近年、人間の健康だけでなく地球環境への負荷も考慮した食事パターンとして「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」が注目されています。野菜や果物、全粒穀物、豆類を中心とし、赤身肉や砂糖を控えめにするこの食事スタイルが、実際に体のどの部分にどう関わるのかはまだ研究途上です。今回紹介する研究は、この食事パターンへの遵守度と、加齢とともに低下しやすい腎臓の機能との関連を、米国の中高年を対象に調べたものです。

研究チームはイタリアのメッシーナ大学腎臓内科・透析部門やイタリア国立高齢化研究センター(IRCCS INRCA)などに所属する研究者らで構成されています。

どのように調べたのか

解析には、米国で実施されている大規模な高齢者追跡調査「Health and Retirement Study」の参加者データが使われました。対象は50歳以上の成人2126人(男性950人、女性1176人)です。2013年に食物摂取頻度調査によってプラネタリー・ヘルス・ダイエット指数(PHDI)を算出し、2012年と2016年の2時点でシスタチンCという血液指標をもとにした推算糸球体濾過量(eGFR、腎臓が血液をろ過する能力を示す値)を測定して、その変化を追跡しています。分析では、ベースライン時点のeGFRに加え、年齢や社会経済的背景、生活習慣、既往症などの要因を調整したうえで、PHDIのスコアとeGFRの変化、および「4年間でeGFRが30%以上低下する」という腎機能の大きな悪化との関連を検討しました。さらに、この関連が男性と女性で異なるかどうかも統計的に検証されています。

わかったこと

全体で見ると、PHDIスコアが10点上がるごとにeGFRの低下がやや緩やかになる傾向が見られましたが、この関連は統計的に有意ではありませんでした(10点増加あたりの変化量0.218、95%信頼区間−0.065〜0.466)。しかし、男女別に分けて解析すると異なる結果が浮かび上がりました。女性では、PHDIスコアが10点高いごとにeGFRの低下が有意に緩やかになっており(変化量0.355、95%信頼区間0.029〜0.681、p=0.034)、腎機能が30%以上低下するリスクも20%低いという結果でした(オッズ比0.799、95%信頼区間0.687〜0.930、p=0.005)。一方、男性ではこうした関連は統計的に確認されませんでした(変化量0.080、95%信頼区間−0.294〜0.454、オッズ比1.080、95%信頼区間0.901〜1.295)。腎機能の大幅な低下との関連について、性別による違いは統計的にも裏付けられており(乗法的な検定でp=0.002、加法的な検定でp<0.001)、女性と男性とでは食事パターンと腎機能の関係が異なる可能性が示されました。

この研究をどう受け止めるか

この研究は米国の中高年を対象とした観察研究であり、食事パターンが腎機能低下の原因であると証明するものではありません。食事内容は本人の回答に基づく調査であることや、腎機能の測定が2時点に限られていることなど、観察研究に特有の制約も考慮する必要があります。著者らは、植物性食品を中心とした食事を腎臓保護の可能性がある戦略として評価する際には、性別という生物学的な要因を考慮に入れる価値があると述べています。

まとめ

今回の研究では、地球にやさしいとされる植物中心の食事パターンへの遵守度が高いほど、50歳以上の女性においては腎機能の低下が緩やかである可能性が示された一方、男性では明確な関連は見られませんでした。これは一つの研究による知見であり、結論が確定したわけではありません。今後さらに研究が積み重ねられることで、食事と腎臓の健康との関係、そしてそこに性差がどう関わるのかが明らかになっていくことが期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Guido Gembillo, Luca Soraci, Alberto Spada, et al. Sex Modifies the Association Between Planetary Health Diet Adherence and Kidney Function Decline in US Adults Aged 50 Years and Older. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18172850. 原著ライセンス: cc-by.