真っ赤に熟した果実がジューシーな粒状の突起で覆われ、独特の食感と風味を持つヤマモモ(Myrica rubra)。中国の亜熱帯地域で広く栽培され、年間の生鮮出荷額は63億元に達するとされる果物です。収穫されたヤマモモの6割以上は生食用として、しかも高級市場向けに販売されるため、見た目の品質が売上を大きく左右します。ところが果皮が薄く硬い保護層を持たないため傷みやすく、これまでは収穫後の等級選別を人の目と手の感触に頼ってきました。この方法は主観的でばらつきが出やすく、効率も低いという課題があったといいます。今回、中国・寧波大学の研究グループが、画像とAI(深層学習)を使ってヤマモモの外観品質を自動評価する仕組みを開発し、その性能を検証した研究を報告しました。
どうやって「見た目の品質」を測ったのか
研究チームはまず、寧波市内の5つの果樹園(生育日数40日・50日・60日・70日の異なる段階)でヤマモモを採取し、一定の距離・照明条件のもとで一眼レフカメラ(Canon 200D Mark II)を用いて640×640ピクセルの画像を1350枚撮影しました。次に、この画像から個々の果実を検出するために「YOLOv11」という物体検出モデルを用いています。CSPDarknetをベースにした特徴抽出部分(バックボーン)に加え、複数スケールの特徴を統合する仕組み(SPPFブロックや双方向PANetのネック構造)を組み合わせることで、小さく密集しがちなヤマモモの粒を個別に検出できるようにしたとのことです。
検出した果実の画像はさらに、色や形などの品質を採点する「多形質スコアリングモデル」に渡されます。このモデル部分は、比較的古典的な畳み込みニューラルネットワークであるAlexNetを土台に改良したもので、SqueezeNetやMobileNetV3、ShuffleNetV2、VGG11、ResNet18/34、EfficientNet-B0という7種類の他のCNNモデルと比較したうえで採用されたと説明されています。評価対象としたのは、①果実の半径、②色の濃さ、③色のカテゴリー(濃い緑・緑・黄緑・淡い赤・濃い赤・濃い紫の6段階)、④色の均一性、⑤表面の傷や損傷の面積割合、⑥果実の充実度(ふくらみ具合)という6つの外観形質です。これらの基準スコアは、標準的なトレーニングを受けた3名の専門家が個別に採点した平均値として作成され、評価者間の一致度(フライスのカッパ係数)は0.83、2週間後に画像の一部を再採点した際の再現性は0.81だったと報告されています。
検出と採点、それぞれどの程度の精度だったか
果実検出モデル(YOLOv11)の性能は、ヤマモモのクラスについて適合率0.9991、再現率1.0000、IoU閾値0.5でのmAPが0.9950、より厳しい基準([email protected]:0.95)でも0.8632という結果が得られたとされています。実際の個体数ベースでも810個のヤマモモが正しく検出され、背景を誤ってヤマモモと判定したのはわずか3件だったといいます。ただし著者らは、この評価が270枚の検証用画像で行われたものであり、検証データとは独立した「完全な保留テストセット」は今回設けられていない点を研究の限界として明記しています。
品質スコアリングモデルについては、テスト用の48サンプルで各形質のMAE(平均絶対誤差)・RMSE(二乗平均平方根誤差)・決定係数R²が算出されました。半径や色の濃さ、色の均一性については予測値と基準値の対応が良好だった一方、表面の傷の面積割合は他の形質に比べて予測が難しく、誤差もやや大きくなる傾向が見られたとのことです。果実の充実度についても、単純に画像の縦横比だけから計算する素朴な方法(MAE=18.11、RMSE=24.92、R²=−0.4197)に比べ、AI由来の多形質モデル(MAE=10.14、RMSE=13.18、R²=0.5956)の方が明らかに精度が高かったと報告されており、著者らはこれを学習型アプローチの利点を示す一つの根拠として挙げています。また色のカテゴリー分類の正解率は97.92%(48件中47件が正しく分類)だったとされています。8種類のバックボーンモデルの比較では、パラメータ数が最も多い(6020万個)AlexNetが必ずしも計算コストが最大というわけではなく、複雑な形質(表面の傷や充実度)でも比較的安定した精度を示したとまとめられています。なお、実際の処理速度(推論のレイテンシ)については、固定されたハードウェア・ソフトウェア環境での計測記録が残されていなかったため、本研究では報告されていないと述べられています。
この研究をどう読むか
この研究は、中国・寧波市の果樹園で採取したヤマモモの画像データをもとに構築・検証されたものであり、他の産地や別の品種、あるいは撮影条件が異なる環境でも同じ精度が再現されるかは、この論文の範囲だけでは分かりません。また品質の基準スコア自体が専門家3名の目視評価に基づいて作られている点、検出モデルの評価が独立したテストセットではなく検証用データで行われている点、学習・評価が基本的に1回分の結果としてまとめられ、繰り返し実験によるばらつきの検証はなされていない点なども、著者ら自身が限界として言及しています。あくまで一つの研究段階の成果であり、実際の選果ラインでの自動化に直結すると断定できるものではありません。
今回の成果はヤマモモという小さく色や形にばらつきの大きい果実を対象に、検出から複数の品質形質採点までを一つの流れとしてつなげた点に特徴があるとされています。今後、こうした画像ベースの評価手法が精度や汎用性を高めながら、他の果物や産地でも検証されていくことが期待される分野といえそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mengting Wang, 雷立家, Hongdou Liang, et al. Image-Based Assessment of External Quality Traits in Chinese Bayberry (Myrica rubra) Using a Deep Learning Detection and Multi-Trait Scoring Framework. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15162852. 原著ライセンス: cc-by.