この研究は、ポルトガル、北マケドニア、スロバキア、イタリア、エストニア、セルビア、ポーランド、トルコ、レバノン、フランス、スイスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
キムチ、ヨーグルト、味噌、チーズ、発酵ソーセージ…。発酵食品は世界中の食文化に根づき、健康志向の高まりとともにその栄養的・機能的な特性が注目されています。一方で、発酵という工程自体が食品の保存性や安全性を高めるとされる反面、微生物や化学物質によるリスクを心配する声も根強くあります。今回紹介する論文は、こうした発酵食品の安全性について、これまでに発表された研究を幅広く集めて整理した『系統的スコーピングレビュー』です。
どのように調べたのか
研究チームは、PRISMAという系統的レビューの国際的な手法にのっとり、あらかじめ定めた手順に従って文献を収集しました。検索にはPubMed、Scopus、Cochrane Libraryという主要な学術データベースが使われ、対象・曝露・比較・結果(PECO)という枠組みで、人を対象とした研究のうち適格な条件を満たすものが選ばれました。対象としたのは、あらゆる集団層と、乳製品や発酵肉、穀物ベースの食品など主要な食品カテゴリーにまたがる幅広い発酵食品です。なお、アルコール度数1.25%を超えるアルコール飲料は対象から除外されています。調べられたのは、食品中に危害要因がどの程度見つかるか(occurrence)、それによる人への曝露やリスク、そして実際に報告された食中毒事例です。
研究でわかったこと
微生物によるリスクについては、サルモネラ属菌、病原性大腸菌、リステリア菌、カンピロバクター、ボツリヌス菌といった病原体が主に関わっており、特に乳製品や発酵肉製品で食中毒事例が多く報告されていたとされています。ただし論文では、こうしたリスクの多くは発酵という工程そのものよりも、原材料がすでに汚染されていたことや、加工条件が不十分だったこと、あるいは加工後の二次汚染に起因すると分析されています。
化学的な危害要因としては、マイコトキシン(カビ毒)、重金属、多環芳香族炭化水素、アクリルアミドなどが挙げられています。多くのリスク指標は、一般的な摂取量の範囲では懸念が小さいことを示していたとされる一方、特定のチーズや穀物ベースの食品では曝露量が比較的高い場合もあったと報告されています。そしてこの化学的リスクについても、原材料の汚染や加熱処理に由来するものが多く、発酵の工程そのものが主な原因ではないと考察されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この論文は、個々の実験結果を新たに示したものではなく、既存の人を対象とした研究を集めて整理した『スコーピングレビュー』である点に注意が必要です。つまり、発酵食品そのものの安全性を実験で新規に検証したわけではなく、これまでに蓄積された知見を俯瞰的に評価したものです。結論として著者らは、発酵食品に関連して確認されたリスクは、発酵という工程自体よりも、原材料の汚染、加工工程の不備、環境要因によって主に引き起こされていると整理しており、適切な衛生管理や技術的な管理が確保されれば、発酵食品は現代の食生活に安全に取り入れられ得ると論じています。あわせて、原材料の品質管理や工程管理、リスク評価手法の統一化に重点を置いたリスク管理の重要性も指摘されています。これは一つのレビュー研究であり、すべての発酵食品・すべての状況にそのまま当てはまる確定的な結論というわけではない点は留意しておきたいところです。
まとめ
今回のレビューでは、発酵食品にまつわる微生物・化学的リスクの多くが、発酵という工程そのものよりも原材料の汚染や加工管理の不備に起因すると示唆されています。裏を返せば、原材料の品質確保や適切な衛生・技術管理が、発酵食品を安心して食生活に取り入れるうえでの鍵になるとも言えそうです。発酵食品と健康の関係は今後も研究が積み重ねられていく分野であり、今回の知見もその一歩として位置づけられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):発酵食品はヒトの健康にとって安全か?文献の系統的分析(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)
著者:Ricardo Assunção(Food and Nutrition Department, National Institute of Health Dr. Ricardo Jorge, Lisbon, Portugal)、Ricardo Assunção(Egas Moniz Center for Interdisciplinary Research (CiiEM), Egas Moniz School of Health and Science, Almada, Portugal)、Ljupco Angelovski(Faculty of Veterinary Medicine, Ss. Cyril and Methodius University, Skopje, North Macedonia)、Zuzana Ciesarová(National Agricultural and Food Center, Food Research Institute in Bratislava, Bratislava, Slovakia)、Pasquale Russo(Department of Food, Environmental and Nutritional Sciences (DeFENS), University of Milan, Milan, Italy)、Elisa Salvetti(Department of Biotechnology, Verona University Culture Collection (VUCC-DBT), University of Verona, Verona, Italy)、Inga Sarand(Department of Chemistry and Biotechnology, Tallinn University of Technology, Tallinn, Estonia)、Beatriz Nunes Silva(CBQF - Centro de Biotecnologia e Química Fina – Laboratório Associado, Escola Superior de Biotecnologia, Universidade Católica Portuguesa, Porto, Portugal)、Aleksandra M. Torbica(Institute of Food Technology, University of Novi Sad, Novi Sad, Serbia)、Arkadiusz Zakrzewski(0Department of Food Microbiology, Meat Technology and Chemistry, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Olsztyn, Poland)、Müzeyyen Berkel Kasikci(1Department of Food Engineering, Faculty of Engineering and Natural Sciences, Manisa Celal Bayar University, Manisa, Türkiye)、Mustafa Guzel(2Department of Food Engineering, Hitit University, Çorum, Türkiye)、Aline Issa(3Faculty of Nursing and Health Sciences, Notre Dame University- Louaize, Zouk Mosbeh, Lebanon)、Christophe Chassard(4Unité Mixte de Recherche sur le Fromage (UMRF 0545), Institut National de Recherche pour l'Agriculture, l'Alimentation et l'Environnement (INRAE), VetAgro Sup, Université Clermont Auvergne, Aurillac, France)、Smilja Praćer(5Institute for Biological Research Siniša Stanković, National Institute of the Republic of Serbia, University of Belgrade, Belgrade, Serbia)、Guy Vergères(6Research Division Microbial Food Systems, Agroscope, Bern, Switzerland)、Marta Laranjo(7MED-Mediterranean Institute for Agriculture, Environment and Development and CHANGE-Global Change and Sustainability Institute, Departamento de Medicina Veterinária, Escola de Ciências e Tecnologia, Universidade de Évora, Évora, Portugal)