日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Trends in Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を問題にしたのか

肥満は1990年代後半から世界的な「流行」として広く認識されてきました。著者は、肥満とそれに関連する併存疾患がもたらす経済的負担、すなわち医療に直接かかる費用と、早期死亡や生産性低下による間接的な費用が、高所得国・中所得国・低所得国を問わず社会的な関心事になってきたと整理しています。19の国際研究を対象とした系統的レビューでは、肥満の経済的負担の総額が2022年の各国の国内総生産の0.05%から2.42%にあたると報告されています。

著者が引用する先行研究では、1990年から2022年までの200か国のデータをまとめた解析で、肥満の年齢調整有病率が上昇し続けていることが示されています。学齢期の子どもと青少年(5〜19歳)では、世界全体の年齢調整有病率が女子で1.7%から6.9%へ3倍以上、男子で2.1%から9.3%へ4倍以上に増えました。成人(20歳以上)では、女性で8.8%から18.5%へ2倍以上、男性で4.8%から14.0%へ3倍近くに増えています。ただし高所得国の多くでは急激な増加が鈍化、横ばい、あるいはわずかに反転した一方、中・低所得国の多くでは加速した、という違いも紹介されています。

こうした状況を受けて、世界保健機関(WHO)は身体活動の不足や座りがちな生活への対策として「身体活動に関する世界行動計画2018–2030」を打ち出し、2030年までに世界の身体活動不足の有病率を相対的に15%減らす目標を掲げました。この計画の動機は肥満を減らすことだけでなく、非感染性疾患の予防や精神的健康・生活の質の向上にもあると著者は述べています。著者が立てた問いは、この身体活動の推進が肥満の流れを変えるのに十分かどうか、という点です。

どのように検討したか

この論文は新たにデータを集めた調査ではなく、著者が既存の研究や国際機関の指針を読み解いて論じた「オピニオン」形式の文章です。肥満の定義、身体活動の基本的な形と推奨水準、身体活動の限界、そして健康的な食事を推進することの重要性という順に、既存の知見を整理しています。

議論の土台になっているのは「エネルギーバランス」の考え方です。食べ物や飲み物から取り込むカロリー(エネルギー摂取)が、体が消費するカロリー(エネルギー消費)を上回ればプラスの不均衡となって体重が増え、逆であれば体重が減るという枠組みです。著者はまた、1日の総エネルギー消費が三つの要素から成ることを示しています。安静時代謝量(目が覚めて安静にし、食後でもなく、暑くも寒くもない状態で体が必要とするエネルギー)、食事誘発性熱産生(食後に栄養素を消化・吸収・代謝・貯蔵するために使われるエネルギー)、そして身体活動によるエネルギー消費です。

肥満を測る指標としては、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って求める体格指数(BMI)が広く使われてきました。成人ではBMI30.00以上を肥満とする分類が世界標準として用いられてきた一方、アジア太平洋地域のアジア系集団については、同じBMIでも体脂肪率が高くなりやすいことから、25.00以上を肥満とする別の基準がWHOによって推奨されていると著者は説明します。ただしBMIは体脂肪やその分布、筋肉量や骨密度を考慮しないため、腹囲やウエスト・ヒップ比など、体の中心部の脂肪蓄積をより直接的に測る代替指標も検討されてきました。

身体活動のエネルギーコストを比べるために、著者はMET(メッツ)という指標を使っています。METは安静に座っている状態を基準としたエネルギー消費の倍率で、METが3.0なら安静時の3倍のエネルギーを使う活動という意味です。60歳以上向けには、加齢に伴う代謝の低下を踏まえて基準値を下げたMET60+が用いられることも説明されています。

主な報告内容

著者が引用した研究によれば、身体活動そのものの健康上の利点は数多く報告されています。WHOは歩行と自転車を、生活に身体活動を取り入れるうえで最も費用対効果の高い移動手段として推奨しており、学齢期の子どもと青少年には中〜高強度の有酸素性身体活動を1日60分以上、成人には中強度を週150〜300分以上または高強度を週75〜150分以上という指針が示されています。歩行に関する18件、自転車に関する8件の国際研究をまとめた系統的レビューでは、総死亡リスクの低下が歩行で11%、自転車で10%と推定されました。歩数に着目した用量反応メタ解析では、1日2000歩と比べて7000歩は、総死亡リスクが47%低い、心血管疾患の発症リスクが25%低い、認知症リスクが38%低い、転倒リスクが28%低いことなどと関連していました。これらはいずれも関連として報告されたものです。

一方で、体重や体型への効果は控えめだと著者は指摘します。過体重または肥満のある成人6880人を含む116件のランダム化臨床試験の系統的レビューでは、週あたり30分の有酸素性身体活動の増加は、体重0.52kg、腹囲0.56cm、体脂肪率0.37%の減少と関連していました。用量反応解析では、これらの指標は週300分までの運動時間の増加に伴ってほぼ直線的に減少するものの、臨床的に意味のある減少を得るには中強度以上で週150分を超える必要があるかもしれないとされています。

著者はさらに、推奨される水準の身体活動が1日の総エネルギー消費のうち比較的小さな部分にすぎないことを強調します。引用された方法論レビューによれば、安静時代謝量が総エネルギー消費の約60〜70%、食事誘発性熱産生が約10%、身体活動が約20〜30%を占めます。そのため、運動時間を1日2〜3時間に倍増・3倍増させない限り、身体活動を増やすことによる総エネルギー消費の変化は小さいと論じています。加えて、運動は食欲を刺激して食事量を増やす代償的な代謝反応を伴うことや、減った体重に対する体の防御として安静時代謝量が下がる「適応的熱産生」が働くことも、体重を維持しにくくする要因として挙げられています。

このため著者は、長期的な体重管理と肥満対策には健康的な食事の推進が重要であり、身体活動の推進より重要かもしれないと述べます。医学文献の総合的な評価にもとづき、身体活動の増加と食事によるエネルギー不均衡(カロリー制限)を組み合わせることが、過剰な体脂肪を減らすうえで最も効果的な戦略として推奨されてきたことも紹介されています。そして超加工食品や砂糖入り飲料に加えて、調理・工業的加工・飲料製造の過程で加えられる合成の原材料や添加物が、過体重や肥満、さらにホルモンのかく乱、腸の炎症、慢性疾患リスクの上昇といった健康問題に関わることを、疫学研究・実験研究・前臨床研究の蓄積が示唆していると紹介しています。ただし非糖質甘味料の長期的な健康影響については、まだ明らかになっていないとしています。

この論考が伝えること

この論文が示しているのは、身体活動を増やすことの価値を否定する話ではありません。歩くことや自転車に乗ることは健康に幅広い利点をもたらすと報告されており、それ自体に意味があります。しかし体重という一点に限ってみれば、推奨される水準の運動が1日のエネルギー消費に占める割合は限られており、体重や体脂肪の変化は控えめにとどまる、というのが著者の読み取りです。

そこから著者が導く結論は、問題の所在を個人の努力だけに求めるのでは足りないということです。合成の原材料や添加物は、あいまいな一括表示や自主規制による例外の陰に隠れがちで、個人の食事の好みや宗教的・文化的な慣習を厳格に守っている人であっても避けるのが難しい。だからこそ、食品と飲料のシステムそのものを地域・広域・国の各レベルの統治を通じて改革していく集団的な取り組みが、肥満の流れを変えるために必要だと著者は論じています。

著者:Masayoshi Oka(Department of Management, Josai University, Sakado 350-0295, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Masayoshi Oka. Promoting Physical Activity Matters for Health, but Not Enough to Turn the Tide of Obesity. Trends in Public Health 2026-10-01. DOI: 10.3390/tph1030019. 原著ライセンス:CC BY.