著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
短い「食べ頃」をどう保つか
キウイフルーツは、収穫後に追熟させてから食べる果物です。収穫した時点ではまだ硬く、追熟が進むと味と食感が最もよい「食べ頃」の時期に入ります。論文では、この時期を糖度の目安となる可溶性固形分が14〜21%、果肉の硬さが10〜20ニュートンの範囲と説明しています。
出荷の現場では、植物ホルモンのエチレンを与えて追熟を早める方法がよく使われます。ただし、著者らが引用した先行研究によると、品種「貴長」ではエチレン処理後の食べ頃が3〜5日ほどしか続きません。この短さが流通や販売の大きな課題になっています。
鮮度保持剤としては、エチレンの働きを妨げる1-メチルシクロプロペン(1-MCP)が広く使われています。一方で、食べ頃の果実に適切でない方法で使うと、芯が硬く残ったり風味が落ちたりするという報告もあります。そこで研究チームは、植物の生理を調節する小さな分子として注目されているメラトニンとアセチルサリチル酸を1-MCPと比べました。目的は、食べ頃の果実に適した濃度を決め、品質への影響と、呼吸やエネルギー代謝に働く仕組みを調べることでした。
どのように調べたか
研究チームは、2024年9月に中国貴州省で収穫した「貴長」キウイフルーツを使いました。まずエチレンで追熟させ、食べ頃の直前の段階(可溶性固形分の平均13.5%)にそろえました。
最初の実験では、3種類の処理についてそれぞれ複数の濃度を試し、最も適した濃度を選びました。1-MCPはガスとして果実に当て、メラトニンとアセチルサリチル酸は溶液に浸してから乾かしました。次の実験では、選んだ濃度で処理した果実と、何も処理しない果実を比べました。果実はまず4℃で12日間保管し、その後25℃の室温に移して11日間置きました。
この間に、腐敗の割合、果皮側・内側・芯の硬さ、色、糖度、酸度、ビタミンC量を測りました。あわせて、果実の呼吸量とエチレンの発生量も記録しました。さらに、細胞のエネルギー源であるATPなどの量、呼吸やエネルギー利用に関わる酵素の働き、そしてどの遺伝子がどれだけ働いているかを網羅的に調べる遺伝子発現解析も行いました。
主な結果
濃度を比べた結果、最も効果的だったのは1-MCPが0.5 µL/L、メラトニンが1.0 mmol/L、アセチルサリチル酸が2.0 mmol/Lでした。
比較実験では、3種類の処理のいずれも、無処理と比べて腐敗を有意に抑えました。室温に移してから11日目の時点で、無処理と比べた腐敗率の減少は、アセチルサリチル酸で20.78%、1-MCPで49.09%、メラトニンで52.17%と報告されています。見た目では、無処理とアセチルサリチル酸の果実は室温7日目に褐変が現れました。1-MCPの果実は11日目にわずかな褐変が見られる程度で、メラトニンの果実は実験期間を通して当初の外観を保ちました。
硬さはどの処理でも落ちにくくなりました。特に芯の硬さは1-MCPが最もよく保ち、次いでメラトニン、アセチルサリチル酸の順でした。メラトニンと1-MCPは、糖度の上昇を抑え、酸度とビタミンC量を無処理より高く保ちました。アセチルサリチル酸の効果はこれより弱いものでした。
低温保管中、無処理の果実では6日目にエチレン発生のピークが見られました。一方、3種類の処理をした果実ではエチレンが検出されませんでした。室温に移ると、どの果実も7日目にエチレン発生がピークに達しましたが、処理した果実ではそのピークが有意に低くなりました。低温保管6日目の呼吸量のピークでは、無処理の果実の値がアセチルサリチル酸の1.06倍、メラトニンの1.21倍、1-MCPの1.43倍でした。
エネルギーの面では、処理した果実は室温期間中もATP量と、細胞のエネルギーの余裕を示す「エネルギーチャージ」を高く保ちました。この傾向は特にメラトニンと1-MCPではっきりしていました。また、ATPを使って細胞内のイオンバランスを保つ膜の酵素(H+-ATPaseとCa2+-ATPase)の働きは無処理より高く保たれ、呼吸に関わる酵素の働きは低く抑えられていました。遺伝子発現解析では、糖を分解してエネルギーを取り出す一連の経路(解糖系、TCA回路、ペントースリン酸経路、酸化的リン酸化)で、処理によって遺伝子の働きが変わっていることが示されました。論文では、メラトニンが引き起こした遺伝子発現の変化は1-MCPとよく似ており、13の代謝経路が共通していたと報告しています。
この研究が示すこと
著者らは、メラトニンが品質とエネルギー状態に関わる多くの指標で良好な結果を示したことから、食べ頃のキウイフルーツの品質を保つ処理として1-MCPの代わりになる可能性があると結論づけています。ただし、どの処理にも得意な点がありました。腐敗を最も抑えたのはメラトニン、芯の硬さを最も保ったのは1-MCPでした。
なお、エチレンの作られ方に処理がどう働くかといった仕組みの一部は、この研究で直接確かめたものではないと著者らは述べています。また、実際に食べたときの味や香りの評価は今回行われていません。それでも、追熟後の短い食べ頃の時期に、果実の過剰な呼吸を抑えつつATPなどのエネルギー状態を高く保つことが品質の維持と結びついている様子を、3種類の処理を並べて示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Xiaomao Li(Guiyang University)、Zulin Mei(Guiyang University)、Nanxin Zhang(Guiyang University)、Xianzhi Liu(Guiyang University)、Jiqing Lei(Guiyang University)、Yuanyuan Liu(Guizhou University)、Bangdi Liu(Academy of Agricultural Planning and Engineering, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Beijing 100125, China)、Pufan Zheng(Tianjin Academy of Agricultural Sciences)、Cunkun Chen(Tianjin Academy of Agricultural Sciences)、Guangjing Chen(Guiyang University)、Ning Ji(Guiyang University)、Rui Wang(Guiyang University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaomao Li, Zulin Mei, Nanxin Zhang, et al. Melatonin Extends the Edible Window Period of Kiwifruit by Modulating Energy Metabolism and Respiration: A Comparison with 1-Methylcyclopropene and Acetylsalicylic Acid. Foods 2026-09-29. DOI: 10.3390/foods15193489. 原著ライセンス:CC BY.