世界的に水産物の消費量はこの60年ほどで大きく増え、現在では人が摂取するタンパク質の約20%を魚介類が占めているとされています。海に囲まれ、広大な漁業水域と発達した養殖業を持つ国というと、水産物を自給自足できていそうなイメージがあります。ところが今回紹介する論文では、そうしたイメージとは裏腹な「パラドックス」を抱える国としてオーストラリアが取り上げられています。

広大な漁業水域を持ちながら、世界生産のわずか0.14%

この論文によると、オーストラリアは世界でも有数の広さを誇る漁業水域を持ち、養殖業も盛んであるにもかかわらず、世界の水産物生産量に占める割合はわずか0.14%にとどまるとされています。そして、国内で消費される水産物の多くを海外からの輸入に依存しているといいます。研究チームは、なぜオーストラリアの水産物消費がこれほど海外輸入にシフトしてきたのかを理解するため、同国の水産物生産の状況をレビュー(既存の知見の整理・検討)しました。

要旨で示されている範囲では、オーストラリアの水産物生産が少ない理由は一つに絞れるものではなく、いくつかの要因が重なっていると指摘されています。具体的には、海域の基礎生産力(プランクトンなど生態系の土台となる生産性)が低いこと、漁業・養殖業の運営コストが高いこと、レクリエーション目的の釣りなどによる混獲対象種の漁獲が多いこと、そして規制上の制約があることなどが挙げられています。また、市場の需要や消費者の好みも、オーストラリア国内の水産物消費のあり方を形作る重要な要素だとされています。

「低コストな水産物は海外から」が意味すること

この論文で特に注目されているのは、比較的安価な水産物の多くが海外から調達されているという点です。研究チームは、これが資源利用や環境影響、社会的な影響をめぐる、より大きな不平等のパターンを反映している可能性があると論じています。つまり、オーストラリアが直接的に引き起こしているわけではないものの、結果として水産物・養殖のサプライチェーンにおける社会経済的な不公平を後押しし、水産物生産をめぐる地理的な不平等——生産性の高い地域が世界的な需要の負担を引き受ける一方で、生物多様性が豊かな地域は保全される、という構図——に加担している可能性がある、というのがこの論文の指摘です。

この研究を読むうえでの注意点

この論文は、実際のデータを新たに収集した実証研究というよりも、既存の知見を整理・検討したレビュー論文である点に留意する必要があります。要旨の中でも、水産物の輸入に伴って生産国側に生じている環境的・社会経済的な負担を軽減することは「非常に複雑で多面的な課題」であると研究チ自身が認めています。今回紹介した内容は、あくまで一つの研究チームによる整理・考察であり、これによって議論が決着したわけではない点にご留意ください。

まとめ

今回紹介した論文は、水産資源に恵まれているはずのオーストラリアが、なぜ水産物消費の多くを輸入に頼っているのかという一見不思議な状況を切り口に、その背景にある生産コストや規制、市場の需要といった要因を整理したものです。あわせて、低コストな水産物の輸入が、生産国側の環境や人々の暮らしにどのような影響を及ぼしうるかについても論じられています。論文は、水産業・養殖業の管理において世界的にも先進的とされるオーストラリアだからこそ、国内に入ってくる水産物すべてが同様の原則や基準を満たすようにする責任がある、という指摘で締めくくられています。私たちが日々口にする魚介類が、どこでどのように獲られ、育てられているのかを考えるきっかけになる研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:オーストラリアの水産物輸入は環境・社会経済的コストを他国に外部化している(エンバイロメンタル・リサーチ・フードシステムズ・2026年08月)