この研究は、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
空腹でもないのに食べ物のことが繰り返し頭に浮かび、日常の作業のさなかにも注意を奪われる――こうした経験は「フードノイズ(food noise)」と呼ばれます。もともとは患者の間で使われていた言い回しでしたが、食欲を抑える薬を使った人たちが「食べ物についての考えが静かになった」と語ったことをきっかけに、臨床や一般の議論でも取り上げられるようになりました。論文は、この概念を、食べ物の見た目やにおい、あるいは頭に浮かんだ食べ物のイメージに対して起こる心身の反応(フードキュー反応性)と近いものとして位置づけています。
著者らは、医療系の学生や医療従事者では、この現象が強く出やすい背景があると述べています。学業や臨床業務に伴うストレスや燃え尽き、不規則な勤務による睡眠不足や体内時計の乱れは、食欲や食行動に影響しうることが先行研究で報告されているためです。しかし研究チームによれば、サウジアラビアの医療系学生・医療従事者を対象にフードノイズを測った研究はこれまでになく、アル=アハサー地域の地域データも存在しませんでした。
そこで研究チームは、この集団でフードノイズの程度を測り、研究独自に定めた基準を満たす人の割合を示すこと、属性や生活習慣ごとの分布を描くこと、学生と専門職を比較すること、そして最も強く関連する要因を特定することを目的に、調査を実施しました。なお著者らは、参加者を便宜的に集めた点と、判定の区切りを臨床的な基準ではなく回答尺度から決めた点を挙げ、この研究は人口全体での有病率を推定する設計ではないと明記しています。
どのように調べたか
調査は横断研究(ある一時点の状態を調べる方法)として行われ、アル=アハサー県の大学・病院・プライマリヘルスケアセンターに所属する医療系学生と現役の医療従事者を対象としました。アラビア語と英語で用意された電子アンケートを自分で回答してもらう形式で、参加は同意を得たうえで匿名で行われました。分析対象となったのは18歳以上の593人です。
質問票は四つの部分からなります。第一に年齢・性別・立場(学生か専門職か)・専門分野・週あたりの就業/学習時間・運動の頻度・月あたりの夜勤回数・宗教上または健康上の理由での定期的な断食といった基本情報。第二に、食べ物についての侵入的で抑えにくい考えを測る14項目の尺度で、各項目を1(強く反対)から5(強く同意)で評価し、合計(14〜70点)と1項目あたりの平均点(1〜5点)を算出しました。第三に、摂食障害の疑いを短時間で見分けるためのスクリーニング質問票SCOFF(5項目・はい/いいえ形式、2点以上で「摂食障害の疑いあり」と判定)。第四に、主観的なストレスを測る知覚ストレス尺度の4項目版(0〜16点)です。このほか、過去1年間に仕事や日常生活に支障をきたした筋骨格系の痛みの部位を尋ねる質問が加えられました。
フードノイズの重症度については、確立した診断上の区切りが現時点で存在しないため、著者らは回答尺度の選択肢の中間点を使って操作的に区分しました。平均点が2.5未満を「低」、2.5以上3.5未満を「中」、3.5以上を「高」としています。論文はこの区切りについて、分析前にあらかじめ決めたものではあるが外部の基準に照らして較正されたものではなく、あくまで研究独自のカテゴリーであって臨床的な状態を示すものではない、と繰り返し断っています。
分析では、尺度の内的一貫性(項目同士のまとまりのよさ)や因子構造を確認したうえで、属性・生活習慣との関連を個別に検討し、さらに年齢・性別・立場・運動・夜勤・週あたりの時間・断食・知覚ストレス・SCOFF得点をまとめて投入した重回帰分析(複数の要因を互いに調整して、それぞれの独立した関連を見る手法)を行いました。加えて、外れ値の除去や変数の分け方を変えるなど、計6通りの感度分析(結果が前提の置き方に左右されないかを確かめる追加分析)が実施されています。
報告された主な結果
参加者593人の平均年齢は25.7歳で、67.5%が女性、学生が60%、専門職が40%でした。14項目のフードノイズ尺度はクロンバックのα係数0.909と高い内的一貫性を示し、因子分析でも一つの因子にまとまる構造が確認されたため、合計点を単一の指標として用いることが支持されたと報告されています。
フードノイズ合計点の平均は41.9点(1項目あたり2.99点)でした。あらかじめ定めた区切りによる分類では、低が24.1%、中が46.9%、高が29.0%となり、中等度以上に該当したのは75.9%(450人)でした。著者らはこれらを、この便宜的サンプルにおいて研究独自の基準を満たした人の割合であって、人口全体の有病率ではないと明示しています。項目ごとに見ると、意図せず繰り返し浮かんでくる考えに関する項目の評点が高く、食べ物についての考えを意識的に避けたり抑えたりすることに関する項目はやや低めでした。
SCOFFでは平均2.16点、70.2%が「摂食障害の疑いあり」の基準に達しました。著者らはこの数値を、注釈で済ませるのではなく説明を要する高さだと位置づけています。サウジアラビアの若年層を対象とした既存の報告の幅を上回ること、また、満腹で気持ち悪いときに意図的に吐くかを尋ねる項目に43.2%が「はい」と答えたことを挙げ、この回答率は非臨床集団における自己誘発嘔吐としては考えにくく、翻訳版において回答者がこの項目を嘔吐行為ではなく吐き気や吐きそうな感じを尋ねるものと読んだ可能性を指摘しています。なお、検査の感度・特異度を考慮した補正を当てはめても数値は下がらず上がるため、尺度の不正確さだけでは説明できないとも述べています。知覚ストレスの平均は8.1点(0〜16点)、過去1年間に仕事や日常生活に支障をきたす筋骨格系の痛みを報告した人は82.8%で、最も多い部位は腰でした。ただしフードノイズ得点は痛みの有無で差がなく、この変数は重回帰分析には入れられていません。
調整前の比較では、男性、専門職、定期的に断食する人、夜勤のある人、年齢が高い人、ストレスが高い人、SCOFF得点が高い人で、フードノイズ得点が高い傾向がありました。夜勤については回数に応じて増えるのではなく、夜勤がない群が最も低く、夜勤のある三つの群は互いに大きく違わないという閾値型のパターンが見られています。複数の要因を互いに調整した重回帰分析では、モデルはフードノイズ得点のばらつきの27.9%を説明し、SCOFF得点が1点上がるごとに3.85点、知覚ストレスが1点上がるごとに0.69点、年齢が1歳上がるごとに0.19点、夜勤があることで2.45点の増加が対応していました。一方、性別・立場・週あたりの時間・断食による調整前の差は、摂食障害リスクとストレスを考慮に入れると有意ではなくなりました。
著者らは感度分析の結果から、これらの所見を二つに分けています。摂食障害リスクと知覚ストレスとの関連はすべての分析設定で一貫して保たれ、横断的な便宜サンプルという限界の範囲内で確かなものと扱える。ただしその関係は直線的ではなく、上に凸の形で、点数が上がるほど1点あたりの増分は小さくなると報告されています。これに対し年齢と夜勤の関連は、直線性の仮定を緩めたり、夜勤を元の区分のまま扱ったり、影響の大きい観測値を除いたりすると有意でなくなったため、暫定的なものとして扱うとしています。
摂食障害スクリーニングとの強い関連については、二つの質問票に内容の重なりがある可能性も直接検討されています。SCOFFの「食べ物が生活を支配していると思うか」という項目と意味の近いフードノイズ2項目を除いても相関は弱まらず、SCOFF側の該当項目を除くと相関は0.48から0.40に下がりました。著者らは、項目の重複は関連をいくらか大きく見せているものの、それだけで関連が生じているわけではないとし、同時に、この結果は自己報告に基づく二つの重なり合う尺度の間の関係として読むべきで、独立した基準に照らしてフードノイズの妥当性が確認されたことを意味するものではない、と述べています。
この研究が示すこと
研究チームによれば、これはサウジアラビアの医療関係者集団でフードノイズを数量化した最初の研究です。食べ物についての侵入的な考えは、この調査に参加した医療系学生・従事者の間で広く報告され、その程度には大きな幅がありました。著者らは、この構成概念が問題のある考えだけでなく食欲に伴うごく普通の考えも捉えるため、一般的なサンプルであればある程度の該当は想定されるとし、区切りを尺度の中間点に置いたのは、そうした背景水準とより侵入的な体験とを分けるためだったと説明しています。
互いの影響を調整したうえで一貫して残ったのは、摂食障害リスクと主観的ストレスとの結びつきでした。食べ物についての考えの強さは、何時間働いているかや学生か専門職かといった立場の違いよりも、こうした心理的な側面と結びついて現れていたことになります。同時に論文は、身長・体重のデータがなく体格指数を分析に組み込めなかったこと、回答者を便宜的に集めたため回答率も母集団も算定できないこと、尺度の心理測定的な検討は同じ標本内で行われたため独立した標本での確認が必要であること、そして横断研究であるため前後関係や原因の方向は示せないことを、限界として明示しています。
こうした留保を踏まえたうえで読み取れるのは、「食べ物のことが頭から離れない」という日常的な訴えを、測定可能な体験として記述できたこと、そしてそれがストレスや食行動に関する悩みと地続きの場所に位置していることです。
著者:Saba Alarfaj(Clinical Pharmacy, College of Clinical Pharmacy, King Faisal University, Al Ahsa P.O. Box 400, Saudi Arabia)、Manal Alqahtani(Clinical Pharmacy, College of Clinical Pharmacy, King Faisal University, Al Ahsa P.O. Box 400, Saudi Arabia)、Abdullah Almaqhawi(Department of Family and Community Medicine, College of Medicine, King Faisal University, Al Ahsa P.O. Box 400, Saudi Arabia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saba Alarfaj, Manal Alqahtani, Abdullah Almaqhawi. Food Noise Among Healthcare Students and Healthcare Professionals in Al-Ahsa, Saudi Arabia: A Cross-Sectional Study. Nutrients 2026-08-28. DOI: 10.3390/nu18172824. 原著ライセンス:CC BY.