する手法で調べられました。

次に、ネットワーク薬理学と分子ドッキングという計算的な手法が用いられました。前者は、成分が働きかける可能性のあるタンパク質と、高尿酸血症に関わることが知られているタンパク質を照合し、重なる部分から有力な作用点を絞り込む方法です。後者は、化合物と標的タンパク質が立体的にどう結合しうるかをコンピュータ上で計算し、結合のしやすさを評価する方法です。

これらの予測は実験で確かめられました。ヒト腎尿細管由来のHK-2細胞を使った培養実験でXODの阻害作用と尿酸輸送体の変化を調べ、さらにオキソン酸カリウムとアデニンを投与して高尿酸血症にしたマウスに、JP-EAを15、30、60 mg/(kg・日)の3用量で2週間与えました。比較対照としてアロプリノールとベンズブロマロンを与えた群も設けられ、血清中の尿酸値、腎機能の指標、炎症性サイトカイン、腎組織の病理像が測定されました。なお用量は、乾燥したシチメンソウの伝統的な1日摂取量とヒトとマウスの体表面積換算をもとに決められたと説明されています。

報告された主な結果

論文によれば、JP-EAは高尿酸血症マウスの血清尿酸値を有意に低下させ、腎機能を改善し、腎臓の炎症と線維化を和らげました。血清尿酸値の低下率は、JP-EAの15、30、60 mg/(kg・日)の各群でそれぞれ39.06%、45.87%、48.78%と報告され、用量が増えるほど下がる傾向が示されています。比較対照のアロプリノールでは74.95%、ベンズブロマロンでは53.16%でした。腎機能の指標であるクレアチニンも、JP-EAの30および60 mg/(kg・日)で有意に低下したと報告されています。

作用の仕組みについては、JP-EAが尿酸を作る酵素XODの活性を抑えたこと、尿酸を体内に再び取り込む輸送体(URAT1とGLUT9)の発現を下げ、逆に尿酸を体外へ出す輸送体(ABCG2とOAT1)の発現を上げたことが示されました。加えて、炎症に関わるMAPK/NF-κB/NLRP3という一連の情報伝達経路の働きを抑えることが、ウエスタンブロットと免疫蛍光法による解析から示されています。培養細胞の実験では、JP-EAのXODに対する半数阻害濃度(IC50、活性を半分に抑える濃度)は0.17 mg/mLで、エタノール抽出物の1.09 mg/mLより低い値でした。

成分の解析からは、ジオスメチン、ルテオリン、ケルセチンを含む5つの成分が、観察された作用を担う主要な構成成分として同定されました。分子ドッキングでは、ルテオリンがXODおよびABCG2と、ケルセチンがURAT1と結合しうることが計算上示され、細胞実験でも、ルテオリンとケルセチンがURAT1の発現を下げ、ルテオリン、イソラムネチン、ジオスメチン、タキシフォリンがABCG2の発現を上げたと報告されています。一方で、体重や腎臓重量比・肝臓重量比については、JP-EA投与群で改善の傾向はみられたものの、モデル群との差は統計的に有意ではなかったと明記されています。

この研究が示すこと

著者らは結論として、JP-EAがMAPK/NF-κB/NLRP3経路を調節することで、高尿酸血症と腎臓の炎症性障害を軽減すると述べ、機能性食品素材としての応用可能性を支持するとしています。

これまで食材として利用されながら代謝との関わりが体系的に調べられてこなかった塩生植物について、尿酸の産生と排泄の両面に関わる具体的な分子と、炎症経路への作用が同時に示された点が、この研究の位置づけと言えます。海岸の塩性土壌という限られた環境に育つ植物が持つ成分を、代謝性疾患という切り口から捉え直した報告として読むことができます。

著者:Xuanjin Li(State Key Laboratory of Marine Food Processing & Safety Control, College of Food Science and Engineering, Ocean University of China , Qingdao ,)、Shutao Sun(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Food & Nutrition Science and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences , Jinan ,)、Yingying Chen(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Food & Nutrition Science and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences , Jinan ,)、Mengqi Zhang(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Food & Nutrition Science and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences , Jinan ,)、Qidong Ren(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Food & Nutrition Science and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences , Jinan ,)、Muxuan Wang(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Food & Nutrition Science and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences , Jinan ,)、Xu Guo(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Food & Nutrition Science and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences , Jinan ,)、Chao Liu(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Institute of Food & Nutrition Science and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences , Jinan ,)、Ningyang Li(Sanya Ocean Institute, Ocean University of China , Sanya ,)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xuanjin Li, Shutao Sun, Yingying Chen, et al. Suaeda maritima subsp. Salsa (L.) Soó extract attenuates hyperuricemic renal injury by inhibiting the MAPK/NF-κB/NLRP3 pathway. Food Quality and Safety 2026-09-17. DOI: 10.1093/fqsafe/fyag077. 原著ライセンス:CC BY.