著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Journal of Agronomy and Crop Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
高温下でのイネの働きと収量を調べる
研究チームは、植物ホルモンの一種であるブラシノステロイドを葉に散布すると、高温にさらされたイネの生理機能や収量にどのような影響があるかを調べました。対象は、熱帯のイネ品種KDML105です。穂が発達して種子をつくる生殖成長期に着目しました。
実験は、出穂前の穂ばらみ期と、全体の半分ほどが開花した時期に行われました。温室で42℃に7日間さらす試験と、圃場で自然の高温にさらされる条件での試験を実施し、ブラシノステロイドを散布しない場合と、濃度を変えて散布した場合を比較しました。
細胞膜と光合成に見られた違い
著者らによると、高温ストレスを受けたイネでは、細胞からの電解質の漏出と、膜の脂質の酸化を示すマロンジアルデヒドが増加しました。これらは、細胞膜の安定性が低下したことを示す指標です。また、光合成色素が減り、光合成で光エネルギーを利用する仕組みの一つである光化学系IIの効率も低下しました。気孔を通じたガスや水蒸気の出入りも低下し、光合成でつくられる物質と子実収量が減ったと報告しています。
一方、ブラシノステロイドを散布したイネでは、細胞膜の安定性と光合成色素が保たれ、光化学系IIの効率や二酸化炭素のガス交換が改善しました。調べた濃度の中では、0.5 nMで生理機能の改善が最も大きかったとされています。また、半分ほどが開花した時期は、穂ばらみ期より高温の影響を受けやすいことが示されました。
収量の改善につながる働き
研究チームは、ブラシノステロイドの散布によって、穂当たりの総粒数、実の詰まった粒の数、子実収量が増えたと報告しています。光合成や細胞膜の状態が保たれたことが、光合成でつくられた物質の移動や、穀粒に養分が蓄積する過程の改善に関係した可能性があると説明しています。
この研究は、KDML105の生殖成長期において、光合成機能と細胞膜の安定性を保つブラシノステロイドの働きが、高温への耐性と収量の維持に関わることを示唆しています。
原著論文の著者・所属:Surachai Chaiyasid(Department of Agronomy, Faculty of Agriculture Khon Kaen University Khon Kaen Thailand; Salt Tolerant Rice Research Group Khon Kaen University Khon Kaen Thailand)、Sumalee Chookamphaeng(Department of Biology, Faculty of Science Mahasarakham University Mahasarakham Thailand)、Weerasin Soonjaroon(Department of Horticulture, Faculty of Agriculture Kasetsart University Bangkok Thailand)、Anoma Dongsansuk(Department of Agronomy, Faculty of Agriculture Khon Kaen University Khon Kaen Thailand; Salt Tolerant Rice Research Group Khon Kaen University Khon Kaen Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Surachai Chaiyasid, Sumalee Chookamphaeng, Weerasin Soonjaroon, et al. Brassinosteroid Enhances Thermotolerance by Improving Photosynthesis and Membrane Stability Under Reproductive‐Stage Heat Stress in KDML105 Rice ( Oryza sativa L.). Journal of Agronomy and Crop Science 2026-11-01. DOI: 10.1111/jac.70263. 原著ライセンス:CC BY.