著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。

掲載誌:Emergentes - Revista Científica

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ写真で栄養を知るアプリが必要か

メキシコでは過体重と肥満が大きな公衆衛生上の課題です。著者らが引用する2023年の全国保健栄養調査によると、成人の37.3%が過体重、38.9%が肥満で、青少年でも過体重と肥満を合わせた割合が40.4%に達しています。

メキシコには、食事に関する指導の基準を定めた公式規格「NOM-043-SSA2-2012」があります。しかし研究チームは、こうした公的な栄養情報と人々の日常の食事選びとの間に隔たりがあると指摘しています。規格の内容を分かりやすく身近な情報に置き換える道具が乏しいことが、その一因だと考えました。

そこで著者らは、料理の写真を人工知能(AI)で解析し、この規格に沿った分かりやすい栄養情報を示すアプリ「ZanIA」を開発しました。目的は、こうしたツールが技術的に実現できるかを確かめることです。

アプリの仕組みと開発の進め方

開発は、設計と計画、実装、試験、結果の分析という4つの段階で進められました。アプリはプログラミング言語のPythonと、画面を手早く作るための仕組みであるStreamlitで構築され、スマートフォンとパソコンの両方で動く試作品になっています。

中心となる機能は料理の写真解析です。利用者が写真を撮るか読み込むと、GoogleのAIモデル「Gemini」が写っている食材を見分け、材料や分量、栄養の構成を推定します。回答のばらつきを抑えるため、カロリー、たんぱく質、脂質、炭水化物を決まった形式で答えるよう指示文をあらかじめ工夫しています。得られた結果は、食品成分表の値や規格の基準と照らし合わせて確認されました。

ほかにも、体格の目安であるBMI(体重と身長から計算する指数)を求めて1日の推奨摂取カロリーを示す計算機能、手元の材料から料理案を出すレシピ提案機能、栄養記録をPDFで保存する機能が組み込まれました。

特徴的なのが「Platosaurio(プラトサウリオ)」と名付けられた恐竜形の装置です。小型の制御基板とカメラを備え、料理を撮影すると、信号機のような色のLEDで栄養バランスの度合いを示し、メキシコの食事指針「よい食事の皿(Plato del Bien Comer)」に基づいて評価を付けます。使っていない間は、内蔵の画面で教育用の動画を流します。

主な結果:推定の精度と使いやすさ

栄養推定の初期確認として、ヨーグルトにグラノーラ、アーモンド、イチゴ、ブルーベリーを添えた一皿が調べられました。栄養の専門家がメキシコの標準的な食品交換表(SMAE)を用いて計算した値は306キロカロリーでした。これに対しZanIAは300キロカロリーと推定し、差は6キロカロリー、率にして約2%の過小評価でした。著者らは、成分が分かっているほかの食品でも比較を行い、参照値との間に中程度の差が見られたと報告しています。

使いやすさの試験は、共著者2人と外部の利用者3人の計5人を対象に行われました。参加者が試作品を自由に操作する様子を観察し、口頭で感想を聞く方法です。参加者からは、操作の流れが直感的で、料理の撮影解析、栄養計算、レシピ提案といった主な機能を追加の説明なしに理解できたという声が一致して得られました。教育的な道具として役立ちそうだという意見や、恐竜の形と信号機式のライトを持つPlatosaurioへの関心も寄せられました。

一方で著者らは、この評価の限界をはっきり示しています。参加者はごく少数で、標準化された質問票も使っていないため、満足度や学びやすさなどを数値で測ったり、統計的に比べたりはできません。そのため結果は、アプリが実際に人々の食習慣を変えるかを測ったものではなく、技術的に実現可能であることを示す予備的な証拠と位置づけられています。

この研究が示すこと

研究チームは、写真からの食品認識、栄養の自動分析、教育的な要素を組み合わせた試作品を実際に動く形で完成させたことから、ZanIAは技術的に実現可能な提案だと結論づけています。

この研究の意義は、複雑な公式の栄養規格を、写真を撮るだけで使える身近な学習の道具に置き換えようとした点にあります。ただし現時点で示されたのは仕組みが成り立つという初期段階の手応えであり、利用者の理解や食習慣への効果はまだ確かめられていない、と著者ら自身が強調しています。

著者:Felipe Cocón(Universidad Autónoma del Carmen)、Dámaris Pérez-Cruz(Universidad Autónoma del Carmen)、Fátima Gisell Castellanos Flores(Universidad Autónoma del Carmen)、Arthemisa Nicte Ha Nettel Cabello(Universidad Autónoma del Carmen)、Víctor Hugo Hernández Hernández(Universidad Autónoma del Carmen)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Felipe Cocón, Dámaris Pérez-Cruz, Fátima Gisell Castellanos Flores, et al. ZanIA: aplicación multiplataforma basada en inteligencia artificial para el análisis nutricional de alimentos por imagen conforme a la NOM-043-SSA2-2012. Emergentes - Revista Científica 2026-10-14. DOI: 10.60112/erc.v6.i3.924. 原著ライセンス:CC BY.