著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、ブルガリア、イタリア、セルビア、オーストリアです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

子宮内膜症は生殖年齢の女性のおよそ10人に1人が経験するとされる、女性ホルモンに関連した慢性の病気です。骨盤の痛みや不妊だけでなく、腹痛、お腹の張り、便秘、下痢、排便時の痛み、吐き気といった消化器の症状に長く悩まされる人も少なくありません。ホルモン療法や手術といった標準的な治療を受けても、こうしたお腹の症状が残ってしまうケースがあることから、食事による対策への関心が高まっています。今回紹介する研究は、過敏性腸症候群(IBS)向けの食事療法として知られる「低FODMAP食」が、子宮内膜症のある女性の消化器症状に役立つかどうかを、これまでに発表された臨床研究を集めて検討したシステマティックレビューです。

低FODMAP食とは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい特定の種類の糖質(オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール)を一時的に制限する食事法です。玉ねぎやニンニクに含まれる「フルクタン」、乳製品の「乳糖」、果物などに含まれる「果糖」や「ソルビトール」といった糖質が対象になります。これらが腸内で発酵したりお腹の中の水分量を増やしたりすることで、張りや痛み、便通の乱れにつながると考えられており、IBSの分野ではすでに有効性を示す研究の蓄積があります。研究チームは、子宮内膜症に特化したデータがまだ乏しい点に着目し、PubMed/MEDLINE、EBSCOhost、BASEという3つの文献データベースを2026年4月30日まで検索し、この研究計画は事前にPROSPEROに登録されています。

5件の研究から見えてきたこと

検索の結果、条件に合う臨床研究は5件でした。内訳は、ランダム化比較クロスオーバー試験が1件、前向き(非ランダム化)研究が2件、後ろ向きの診療記録調査が1件、そして症例報告が1件です。研究の設計や比較対象、評価方法がそれぞれ大きく異なっていたため、数値を統合するメタ解析ではなく、内容を整理して記述する形でまとめられています。

最も質の高い証拠とされているのが「EndoFOD試験」と呼ばれるランダム化比較クロスオーバー試験です。子宮内膜症と診断された女性35人を対象に、1日あたりのFODMAP摂取量を5g未満に抑えた食事と、栄養素はそろえつつFODMAPを1日約20g含む対照食を、それぞれ28日間、食事をすべて提供する形で比較しました。症状の改善が見られた人(消化器症状の総合スコアが20mm以上改善、または30mm未満に達した人)の割合は、意図した治療を受けた全員での解析で低FODMAP食群60%(35人中21人)に対し対照食群26%(35人中9人)でした。実際に食事を最後まで守れた人だけで見ると72%対32%とさらに差が開いています。便の状態が正常だった日数の割合も、低FODMAP食では71%と、開始前の43%や対照食の56%より高くなっていました。ただしこの試験期間中に、対照食摂取後の休止期間中に虫垂炎が1件、対照食中に胃腸炎のような症状が2件発生しており、いずれも介入との関連は薄いとされていますが報告されています。

前向き研究の一つ(47人が参加)では、4週間の厳格な制限のあと10週間以上かけて少しずつ食品を戻していく方法がとられ、便秘の重症度を示すスコアが中央値7.0から5.0へ改善しました。ただし、お腹の張りについては制限期間中に一時的に減った程度で、食品を戻した後は参加者全員が再びお腹の張りを訴えており、便秘ほど明確な改善は見られませんでした。試験を完了した人のうち53%が「お腹の張りが減った」と回答し、50%が試験終了後もこの食事法を続けたいと答えています。もう一つの前向き研究(62人が解析対象)は、低FODMAP食・子宮内膜症向け食事・通常ケアの3群を参加者自身の希望で選んでもらう形式で行われ、低FODMAP食群では性交痛の一種である深部性交痛の改善が対照群との比較で見られましたが、月経痛や慢性骨盤痛、消化器関連の生活の質については、低FODMAP食群と対照群の間に統計的な差は見られませんでした。

後ろ向きの診療記録調査では、IBSの診断基準を満たす160人のうち、腹腔鏡検査で子宮内膜症も確認されていた59人を取り出して分析したところ、低FODMAP食の指導後にお腹の症状が半分以上軽くなった人の割合は72%で、子宮内膜症のないIBS患者の49%より高い結果でした。症例報告では、卵巣の子宮内膜症とIBSを合わせ持つ23歳の女性が16週間かけて食品を一つずつ試す方法を行い、玉ねぎのフルクタンや乳糖、ソルビトールは元の量まで食べても症状が出なかった一方、マンニトールやニンニクのフルクタンには耐えられなかったことが具体的に記録されています。興味深いことに、この女性は自己流の試し方では乳糖不耐症だと思い込んでいましたが、専門家の指導のもとで段階的に確認したところ、実際には乳糖を問題なく摂取できることが分かったといいます。

研究の限界と読むうえでの注意

著者らは、今回集まった5件の研究にはそれぞれ弱点があると明確に述べています。最も質が高いとされるランダム化比較試験も、参加者と研究者の双方に条件を伏せる「二重盲検」ではなく単盲検であること、対照食のFODMAP量が普段の食生活より多い可能性があること、症状を追跡する期間が28日間に限られ食品を戻していく段階を検証していないことなどが挙げられています。前向き研究は制限を始める前や開始後の脱落者が多く、症状の改善に食事以外の要因(管理栄養士との面談そのものや、時間の経過による自然な変動など)が関わっている可能性を排除できません。後ろ向きの調査や症例報告は、対照群がない、追跡できた人だけを見ている、といった構造上の理由から、あくまで「今後の研究の手がかりを示すもの」にとどまるとされています。また、いずれの研究も呼気中の水素・メタンガス濃度や腸内細菌の構成、炎症の指標といった、症状改善の仕組みを裏付ける客観的な測定は行っていません。

著者らはさらに、低FODMAP食を「子宮内膜症そのものを治す食事」として扱うべきではないと注意を促しています。低FODMAP食で制限されがちな玉ねぎやニンニクについては、別の研究でケルセチンや高用量のタマネギ(Allium cepa)がラットの子宮内膜症様組織の増殖を抑えたという報告や、ニンニクのサプリメントが骨盤痛や月経痛を減らしたとするランダム化比較試験、ニンニクの成分であるS-アリル-L-システインがマウスモデルで病変の増殖を抑えたとする報告があることを紹介しており、これらの食品を子宮内膜症の観点から一律に避けるべきとは言えない、と釘を刺しています。低FODMAP食はあくまで消化器症状がある一部の患者に対する選択肢の一つであり、長期間の無秩序な制限は腸内のビフィズス菌などを減らす可能性も別の研究で指摘されているため、管理栄養士の指導のもとで期間を区切り、その後は食品を戻していく手順を踏むべきだとまとめています。

まとめ

今回のレビューでは、腹痛やお腹の張り、便秘、IBSに似た症状を抱える子宮内膜症の女性において、低FODMAP食が消化器症状の軽減につながる可能性を示す研究結果が報告されました。特に管理栄養士主導で食事を提供したランダム化比較試験では、対照食と比べて症状の改善を示す人の割合が高いという結果でした。ただし著者らは、対象となった研究が5件と少なく、それぞれに設計上の限界があること、症状を戻していく段階や長期的な安全性についてはまだ十分に検討されていないことを強調しています。低FODMAP食は、現時点では「すべての子宮内膜症患者に有効な治療法」ではなく、消化器症状が目立つ一部の患者に対して、専門家の指導のもとで検討され得る選択肢の一つと位置づけられています。

原著論文の著者・所属:Watrowski R(Department of Gynecology, Helios Hospital Müllheim, Heliosweg 1, 79379 Müllheim, Germany.; Faculty of Medicine, University of Freiburg, 79106 Freiburg, Germany.)、Kostov S(Department of Gynecology, Hospital "Saint Anna", 9002 Varna, Bulgaria.; Research Institute, Medical University Pleven, 5800 Pleven, Bulgaria.)、Schäfer SD(Department of Gynecology and Obstetrics, Clemenshospital Münster, 48153 Münster, Germany.)、Juhasz-Böss I(Department of Obstetrics and Gynecology, Medical Center-University Hospital Freiburg, 79106 Freiburg, Germany.)、Palumbo M(Department of Public Health, School of Medicine, University of Naples Federico II, 80138 Naples, Italy.)、Sparić R(Faculty of Medicine, University of Belgrade, Dr Subotića 8, 11000 Belgrade, Serbia.; Clinic for Gynecology and Obstetrics, University Clinical Centre of Serbia, Dr Koste Todorovića 26, 11000 Belgrade, Serbia.)、Mereu L(Obstetrics and Gynecology Unit, "Gaspare Rodolico-San Marco" University Hospital, Department of General Surgery and Medical Surgical Specialties, University of Catania, 95124 Catania, Italy.)、Vitale SG(Obstetrics and Gynecology Unit, "Gaspare Rodolico-San Marco" University Hospital, Department of General Surgery and Medical Surgical Specialties, University of Catania, 95124 Catania, Italy.)、Alkatout I(Department of Obstetrics and Gynecology, Medical University of Innsbruck, 6020 Innsbruck, Austria.)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Watrowski R, Kostov S, Schäfer SD, et al. Low-FODMAP Diet for Gastrointestinal Symptoms in Endometriosis: A Systematic Review. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18132164. 原著ライセンス: cc-by.