「何を食べるか」が体の中の炎症と関係しているかもしれない、という話を聞いたことがある人もいるかもしれません。近年、食事全体が体に炎症を起こしやすい傾向にあるかどうかを数値化する「食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index、DII)」という指標を使った研究が世界各地で行われています。今回紹介する論文は、サウジアラビアの健常な成人を対象に、この食事性炎症指数と、血液検査でわかる炎症マーカー、そして記憶力や注意力などの認知機能との関係を調べたものです。食べ物の傾向が体の炎症だけでなく頭の働きにも関わっているのか、という素朴な疑問に一つのデータで迫った研究といえます。
研究でわかったこと
この研究では、18歳から50歳までの健常な成人117人を対象に、食品摂取頻度調査票(FFQ)を用いて日々の食事内容を調べ、エネルギー摂取量で調整した「E-DII(エネルギー調整済み食事性炎症指数)」というスコアを算出しました。E-DIIの値が高いほど、食事全体が炎症を起こしやすい傾向にあることを示します。あわせて、血液中の高感度CRP(hs-CRP、体の炎症の程度を反映する代表的な指標)と赤血球沈降速度(ESR、こちらも炎症の指標の一つ)を測定し、さらに「モントリオール認知評価(MoCA)」という認知機能検査を実施しました。年齢や性別、教育歴、収入、BMI(体格指数)、喫煙の有無といった、結果に影響しうる要因を統計的に調整したうえで、E-DIIとこれらの指標との関連が解析されています。
解析の結果、E-DIIのスコアが高い人ほど、血中のhs-CRP値が高い傾向にあることが示されました(β=0.445、95%信頼区間0.047-0.841、p=0.029)。つまり、炎症を起こしやすいとされる食事パターンをとっている人ほど、体の炎症を示す数値も高めであるという関連が見られたということです。一方で、もう一つの炎症指標であるESRとの間には、明確な関連は認められませんでした。
認知機能との関係については、E-DIIが高いほどMoCAの「言語」領域の成績がやや低い傾向がみられました(p=0.021)。ただし、MoCAの総合得点との間には、統計的にはっきりとした関連は見られませんでした。また、体の炎症を示すhs-CRPについても、MoCAの総合得点との明確な関連は確認されなかったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究から言えるのは、「炎症を起こしやすいとされる食事パターンは、体の全身性炎症(hs-CRP)の高さと関連している可能性がある」ということにとどまります。食事性炎症指数や体の炎症と、認知機能全体との間に明確な関連は、この調査では確認されませんでした。言語領域の成績とE-DIIの関連は見られたものの、これが食事や炎症が認知機能に影響を与えることを直接示すものではない点には注意が必要です。
また、この研究は117人という比較的限られた人数を対象にした、ある一時点でのデータに基づく調査です。原著論文でも、今後はより長期間にわたる追跡調査や介入研究、より大規模で多様な集団を対象とした研究、そして炎症や認知機能に関する追加の指標を取り入れた研究が必要だと述べられています。一つの研究の結果として、参考情報の一つとして受け止めるのがよさそうです。
まとめ
今回紹介した研究では、食事が炎症を起こしやすい傾向(E-DII)が高いほど、体の炎症を示すhs-CRP値が高くなる関連が示された一方、認知機能全体との明確な関連は確認されませんでした。食と体の炎症、そして脳の働きとの関係は、まだ研究が積み重ねられている段階のテーマです。今後、より規模の大きな追跡調査によって、これらの関係がさらに詳しく明らかになっていくことが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:サウジアラビアの健常成人における食事性炎症ポテンシャル、全身性炎症、認知機能の関連(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)