この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の背景と目的

発酵豆乳ホエー豆腐(FSW豆腐)は、豆腐づくりの際に絞り出されるホエー(乳清)を発酵させ、それを凝固剤として用いる伝統的な大豆製品です。化学的な添加物を使わずに作れることから、著者らは近年の「クリーンラベル」志向にも合う製品だと位置づけています。一方で、水分が多く(通常80%超)タンパク質も豊富(およそ6〜8%)で、pHも弱酸性(5.0〜5.5)であるため、腐敗に関わる微生物が増えやすい条件がそろっているとされます。

著者らによれば、実際の低温物流(コールドチェーン)は、工場での冷却、冷蔵輸送、配送センターでの保管、小売店の冷蔵、そして最後の配達まで複数の段階からなり、その間に温度は4〜20°Cの範囲で変動します。しかも、いったん高い温度にさらされた後で冷やし直しても、そこで進んだ食感の劣化が元に戻るわけではありません。こうした「温度の履歴」が効いてくる状況を、一定温度を前提にした従来の予測モデルではうまく捉えられない、というのが著者らの問題意識です。

そこでこの研究では、包装済みのFSW豆腐を対象に、スーパーマーケット販売と電子商取引(EC)という二つの典型的な流通形態で起こる温度変動を再現し、品質がどう変化するかを調べたうえで、その変化を予測するモデルを組み立てることを目的としています。著者らは、FSW豆腐について現実的な温度変動下での微生物の増え方や品質の応答を体系的に扱った研究はこれまで報告されていない、と述べています。

何をどう調べたか

著者らは、大豆を浸漬・磨砕して得た豆乳に発酵豆乳ホエーを加えて凝固させ、成形・圧搾してFSW豆腐を作りました。これを250gのブロックに切り分けて容器に無菌的に詰め、キトサンオリゴ糖(COS)を含む浸漬液を加えたうえで、密封後に加熱殺菌(85°C、30分)を施しています。

温度条件は、実際の流通段階の測定に基づいて設定されました。スーパーマーケット型では倉庫保管10°C、出庫・積み込み20°C、冷蔵輸送4°C、荷下ろし・入庫20°C、小売保管10°C、ピッキング・配送20°C、家庭での保管10°Cという流れです。EC型では倉庫保管10°C、梱包・出庫20°Cのあと、物流輸送で1日目4°C、2日目10°C、3〜4日目20°Cと段階的に上がり、最後に家庭で10°Cという設定になっています。これらをもとに6つの試験群(スーパー型のS1〜S3、EC型のE1〜E3)を設け、24時間ごとに試料を取り出して、生菌数(TVC)、低温細菌数(PBC)、保水性(WHC)、そして硬さ・弾力・咀嚼性といった食感の指標を測定しました。

モデル構築では、微生物の増殖を表す一次モデルとしてBaranyi–Robertsモデル、温度と増殖速度の関係を表す二次モデルとしてRatkowskyモデルを組み合わせ、時々刻々変わる温度を代入することで非等温条件での増殖を再現しています。著者らがBaranyi–Robertsモデルを選んだのは、温度変動が微生物の「誘導期」(増殖が本格化するまでの準備期間)に与える乱れを表現できるためです。さらに、この仕組みに基づく予測と実測とのずれ(残差)を補正するために、ランダムフォレストと勾配ブースティング木という2つの機械学習手法を組み合わせた層を追加しました。6群のうち4群(S1、S2、E1、E2)をモデル作成用、残る2群(S3、E3)を検証用として、群の単位でデータを分けています。

主な報告結果

微生物については、4つの群すべてで保存期間とともにTVCとPBCが増え続けましたが、その速さは流通形態によって明確に異なりました。35日後のTVCはS1で6.51、S2で6.32、E1で6.82、E2で7.35 lg CFU/gで、最も遅かったのはS2、最も速かったのはE2でした。商業的に受け入れ可能な上限として5 lg CFU/gを基準にすると、この値に達したのはS1が約24日、S2が約27日、E1が約20日、E2が約17日の時点だったと報告されています。著者らはE2の速さについて、4日目に20°Cにさらされたことで菌数が大きく増え、誘導期も短くなったため、その後10°Cの家庭保管に移っても影響が残ったのだと説明しています。一方S2は全体を通じて温度変動が小さく、増殖が抑えられていました。

食感の指標も一貫して低下しました。初期の硬さは4群とも259.26〜261.77gの範囲でしたが、35日後にはS1が159.87g、S2が166.89g、E1が156.13g、E2が149.35gとなり、それぞれ38.9%、36.2%、40.3%、42.4%の減少にあたります。咀嚼性の低下はさらに大きく、E2では初期160.27gから74.89gへと53.3%減少した一方、S2では160.28gから92.54gへの低下にとどまりました。弾力も同じ傾向を示し、35日後の減少率はE2が51.4%、S2が41.9%でした。著者らは、硬さに比べて弾力の低下がやや緩やかだったことから、ゲル網目の弾性構造は硬さほど微生物による分解に敏感ではないのかもしれない、と述べています。

保水性(WHC)も全群で低下し、E2では特に保存後期(25日以降)に低下が加速して35日後に47.04%となりました。注目されているのはE1の挙動です。序盤から中盤(0〜15日)は低下が緩やかだったものの、3日目の20°C曝露以降、後半(15〜35日)で低下が急激に進み、最終的にはE2をわずかに上回る程度の値にとどまりました。著者らはこの結果を、輸送中のたった一度の高温曝露であっても、FSW豆腐の保水性に長期的な悪影響を及ぼしうることを示すものだと解釈しています。

モデルの側では、TVCとPBCの増殖パラメータ(最大菌数、最大比増殖速度など)がいずれも高い有意水準を満たしたと報告されています。中でも興味深いのは、増殖可能な最低温度の推定値がTVCで0.47°Cだったのに対し、PBCでは5.66°Cと明確に高かった点です。著者らはこれを、低温細菌が低温域で相対的に高い代謝活性を保つ生物学的な裏づけであり、保存後期の低温段階でPBCの割合が徐々に増えていった現象をモデルの側から説明するものだと位置づけています。なお保水性のモデルだけは、微生物数ではなく保存時間の関数として組み立てられました。これは、予備的な解析で菌数からの予測がうまくいかなかった(R²=0.41)のに対し、時間に基づく当てはめが良好だった(R²=0.94)ためで、ゲル網目の分解が瞬間的な菌数よりも、蓄積した酵素作用の総量に対応する過程だからだと説明されています。

この研究が示すこと

著者らの報告からは、FSW豆腐の品質劣化を左右するのが単に「低温で運ぶかどうか」ではなく、温度がどれだけ揺れ動いたかであることが読み取れます。比較的安定した温度を保つスーパー型では劣化が緩やかだったのに対し、途中で20°CにさらされるEC型では、その後冷やし直しても劣化の進行が続きました。温度の履歴が製品に残る、という点がこの研究の中心にあります。

また、微生物増殖の理論モデルに機械学習による残差補正を重ねるという設計は、変動する温度条件下の品質変化を扱う一つの方法論として提示されています。著者らは同時に、本研究の対象がキトサンオリゴ糖を加え加熱殺菌を施した製品であること、各温度条件が1群ずつに適用されたことから、結論は試験した特定の温度パターンと製品系に対するものであり、無処理の生のFSW豆腐へそのまま当てはめるべきではないと明記しています。

著者:Zhao D(College of Economics and Management, Shaoyang University, Shaoyang 422000, China.; Hunan Provincial Key Laboratory of Soybean Products Processing and Safety Control, Hunan Engineering Research Center of Green Processing and Equipment of Hunan-Style Food, Shaoyang University, Shaoyang 422000, China.)、Huang Z(Hunan Provincial Key Laboratory of Soybean Products Processing and Safety Control, Hunan Engineering Research Center of Green Processing and Equipment of Hunan-Style Food, Shaoyang University, Shaoyang 422000, China.)、Chen H(Hunan Provincial Key Laboratory of Soybean Products Processing and Safety Control, Hunan Engineering Research Center of Green Processing and Equipment of Hunan-Style Food, Shaoyang University, Shaoyang 422000, China.)、Zhao L(Hunan Provincial Key Laboratory of Soybean Products Processing and Safety Control, Hunan Engineering Research Center of Green Processing and Equipment of Hunan-Style Food, Shaoyang University, Shaoyang 422000, China.)、Zhou X(Hunan Provincial Key Laboratory of Soybean Products Processing and Safety Control, Hunan Engineering Research Center of Green Processing and Equipment of Hunan-Style Food, Shaoyang University, Shaoyang 422000, China.)、Zhou X(Hunan Provincial Key Laboratory of Soybean Products Processing and Safety Control, Hunan Engineering Research Center of Green Processing and Equipment of Hunan-Style Food, Shaoyang University, Shaoyang 422000, China.)、Fan L(Yanjinpuzi Food Co., Ltd., Liuyang 410329, China.)、Li F(Yanjinpuzi Food Co., Ltd., Liuyang 410329, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhao D, Huang Z, Chen H, et al. Quality Variation Patterns and Predictive Modeling of Fermented Soybean Whey-Based Tofu Under Cold-Chain Conditions Using Kinetic and Machine Learning Approaches. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-04. DOI: 10.3390/foods15173147. 原著ライセンス:CC BY.