著者の所属・活動拠点の国は、メキシコ、チリです。
掲載誌:International Journal of Molecular Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食品にとろみをつける素材として最も広く使われているのはでんぷんです。ただし、その生産はトウモロコシ、小麦、ジャガイモ、キャッサバといった少数の作物に偏っています。著者らは、こうした偏りが供給面のリスクや農業の多様化の妨げになると指摘し、あまり活用されていない、気候変動に強い植物をでんぷん源として探ることに意義があると述べています。
研究チームが注目したのは、中米原産の樹木ブロシマム・アリカストルム(通称ラモン、マヤナッツ)です。論文によると、この木は干ばつにもハリケーンにも耐え、種子の生産量が多いとされています。また、種子粉はでんぷんを約63%含み、たんぱく質や食物繊維も比較的豊富です。一方で、現在は主に家畜の飼料として使われています。
これまでの研究では、ラモン粉の成分や、クッキー・トルティーヤなどで小麦粉の一部を置き換える利用が調べられてきました。しかし、加熱してできるゲルの性質を、濃度や加熱温度、塩・砂糖などの添加物との関係から体系的に調べた研究はありませんでした。著者らは、この空白を埋めることを目的に、ラモン種子粉ゲルの性質を包括的に調べたと位置づけています。
何をどのように調べたか
研究チームは、メキシコのユカタン半島で採取したラモンの種子を乾燥・粉砕して粉にし、水に分散させました。粉の濃度は7.7%、9%、11%の3段階、加熱温度は80℃、90℃、100℃の3段階です。添加物は、塩2%、砂糖5%、添加なしの3通りとし、これらを組み合わせてゲルを作りました。各温度で10分間保持した後、25℃まで冷やしてから測定しています。
温度は、ラモンでんぷんが水を吸って膨らみ、糊のようになる「糊化」の進み方を踏まえて選ばれました。80℃は糊化の途中、90℃はほぼ完全に糊化した段階、100℃は加熱しすぎで、でんぷん粒が壊れ始める可能性のある段階と想定されています。
測定は大きく三つです。一つ目は、かき混ぜる速さを変えたときの流れやすさ(粘度)の変化です。二つ目は、固体のような弾力と液体のような粘り気のバランスを表す「粘弾性」です。三つ目は、ゲルを1回押しつぶしたときの硬さや付着性(べたつき)を調べるテクスチャー試験です。
主な結果
すべてのゲルで、強くかき混ぜるほど粘度が下がる「擬塑性(ずり流動化)」と呼ばれる性質が見られました。これはでんぷん系の食品によく見られる性質です。著者らは、製造時のポンプ輸送や混合ではさらりと流れ、食べるときにはとろみを感じさせる点で、食品に有利だと説明しています。
粘弾性の測定では、どの条件でも弾力の成分が粘り気の成分を上回りました。ただし値自体は大きくなく、著者らはこれらを「弱いゲル」に相当する構造と解釈しています。
性質に最も大きく影響したのは粉の濃度で、濃度が高いほど粘度も硬さも増しました。温度については、80℃では糊化が不十分またはむらがあるためか、測定値のばらつきが大きくなりました。100℃では構造がやや弱まる傾向が見られました。こうした結果から、著者らは90℃が構造の発達と再現性のバランスに最も優れていたと結論づけています。要旨では、濃度11%・90℃で最も強いゲルが得られ、見かけの粘度は最大12.91Pa·s、弾力の指標である貯蔵弾性率は308Pa、硬さは1.05Nに達したと報告されています。
添加物の影響は単純ではありませんでした。著者らによると、塩の効果は温度によって逆転しました。90℃と100℃では粘度や硬さを15〜23%高めた一方、80℃では18〜25%低下させています。著者らは、低い温度では塩が糊化を遅らせるが、十分に加熱すれば、より構造の発達したゲルになると解釈しています。
砂糖については、要旨では粘度、粘弾性、硬さを一貫して12〜18%低下させたとまとめられています。一方で本文の流動測定では、粘度への影響は濃度や温度によって異なり、対照と同程度かやや高い条件もあったと述べられています。
さらに、粘度が高いゲルほど硬いという非常に強い関連が見られました(相関係数0.96)。また、硬いゲルほどべたつきが少ない傾向も報告されています。
研究が示すこと
この研究は、ラモン種子粉が加熱によって弱いゲル状の構造を作り、粉の濃度、加熱温度、塩や砂糖の組み合わせによって、とろみや硬さが変わることを示しました。とくに塩のように、温度によって効果の向きが変わる添加物があることから、性質はどれか一つの要因では決まらず、要因どうしの組み合わせで決まると著者らは強調しています。
著者らは、これらの結果がラモン種子粉を植物由来の持続可能な増粘素材として活用する可能性を示し、その基礎となるデータになると位置づけています。
原著論文の著者・所属:Ángel H. Cabrera-Ramírez(Centro de Investigación y Asistencia en Tecnología y Diseño del Estado de Jalisco, A.C., Int. Parque Científico Tecnológico de Yucatán s/n, Km 5.5 Carretera, Sierra Papacal-Chuburná, Chuburná, Mérida 97302, Yucatán, Mexico)、Élida Gastélum-Martínez(Centro de Investigación y Asistencia en Tecnología y Diseño del Estado de Jalisco, A.C., Int. Parque Científico Tecnológico de Yucatán s/n, Km 5.5 Carretera, Sierra Papacal-Chuburná, Chuburná, Mérida 97302, Yucatán, Mexico)、Isabel Elizondo-De La Fuente(Centro de Investigación y Asistencia en Tecnología y Diseño del Estado de Jalisco, A.C., Int. Parque Científico Tecnológico de Yucatán s/n, Km 5.5 Carretera, Sierra Papacal-Chuburná, Chuburná, Mérida 97302, Yucatán, Mexico)、María D. García-Parra(Centro de Investigación y Asistencia en Tecnología y Diseño del Estado de Jalisco, A.C., Int. Parque Científico Tecnológico de Yucatán s/n, Km 5.5 Carretera, Sierra Papacal-Chuburná, Chuburná, Mérida 97302, Yucatán, Mexico)、Javier Jiménez-Hernández(Centro de Innovación, Competitividad y Sostenibilidad (CICS), Universidad Autónoma de Guerrero, Acapulco 39640, Guerrero, Mexico)、Carla Arancibia(Departmento de Ciencia y Tecnología de Alimentos, Facultad Tecnológica, Universidad de Santiago de Chile, Obispo Umaña 050, Estación Central 9170201, Chile)、Manuel O. Ramírez-Sucre(Centro de Investigación y Asistencia en Tecnología y Diseño del Estado de Jalisco, A.C., Int. Parque Científico Tecnológico de Yucatán s/n, Km 5.5 Carretera, Sierra Papacal-Chuburná, Chuburná, Mérida 97302, Yucatán, Mexico)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ángel H. Cabrera-Ramírez, Élida Gastélum-Martínez, Isabel Elizondo-De La Fuente, et al. Functional Properties of Brosimum alicastrum Seed Flour Gels: Impact of Temperature, Concentration, and Additives on Rheology, Viscoelasticity, and Texture. International Journal of Molecular Sciences 2026-09-29. DOI: 10.3390/ijms27198708. 原著ライセンス:CC BY.