著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:PLoS ONE
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
クコの実(ゴジベリー)は薬膳や健康食品として親しまれてきた果実で、その健康効果の中心にあるとされるのが「クコ多糖(LBP)」という成分です。抗酸化や免疫調節、肝臓の保護などに関わる可能性が示唆されてきましたが、これまでの研究の多くは、いったん乾燥させたクコの実から従来の方法で抽出した多糖を対象にしていました。しかし乾燥工程には通常、加熱や急速な脱水が伴い、これが多糖の分子量や構造を変化させてしまう可能性が指摘されています。つまり「乾燥・加熱でどれだけ性質が変わったのか」を確かめるための、加熱していない生の状態の多糖という比較基準が不足していたのです。この研究は、中国・寧夏回族自治区にある北方民族大学などのグループが、生のクコの実から加熱せずに多糖を取り出す方法を新たに組み立て、従来通り乾燥させたクコの実から抽出した多糖と性質を比べたものです。
研究チームはまず、生のクコの実をすりつぶしたパルプから、加熱せずに多糖を沈殿させる条件を探しました。具体的には、パルプの比重(相対密度)とエタノール濃度という2つの条件を段階的に変え、得られた沈殿物の抗酸化力(鉄イオン還元力を示すFRAP値や、ABTSラジカル消去能)を指標に最適化しています。その結果、パルプの比重を1.06に調整し、85%のエタノールで沈殿させる条件が最も効率よく、加熱なしで多糖(論文中ではFLBPsと呼ばれています)を得られることがわかりました。この条件でのFRAP値は乾燥重量1gあたりビタミンC換算で53.43mgに達し、比重を上げるほど収率や多糖含量、抗酸化力が高まる傾向が確認されています。一方、比較対象となる乾燥クコの実からの多糖(DLBPs)は、乾燥した実を熱水で2回煮出し、エタノールで沈殿させるという従来法で調製されました。
研究でわかったこと
両者を分析すると、全糖含量やたんぱく質含量には統計的に意味のある差は見られませんでした。一方で、乾燥物由来のDLBPsは、生の実由来のFLBPsに比べて「結合型フェノール」の含有量が有意に多いことが確認されています(統計的な有意差p<0.001)。フェノール化合物が糖やたんぱく質と結びつきやすくなる現象は、乾燥や加熱の過程で起こりうる変化として著者らも言及しています。
分子量の分布にも違いが見られました。FLBPsは主に分子量およそ371万Daという一つの大きな成分でまとまっていたのに対し、DLBPsは約107万Da、約12万Da、約3万Daという3つの成分に分かれており、より多様な(分散した)状態でした。構成する単糖の種類は両者とも同じ9種類(アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコースなど)でしたが、比率は異なり、FLBPsはグルコースが約54%と主体だったのに対し、DLBPsはアラビノースが約32%、グルコースが約37%を占めるという違いがありました。電子顕微鏡による観察では、FLBPsはふわふわとした繊維状の構造を示した一方、DLBPsは大きさの異なる石のような粒状構造をしており、見た目にもはっきりとした違いがありました。粒子径や溶液の粘性、表面電荷(ゼータ電位)といった物理的な性質にも差があり、DLBPsのほうが粒子径のばらつきが小さく均一な傾向を示しています。
細胞を使った実験も行われています。過酸化水素で酸化ストレスを与えたヒト肝がん由来細胞(HepG2細胞)を用いた実験では、高い濃度(100〜200μg/mL)で処理した場合、FLBPsのほうがDLBPsよりも細胞保護的な効果が強く見られました。一方、マウスのマクロファージ由来細胞(RAW264.7細胞)を使った実験では逆の傾向が見られ、DLBPsは炎症性物質である一酸化窒素(NO)の放出を、細菌成分(LPS)による刺激に匹敵するほど強く誘導したのに対し、FLBPsによる誘導はそれよりも有意に弱いという結果でした。いずれの多糖も、試した濃度の範囲では細胞に対する明らかな毒性は見られなかったと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
著者らは、今回の比較だけでは「乾燥」「加熱」「抽出方法の違い」「フェノールやたんぱく質など付随する成分」のどれが、観察された性質や細胞への影響の違いを生み出しているのかを個別に切り分けることはできないと述べています。また、多糖の分子量が抗酸化作用にどう関わるかは研究分野全体としてもまだ議論が続いている点だとしており、今回の結果から単純な因果関係を結論づけることには慎重な姿勢を示しています。著者らは今後、生の実と乾燥した実を同じ条件で処理して比べる、あるいは乾燥方法や乾燥時間を細かく変えて比較するといった、より条件をそろえた研究が必要だとしています。この研究はあくまで一つの実験室内の比較であり、生のクコの実から作った多糖や乾燥クコの実から作った多糖のどちらが健康に良いかを直接示すものではない点には注意が必要です。
この研究では、非加熱で多糖を取り出す方法自体が、乾燥・加熱の工程を減らせる可能性がある製法上の利点として位置づけられていますが、実用化に向けてはさらに規模を広げた検証が必要だと著者らは述べています。
まとめ
生のクコの実から加熱せずに多糖を取り出す新しい方法を確立し、従来の乾燥クコの実由来の多糖と比べたこの研究では、糖やたんぱく質の含量は同程度だったものの、フェノール含有量、分子量の分布、単糖組成、粒子の形や物理的性質、そして細胞レベルでの反応に違いがあることが示されました。これは、乾燥という工程がクコ多糖の性質に何らかの影響を与えている可能性を示す手がかりであり、著者らは今後の研究のための比較の基準になりうるとしています。
原著論文の著者・所属:Ru Zhang(School of Chemistry and Chemical Engineering, North Minzu University, Yinchuan, Ningxia, China)、Zhuan Nan(School of Chemistry and Chemical Engineering, North Minzu University, Yinchuan, Ningxia, China)、Caifang Wang(School of Pharmaceutical Sciences, Capital Medical University, Beijing, China)、Raorao Li(Institute of Chinese Materia Medica, China Academy of Chinese Medical Sciences, Beijing, China)、Yanping Li(Ningxia Wuxing Science and Technology Co., Ltd., Yinchuan, Ningxia, China)、Jianbao Ding(Ningxia Wuxing Science and Technology Co., Ltd., Yinchuan, Ningxia, China)、Hao Wang(School of Preparatory Education, North Minzu University, Yinchuan, Ningxia, China)、Zhexiong Yu(Ningxia Tianren Goji Biotechnology Co., Ltd., Zhongning, Ningxia, China)、Jin Yang(Key Laboratory for Chemical Engineering and Technology, State Ethnic Affairs Commission (North Minzu University), Yinchuan, Ningxia, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Ru Zhang, Zhuan Nan, Caifang Wang, et al. Comparison of non-thermally extracted polysaccharides from fresh wolfberry with conventionally extracted polysaccharides from dried wolfberry. プロス・ワン (2026). DOI: 10.1371/journal.pone.0355472. 原著ライセンス: cc-by.