甘くみずみずしい果物として知られるライチ。その花が咲く時期、果樹園ではセイヨウミツバチ(Apis mellifera)が忙しく花粉や蜜を集めています。ミツバチはライチの受粉を助ける重要な存在ですが、実際にどの花からどれくらいの花粉を集めているのか、そしてそれが果樹園の場所や時期によってどう変わるのかは、これまで詳しく調べられていませんでした。今回、インド・ビハール州のライチ産地で行われた研究が、この疑問にDNAバーコーディングという手法を使って迫っています。
研究でわかったこと
この研究は、インド・ビハール州ムザファルプル県にある11カ所のライチ果樹園を対象に、2025年3月14日から4月6日にかけて実施されました。各果樹園で健康な蜂群5群に木製の花粉トラップ(ミツバチが巣に持ち帰る花粉を採取する装置)を設置し、1日7時間(午前9時〜午後4時)、6日おきに花粉を集めたということです。集めた花粉の塊は仕分け・計量され、DNAバーコーディング(生物のDNA配列から種を特定する手法)によって由来植物が特定されました。得られた配列はGenBankとBOLDという国際的なデータベースと照合され、系統解析も行われたとのことです。さらに、果樹園の場所(11カ所)、採集した週(4週間)、花粉の種類(11分類群)という3つの要因が、集められた花粉の量や割合にどう影響するかを統計的に評価する実験デザインが用いられました。
その結果、DNAバーコーディングによって花粉スペクトル中に11種類の植物由来の花粉が確認され、それらの配列はすべてGenBankに登録されたと報告されています。花粉の量・割合のいずれについても、果樹園の場所、採集週、花粉の種類、およびこれらの組み合わせ(二要因・三要因の相互作用)が統計的に有意な影響を及ぼしていたということです。多くの果樹園でライチ(Litchi chinensis)の花粉が最も優勢な採餌源であり、特に開花のピークにあたる2週目〜3週目にその量が最大になったとされています。一方で、Bombax ceiba(インドキワタ)、Pithecellobium dulce(マニラタマリンド)、コリアンダー(Coriandrum sativum)といった副次的な花粉源も、場所や時期によって変動しながら一定の割合を占めていたと報告されています。ライチ花粉の量が特に多かったのはManika Ghazi、Sahila、Prahaladpurの各果樹園で、逆に開花初期の段階では花粉量が少ない果樹園も複数見られたということです。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ライチ開花期におけるミツバチの採餌行動に、場所や時期によるはっきりとした変動があることを示すとともに、DNAバーコーディングが花粉の由来植物を正確に特定するうえで有効な手法であることを確認するものだとされています。ミツバチの採餌はライチ開花のピーク時にはライチ花粉に強く偏る一方、周辺の植物相や開花の時期によって採餌先が多様化することが示唆されています。これはインド・ビハール州の特定地域・特定期間における調査結果であり、他の地域や時期、あるいは他の作物にそのまま当てはまるとは限らない点に留意する必要があります。一つの研究であり、養蜂管理や送粉サービスに関する結論が確定したわけではありません。
まとめ
この研究は、ライチ果樹園におけるミツバチの花粉採餌が、果樹園の立地や開花の時期によって大きく変動すること、そしてピーク開花期にはライチ花粉が採餌の中心となる一方で周辺植物からも花粉を集めていることを、DNAバーコーディングという精密な手法で明らかにしたものです。論文の著者らは、こうした知見が養蜂群の戦略的な配置や地域ごとの開花カレンダーの整備、ミツバチの栄養源となる補完的な植物の保全など、養蜂管理とライチの生産性向上に向けた実践的な指針になりうるとしています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:DNAバーコーディングで明らかにするライチ開花期における西洋ミツバチの花粉採餌の時空間動態(フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ・2026年07月)