この研究は、クロアチアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

何を目的とした研究か

著者らは、チコリの根から得られるイヌリン、市販のイヌリン、そしてイヌリンを含むチコリ抽出物が、さまざまな食品の品質にどのような影響を与えるかを、既存の研究をもとに整理しました。

イヌリンは水に溶ける食物繊維の一種で、人の消化酵素では分解されにくく、大腸まで届いて腸内細菌に利用されます。食品づくりの面では、脂肪の代わりになったり、なめらかな口当たりをつくったりする働きが注目されてきました。チコリの根はその主要な商業的供給源です。

論文によれば、イヌリンに関するこれまでの総説は、抽出法や物性、健康面の効果に重点を置くものが多く、「実際の食品にどれだけ、どの形で加えると品質がどう変わるか」を横並びで比較しやすくまとめたものは十分ではありませんでした。著者らはこの点を補うことを狙いとしています。

どのように調べたか

著者らは、Google Scholarでの検索と、関連する総説・原著論文の参考文献リストの確認によって文献を集めました。検索語には「チコリ根イヌリン」「食品産業におけるイヌリン」といった一般的な語のほか、「ヨーグルト」「チーズ」「アイスクリーム」「ソーセージ」「製パン」「チョコレート」など製品ごとの組み合わせを用い、脂肪・糖の置き換えや食感の調整、加工中の安定性などに関わる語も加えています。

対象としたのは、チコリ根由来のイヌリンや市販イヌリンを扱った論文、あるいは他の供給源との比較を含む論文で、食品への応用については実験研究を優先しました。最終的に105件の文献が用いられています。各研究からは、製品の種類、イヌリンの形態と量、技術的な役割、主な加工条件、良い効果と限界、最も成績の良かった配合などを抜き出して整理しました。著者らは、研究の質を形式的に評価する手続き(バイアスのリスク評価など)は行っておらず、報告された実験結果と研究間の一致度をもとに解釈したと述べています。

報告された主な内容

イヌリンの働きは、分子の鎖の長さ(重合度)によって大きく変わると整理されています。鎖の短いものは水によく溶け、砂糖の30〜50%程度の甘みを持つため糖の削減に向く一方、それだけで砂糖を置き換えるには甘みが足りません。鎖の長いものは溶けにくく粘りが強く、水の中で微細な結晶の網目をつくって水を抱え込み、脂肪に似た口当たりを生みます。この構造が脂肪の結晶のネットワークに似ているため、なめらかさや広がりやすさを再現できるとされています。

加工中の安定性にも条件があります。中性〜弱酸性では加熱しても安定ですが、pHが4以下になると、とくに60℃を超える加熱や長時間の加熱で結合が切れて重合度が下がり、ゲル化する力が損なわれます。pHが5以上であれば100℃まで安定と報告されており、強い酸性で加熱の激しい食品では用途が限られます。

乳製品では、ヨーグルトへの添加は1〜2%程度の少なめから中程度の量が用いられることが多く、粘度やクリーミーさ、保水性を高めて水分離(ホエイの分離)を抑えたと報告されています。一方で、ある研究では2%に増やすと受容性が下がり、ゲルの微細構造が粗くなって強度が落ちたとされます。量を増やすほど粘度や硬さは上がるものの、べたつきも増すため、技術的な改善がそのまま官能的な良さにつながるわけではない、というのが共通した傾向です。チーズでは、加える工程の段階が繊維の残り方を左右し、牛乳に溶かしてから凝固させるとホエイ側へ約20%が失われた例が挙げられています。アイスクリームなどの冷凍デザートでは、2〜5%程度でオーバーラン(空気の抱き込み)や粘度が上がり、溶けにくくなる一方、量が多すぎると硬く密な食感になったと報告されています。

食肉製品では、水を保ち乳化を安定させ、脂肪滴に近い大きさの水和した粒子ゲルをつくる性質が利用されています。粉末のまま多く加えると硬くなりやすいのに対し、水を含ませたゲルの形で使うと柔らかい食感と脂肪に近い性質が得られるとされます。適量は製品によって幅があり、鶏肉バーガーでは1%、ボローニャ型ソーセージでは6%が適量とされた例、牛肉・豚肉のフランクフルトで2.92%のイヌリンにより15%の脂肪置換ができた例などが紹介されています。粗く刻んだバーガーやミートボールは少なめの量が適し、乳化型の製品はより高い割合の脂肪置換に耐えられる傾向が示されました。

この整理が示すこと

著者らの整理から見えてくるのは、イヌリンが「加えれば加えるほど良い」素材ではない、ということです。鎖の長さ、粉末かゲルか、加える量、そして加工のどの段階で入れるか――これらの組み合わせによって、同じ素材が食感を良くもすれば損ないもします。多くの研究で、ほどよい量が技術的な性能と味わいの両立点になっていました。

チコリ由来の素材を使った食品開発を考えるうえで、製品ごとの条件を踏まえた配合の最適化が欠かせないことを、この総説は多数の事例を並べて示しています。

著者:Ostrun I(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia.)、Mihatov V(Franck dd, Vodovodna Ulica 20, 10000 Zagreb, Croatia.)、Pichler A(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia.)、Jozinović A(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia.)、Banjari I(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia.)、Kopjar M(Faculty of Food Technology Osijek, Josip Juraj Strossmayer University of Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ostrun I, Mihatov V, Pichler A, et al. Application of Chicory Root Inulin and Commercial Inulin in Various Food Products and Impact on Their Quality. Foods (Basel, Switzerland) 2026-08-25. DOI: 10.3390/foods15172979. 原著ライセンス:CC BY.