モリンガ(Moringa oleifera)は、乾燥に強く栄養価の高い植物として近年注目されている木本植物です。その葉を乾燥させて粉末にしたものは、食品への機能性素材としての活用が世界各地で試みられています。今回紹介する研究では、シチリア島で栽培されたモリンガの葉から作られた粉末(MOLP)を、セモリナ粉を使ったサワードウパン(乳酸菌による発酵種で作るパン)に加えたとき、パンの品質や機能性、さらには消費者の評価にどのような変化が生じるかが調べられました。
研究でわかったこと
研究チームは、セモリナのサワードウパンにMOLPを5%または10%(重量比)加え、選抜した乳酸菌スターター培養液で発酵させてパンを作りました。まず発酵の様子を確認したところ、MOLPを加えても発酵は問題なく進み、最終的なpHは約4.3、発酵の進み具合を示す指標(発酵指数)は3.19〜3.33の範囲におさまりました。また発酵中の微生物叢は、Fructilactobacillus属の乳酸菌が90%以上を占めるかたちで安定していたと報告されています。
一方でパンの物理的な性質には、MOLPの添加量に応じた変化が見られました。比容積(パンのふくらみ具合を表す指標)は、無添加のパンの3.26cm³/gに対して、MOLP添加パンでは2.71cm³/gまで低下し、パンの中身(クラム)の硬さも増す傾向が示されました。つまり、モリンガを多く加えるほど、パンはやや目の詰まった、しっかりした食感に近づいたと考えられます。
機能性の面では顕著な変化が確認されました。総フェノール含量(抗酸化に関わる植物由来成分の総量の指標)は、無添加パンと比べて155.25%増加、つまり2.55倍に達したとされています。あわせて、還元力は94.77%、ラジカル消去活性(酸化ストレスに関わる分子を捕まえる力の指標)は65.55%それぞれ向上したことが示されました。さらに、パンの香り成分を分析したところ、MOLPの添加によってテルペン類(全体の16.4〜18.0%を占める香気成分)の割合が増え、エステル類という新たな香り成分も検出されるようになり、香りの複雑さが増したと報告されています。
官能評価(実際に人が食べて評価するテスト)では、5%添加のパンが総合的な受容性において最も高く評価されました。また201名を対象とした消費者調査では、8割を超える回答者が、MOLP入りパンに対して通常より10%高い価格を支払ってもよいと答えたことが示されており、市場での受け入れられやすさもうかがえる結果となっています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、シチリア産のモリンガ葉粉末を使った特定の条件下での実験であり、使用する粉末の産地や加工方法、パンの配合や発酵条件が異なれば、結果も変わる可能性があります。また、抗酸化性の指標が向上したことは示されていますが、これが実際の健康効果につながるかどうかについては、この要旨の範囲では言及されていません。一つの研究による知見であり、結論が確定したものではない点に留意する必要があります。
まとめ
今回紹介した研究では、モリンガ葉粉末をサワードウパンに加えることで、発酵自体には大きな支障を与えず、パンの抗酸化関連の指標や香りの複雑さが高まる一方、パンのふくらみは控えめになり食感がしっかりする傾向が示されました。とりわけ5%添加のパンは官能評価で好意的に受け止められ、消費者調査でも価格プレミアムを支払う意向を示す人が多かったことから、機能性と嗜好性を両立させる食品素材としてのモリンガ葉粉末の可能性を示す一例といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:モリンガ(Moringa oleifera)葉粉末添加がサワードウパンの品質および機能特性に与える影響(アプライド・フード・リサーチ・2026年07月)