この研究は、台湾、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Immunology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて血糖値が高くなる状態で、中国でも重要な妊娠合併症とされています。妊娠中はインスリンが効きにくくなりますが、それを補えるだけのインスリンを膵臓が分泌できないと発症します。この代謝のバランスの崩れには、体内の炎症も関わっている可能性があると考えられています。

食事全体が炎症を促す方向に働きやすいか、抑える方向に働きやすいかを数値で表す指標として「食事性炎症指数(DII)」があります。値が高いほど、炎症を促しやすい食事と推定されます。ただし、DIIと妊娠糖尿病の関係を調べたこれまでの研究では、関連があるという報告、逆向きの関連を示す報告、関連がないという報告が混在していました。

そこで研究チームは、中国・蘇州の3つの大規模病院で妊婦を対象に、DIIと妊娠糖尿病との関連を推定しました。論文は、この研究がある一時点の状態を調べる「横断研究」であり、時間の経過を追う前向きの研究ほど強い時間的な根拠を示すものではないと述べています。

何をどのように調べたか

対象は、2025年2月から11月に蘇州大学の関連3病院で通常の妊婦健診を受けた、妊娠24〜28週の18〜45歳の妊婦です。参加者は103項目の食物摂取頻度調査票に回答し、直近3か月間に何をどのくらい食べたかを答えました。

著者らはこの回答から得られた栄養素の摂取量を使い、DIIを計算しました。本来のDIIは45の食品・栄養素の項目からなりますが、この研究では、データの単位などが対応していた26項目でDIIを算出しています。

妊娠糖尿病は、75gのブドウ糖を飲んで血糖値の変化をみる検査(経口ブドウ糖負荷試験)の値から、国際的な診断基準に従って判定されました。分析では、年齢、妊娠前の体格指数(BMI)、学歴、世帯収入、出産経験、身体活動、喫煙、2型糖尿病の家族歴、過去の妊娠糖尿病、病院などの影響を統計的に調整しました。

主な結果

主要な分析には、重複していた23件の記録を除いた1,071人が含まれ、このうち225人(21.0%)が妊娠糖尿病でした。参加者のDIIは平均0.71、ばらつきを示す標準偏差は1.13でした。

DIIの高さで参加者を4つのグループに分けると、妊娠糖尿病の割合は最も低いグループで15.7%、最も高いグループで26.5%でした。DIIが高いグループほど、野菜、果物、全粒穀物、魚介類の摂取量が少なく、精製された穀物、赤身肉・加工肉、甘い飲み物の摂取量が多い傾向がありました。論文は、これらの差は指標の構成から生じる特徴を記述したものであり、指標の炎症作用を独立に裏づけるものではないとしています。

各種の要因を調整した後、DIIが標準偏差1つ分高くなるごとに、妊娠糖尿病であるオッズ(なりやすさを表す統計上の尺度)は約1.26倍、つまり26%高いという関連が報告されました。

一方で、4グループの比較では、DIIが上がるにつれて段階的に関連が強まる傾向は統計的に確認されませんでした。また、関連が直線的でない形をとる証拠も見られませんでした。

調査票の記入日が血糖検査の当日だった人を除き、検査の1〜3日前に記入した803人に限って分析すると、関連は1.20倍に弱まり、統計的にははっきりしない結果になりました。DIIが極端に高い人や低い人を除いた分析でも、同様に関連は弱まりました。BMIや出産経験の有無による違いについても、関連の強さが異なると言える結果は得られませんでした。

この研究が示すこと

著者らは、DIIを連続的な値として扱った分析では、炎症を促しやすい食事と妊娠糖尿病との間に控えめな関連がみられたと報告しています。ただし、グループ別の比較や条件を変えた分析では結果が一貫しませんでした。

また、調査票が尋ねた食事の期間は妊娠糖尿病が生じる時期と重なっており、食事内容の測定にも限界があります。このため論文は、この結果を因果関係を示すものとも、発症を予測する目印となるものとも解釈できないと結論づけています。研究で用いたのは食事から計算した指標であり、体内の炎症を直接測ったものではありません。

この研究は、食事と妊娠糖尿病の関係について、関連の可能性を示しつつも、その不確かさをはっきり示した報告といえます。

著者:Caifeng Wang(Department of Obstetrics and Gynecology, The Fourth Affiliated Hospital of Soochow University)、Yuanyuan Yang(Department of Obstetrics and Gynecology, The Fourth Affiliated Hospital of Soochow University)、Yueming Zhang(Department of Obstetrics and Gynecology, The Fourth Affiliated Hospital of Soochow University)、Xinzhi Wang(Department of Emergency, The Second Affiliated Hospital of Soochow University)、Yueyue Sun(Department of Emergency, The Second Affiliated Hospital of Soochow University)、Mindan Xu(Department of Obstetrics and Gynecology, The First Affiliated Hospital of Soochow University)、Li Pu(Department of Obstetrics and Gynecology, The Fourth Affiliated Hospital of Soochow University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Caifeng Wang, Yuanyuan Yang, Yueming Zhang, et al. Dietary inflammatory index and gestational diabetes mellitus in a multicenter cross sectional study in Suzhou. Frontiers in Immunology 2026-10-05. DOI: 10.3389/fimmu.2026.1909211. 原著ライセンス:CC BY.