この研究は、ドイツ、ポーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
茶以外の食品でSCOBYは種菌になるのか
コンブチャは、甘くした茶を発酵させて作る伝統的な飲料です。発酵を担うのは、細菌と酵母が一緒に暮らす微生物の集まりで、SCOBY(細菌と酵母の共生培養)と呼ばれます。微生物は、発酵液の中と、液面にできるセルロースを多く含む膜の両方にすみ分けています。酵母は砂糖を分解してエタノールをつくり、酢酸菌がそのエタノールを酢酸に変えます。こうしてできた酸で液が酸性になると、多くの雑菌は増えにくくなります。
1回の植え付けで、酸の生成、エタノールの生成、多糖類の合成、ポリフェノールなどの変換が同時に起こる可能性があります。そのため、SCOBYは乳製品や大豆、穀物など、茶以外の食品の「種菌」としても関心を集めてきました。ただ、これまでのレビューの多くは原料ごとのコンブチャ飲料やその生理活性を扱っており、生きた微生物の集まりそのものを種菌としてどう評価できるかは、十分に整理されていませんでした。
そこで著者らは、生きたコンブチャ由来の微生物が茶以外の食品を直接発酵させた研究を批判的に検討するレビューをまとめました。精製したセルロースだけを使った研究、微生物を含まない抽出物などを使った研究、発酵後にコンブチャを加えただけの研究は、中心的な証拠から外しています。
文献の集め方と研究の広がり
著者らは複数の学術データベースを検索し、既存の論文の参考文献も手作業で調べました。対象としたのは、査読を経た一次研究のうち、コンブチャ由来の生きた種菌、発酵液、膜の菌体、またはコンブチャから分離した菌を組み直した共同体が、茶以外の食品を発酵させたものです。なお、この論文は複数の研究結果を統計的に統合するメタ解析ではなく、文献を読み解いて整理する叙述的レビューです。
広い範囲の文献を数えたところ、関連文献の年間件数は2015年の18件から2025年には237件へ増えていました。全体の82%は2020年以降に出ています。一方で、題名に茶以外の食品を含む文献の割合は、期間を通じておよそ5分の1(1370件中288件、21.0%)にとどまっていました。茶以外への応用は、分野全体の伸びに比例して増えてきたことになります。
報告された主な知見
成分の分析については、多くの研究が総ポリフェノール量や抗酸化力の測定に頼っていると著者らは指摘しています。これらは試料全体の化学的な反応の強さを示す指標で、個々の化合物を特定するものではありません。糖やビタミンCなどにも反応するため、変化の原因を特定の分子に結びつけられません。実際に、総ポリフェノール量が増えたのに抗酸化力は下がった例も紹介されています。
発酵してできる酸の顔ぶれは、食品によって変わります。茶では酢酸が中心ですが、牛乳やソバではL-乳酸が主体となり、大豆のホエー(豆腐などを作る際に出る液)では酢酸が中心でした。エタノールの最終濃度は、食品の種類より菌の組み合わせに左右され、含まれる酵母によって大きく異なったと報告されています。
乳製品では、茶で培養した種菌を使うと、42〜43℃で6〜12時間ほどかけて牛乳がpH4.4〜4.6まで酸性化しました。これは通常のヨーグルト用種菌より遅い速さです。種菌を濃縮したり、あらかじめ牛乳で培養しておいたりすると、発酵時間が短くなる関連がみられました。乳糖は約16〜30%減ったものの、残っていました。ヨーグルトは本来、特定の乳酸菌で発酵させたものを指すため、著者らはこれらの製品を「発酵乳」または「ヨーグルト様の製品」と呼ぶのが正確だとしています。チーズの研究はほぼ1つの研究グループに限られ、同じ研究室の報告の間でも、市販種菌より遅いという結果と速いという結果が入れ替わっていました。乳業副産物のホエーについては、乳糖を利用できる酵母が含まれる場合などに酸性化が可能だと示されましたが、有効活用の証拠は不十分とされています。
大豆の豆乳では、発酵によってイソフラボンが糖の結合した形から糖の外れた形(アグリコン)へ変わり、ラフィノースが検出されなくなり、スタキオースも大きく減ったと報告されています。乳酸菌との共発酵では、大豆特有の青臭さに関わるヘキサナールが減りました。ただし、消化・吸収や血糖への影響は調べられていないため、体内での利用しやすさや健康上の利点が裏づけられたわけではない、と著者らは述べています。
このレビューが示すこと
著者らが繰り返し強調するのは、成分の変化がどこから来たのかを区別する難しさです。茶で育てた発酵液を種菌として加えると、茶由来の酸、糖、ポリフェノールも一緒に食品へ持ち込まれます。そのため、微生物による変化なのか、持ち込まれた成分の影響なのかを見分けられない研究が多くありました。さらに、研究ごとに単位がばらばらであること、標準物質を使った分析がないこと、好ましくない成分の測定が少ないことも、課題として挙げられています。
全体として、コンブチャの微生物共同体は乳、大豆、ホエーなどさまざまな食品を酸性化し、ヨーグルト様の食品などを作れることが示されてきました。一方で、従来の種菌より確実に優れているとする再現性のある証拠や、栄養や健康への効果を裏づける証拠はまだ限られています。このレビューは、茶以外での利用を語るには、菌の組成をそろえた種菌、持ち込み成分を区別できる対照、個々の化合物を特定する分析が欠かせないことを示しています。
著者:Muhammad Salman Farid(Department of Pharmaceutical Biology, Institute of Pharmacy, University of Greifswald, Friedrich-Ludwig-Jahn-Str. 17, 17489 Greifswald, Germany)、Monika Sienkiewicz(Department of Pharmaceutical Microbiology and Microbiological Diagnostics, Medical University of Lodz, 90-151 Lodz, Poland)、Łukasz Łopusiewicz(Department of Pharmaceutical Biology, Institute of Pharmacy, University of Greifswald, Friedrich-Ludwig-Jahn-Str. 17, 17489 Greifswald, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Salman Farid, Monika Sienkiewicz, Łukasz Łopusiewicz. Beyond Tea: Kombucha SCOBY as a Starter Culture Across Food Matrices. Molecules 2026-09-18. DOI: 10.3390/molecules31183309. 原著ライセンス:CC BY.