著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Plant Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
産地の違いと品種の違いを切り分ける
ナツメは中国原産の果樹で、食品や伝統的な薬用素材として利用されてきました。用途によって生食用と乾果用に大別され、乾果用の品種は乾物の割合が高く加工に向くことから、干しナツメ産業や機能性食品の素材として重視されています。果実には有機酸、フラボノイド、トリテルペノイド、フェノール酸、アルカロイドなど多様な成分が含まれます。
これまでの品種評価は、果実の重さや糖度といった従来の指標が中心でした。また、各地の産地から集めた果実を比べる研究では、気候や土壌などの環境の違いが成分に影響するため、見られた差が品種そのものによるのか、育った環境によるのかを区別しにくいという問題がありました。
研究チームはこの点に着目し、出身地の異なる品種を同じ場所・同じ管理条件で育てる「共通圃場(コモンガーデン)」の方法を用いて、乾果用ナツメの遺伝資源(品種や系統)がもつ代謝物の多様性を調べました。あわせて、栄養や機能に関わる成分の構成が有望な候補資源を見つけることも目的としました。
66品種を同じ条件で育てて網羅的に分析
対象は、広東、甘粛、貴州、河南、湖南、山西、陝西、山東、遼寧、新疆、雲南という中国11地域に由来する乾果用ナツメ66品種です。いずれも山西省太谷にある同一のナツメ遺伝資源圃場で、同じ条件と管理のもとで栽培されていました。
果実は商業的な成熟期に収穫され、品種ごとに3本の木から、それぞれ傷のない20果を集めて分析に用いました。分析には、液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせたLC-MS/MSによる「ワイドターゲット型メタボロミクス」が使われました。これは、標準物質をもとに作成したデータベースと照合しながら、果実に含まれる多数の代謝物(生体内でつくられる低分子の化合物)を一度に調べる手法です。
得られたデータは、多数の成分の情報を少数の軸にまとめて品種間の位置関係を描く主成分分析などの統計手法や、成分の似かたで品種をグループ分けする階層クラスタリングで解析されました。さらに、主要な成分群ごとの蓄積の傾向を比較し、品種を総合的に評価しました。なお、成分量は絶対量ではなく品種間で比べるための相対的な量として扱われています。
出身地では説明しきれない品種ごとの違い
分析の結果、460種類の代謝物が同定・注釈されました。主なものは有機酸、テルペノイド、フラボノイド、ヌクレオチドとその誘導体、脂質などです。
主成分分析では66品種の代謝物の構成がはっきりと分かれ、第1・第2主成分でそれぞれ全体のばらつきの40.67%と32.23%が説明されました。ところが、品種は出身地ごとにまとまらず広く散らばっていました。階層クラスタリングでも、同じ地域の品種が別々のグループに分かれる一方、異なる地域の品種が近い位置にまとまる例が見られました。著者らは、同じ環境で育てても品種ごとの代謝の特徴が保たれていることから、違いの大きな部分が遺伝資源に関連したものだと解釈しています。ただし、環境の影響が完全に除かれたとは言い切れない点も論文の中で述べられています。
成分群別にみると、有機酸、フラボノイド、フェノール酸、トリテルペノイド、アルカロイドは品種間の差が大きく、品種ごとの特徴づけに大きく寄与していました。これに対し、アミノ酸やヌクレオチドなどの基本的な代謝に関わる成分は比較的安定していました。有機酸はすべての品種で最も多い成分群で、多くの試料で全体の4割を超えていました。
個別の品種では、例えばSHX-Y-Xが有機酸やフェノール酸、トリテルペノイドを多く含み、YN-X-Xはフラボノイドが特に多く、LN-G-Dはトリテルペノイドの蓄積が目立ちました。主要な成分群を総合した評価では、SHX-J-C、SHX-Y-X、SHX-Y-D、LN-G-Dが栄養・機能に関わる主要成分について良好な構成を示したと報告されています。研究チームは、この総合評価は成分群の選び方や重みづけに前提を置いた比較用の指標であり、栄養価そのものを絶対的に示すものではないと位置づけています。
品種そのものの個性を見るための手がかり
この研究は、環境条件をそろえて多数の品種を比べることで、乾果用ナツメの成分の違いが産地だけでは説明できず、品種の背景が大きく関わっていることを示しました。著者らは、今回見いだされた候補品種が、品質評価や育種、機能性食品への利用を検討するうえでの材料になるとしています。
著者:Shiyong Wen(College of Life Scinece, Dezhou University, Dezhou, Shandong, China)、Wenjia Leng(Shandong Agricultural Engineering University, Zibo, Shandong, China)、Haiyang Wang(College of Life Scinece, Dezhou University, Dezhou, Shandong, China)、Liguo Qiu(College of Life Scinece, Dezhou University, Dezhou, Shandong, China)、Wenjiao LI(Dezhou Academy of Agricultural Sciences, Dezhou, Shandong, China)、Lan Wang(Dezhou Guixin Environmental Protection Technology, Dezhou, Shandong, China)、Xingang Li(College of Forestry, Northwest Agriculture and Forestry University)、Cuiping Wen(College of Life Scinece, Dezhou University, Dezhou, Shandong, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shiyong Wen, Wenjia Leng, Haiyang Wang, et al. Common-garden metabolomics reveals germplasm-associated metabolic diversity and candidate resources for functional food development in dried jujube (Ziziphus jujuba Mill.). Frontiers in Plant Science 2026-10-14. DOI: 10.3389/fpls.2026.1980416. 原著ライセンス:CC BY.