この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Current Gastroenterology Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜこの総説が書かれたのか

炎症性腸疾患(IBD)は、腸に慢性的な炎症が起こる病気の総称です。症状をやわらげようとして、患者さん自身の判断で特定の食品を食べないようにする「除去食」を取り入れる人は少なくありません。著者らによれば、患者がよく用いる除去食には、特定炭水化物食(SCD)、低FODMAP食、グルテンを除く食事、乳製品を除く食事などがあります。

しかし著者らは、こうした除去食を長期に続けることを支持する根拠は限られており、一方でリスクの認識は高まっていると指摘します。この総説(ナラティブレビュー=特定の手順で網羅的に集めるのではなく、著者が文献を選んで論じる形式の総説)は、患者が自主的に始める制限的な食事戦略がIBDの管理で果たす役割を批判的に検討し、よく用いられる除去食への賛否両論の根拠を整理したうえで、より包括的な食事パターンを支持しつつある新しいデータと対比することを目的としています。

総説が報告している主な内容

著者らは、除去食を続けることには無視できないリスクがあると報告しています。挙げられているのは、低栄養、微量栄養素(ビタミンやミネラルなど少量必要な栄養素)の不足、サルコペニア(筋肉量と筋力の低下)、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオーシス)、食べることへの不安、そして回避・制限性食物摂取症(ARFID=体型や体重へのこだわりとは別の理由で食べられる物が極端に狭まる摂食障害)です。

そのうえで著者らは、現時点の根拠として、地中海食が症状の寛解(症状が落ち着いた状態)を導く点でより制限の強い方法と同程度の成績を示しており、しかも栄養面・心理社会面での不利益を一般に伴わない、と述べています。また、複数の消化器関連学会による近年の推奨は、長期の除去食を勧めず、栄養的に十分で包括的な食事パターン、とりわけ地中海食を、多くのIBD患者にとって望ましい枠組みとして支持しているとしています。ただし著者らは、その裏づけとなる根拠の多くは観察研究によるもので、ランダム化比較試験(参加者をくじ引きのように割り付けて比較する試験)のデータは限られている、とも明記しています。

著者らの提案と、そこから伝わること

以上を踏まえ、著者らは、食事から「除く」ことを中心に据える考え方から、「含める」こと、多様性、栄養の充足へと重心を移す発想の転換を提案しています。その担い手として、登録栄養士がIBDの診療に欠かせないパートナーであることも強調しています。

除去が臨床的に必要と判断される場面については、期間を区切り、目的をはっきりさせたうえで行い、その後は計画的に食品を戻していく手順を踏むべきだとしています。著者らは、制限から離れることは食事への関心を後退させることではなく、むしろその成熟であり、栄養指導を患者中心かつ根拠に基づく疾患管理の原則に合わせることだと位置づけています。

著者:Brandon Cunha(Department of Internal Medicine, Virtua Health, Camden, NJ, USA)、Ari Alter(New York Medical College, Touro University, Valhalla, NY, USA)、Madeline Berschback(Division of Gastroenterology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA)、Sunhee Park(Division of Gastroenterology, University of California – Irvine School of Medicine, Orange, CA, USA)、Stephanie Gold(Division of Gastroenterology, Mount Sinai Hospital, New York, NY, USA)、Yecheskel Schneider(Division of Gastroenterology, Virtua Health, Moorestown, NJ, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Brandon Cunha, Ari Alter, Madeline Berschback, et al. Rethinking Restrictive Diets in IBD: Toward an Inclusion-Focused Nutritional Paradigm. Current Gastroenterology Reports 2026-09-19. DOI: 10.1007/s11894-026-01047-0. 原著ライセンス:CC BY.