この研究は、セルビアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Pendas Jurnal Ilmiah Pendidikan Dasar

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

記憶力、注意力、情報を処理する速さ、計画を立てて行動を組み立てる力(実行機能)などをまとめて「認知機能」と呼びます。学習や仕事、日々の生活の質を左右する大切な能力です。近年は脳の健康を支える手段として天然素材への関心が高まっており、その代表として多く研究されてきた植物がオタネニンジン(Panax ginseng、いわゆる高麗人参)です。高麗人参には「ジンセノサイド」と呼ばれるサポニン類の成分が含まれ、さまざまな生物学的作用に関わると考えられています。

著者らは、高麗人参が認知機能を支える候補になり得るかについて、動物や細胞を用いた前臨床研究と、人を対象にした臨床研究の知見をまとめることを目的としました。あわせて、各研究の対象者が結論を当てはめる範囲として適切か、根拠の強さはどの程度か、主な限界は何かも検討しています。

どのように調べたか

研究チームは、PubMed、Scopus、ScienceDirect、Google Scholarの4つの文献データベースを使い、「高麗人参」「紅参」「ジンセノサイド」「認知機能」「記憶」「注意」「軽度認知障害」「アルツハイマー病」「青年」などの語を組み合わせて文献を探しました。主に2019年から2025年の論文を対象とし、特に重要な臨床試験や10代を対象とした研究は、それより前のものも限定的に含めています。

重複の除去、題名と要旨による選別、全文の確認という段階を経て論文を選び、研究デザイン、対象者、摂取した製品と期間、測定した項目、主な結果、限界などを整理しました。研究ごとに対象者や製品、摂取量、期間、測定方法が大きく異なるため、効果の大きさを統計的にまとめる方法ではなく、知見を文章で比較・整理する「ナラティブ・レビュー」という形をとっています。根拠の強さについては、プラセボ(有効成分を含まない偽の製品)と比べるランダム化比較試験やメタ解析(複数の研究結果を統合する分析)を強い根拠、前臨床研究を作用の仕組みを説明する補助的な根拠として位置づけました。

主な報告結果

人を対象とした研究では、記憶や全般的な認知機能に関する改善が比較的多く報告されていました。主観的に記憶の衰えを感じている55〜75歳の80人を対象とした試験では、高麗人参製品を1日450ミリグラム、12週間摂取したグループで、言葉の記憶、図形などの視覚的な記憶、全般的な認知機能、睡眠の質、記憶に関わる神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素の活性の指標が、プラセボと比べて改善し、重大な安全性の問題は見られなかったと報告されています。また、軽度認知障害のある韓国の90人が高麗人参の粉末を1日3グラム、24週間摂取した試験では、図形をすぐに思い出す課題と時間をおいて思い出す課題で有意な改善が見られた一方、改善がはっきりしなかった項目もあったとされています。

中程度のストレスを抱える成人149人を対象とした試験では、水耕栽培の紅参を1日200ミリグラム、3週間摂取したところ、感じているストレスや否定的な気分が下がり、空間的な計画課題での反応が速くなったと報告されています。ただし、認知面の変化は主に反応の速さに表れ、すべての認知領域で変化が見られたわけではありませんでした。

複数の臨床試験を統合したメタ解析では、認知機能や記憶に障害のある人で、高麗人参の使用が認知機能検査の点数の改善と関連していたと報告されています。一方、10代についての直接の証拠は、13〜18歳の40人が高麗人参入りのお茶を4週間飲んだ小規模な試験が中心で、視覚的な認知課題の一部に効果が見られたものの、対象者が少なく期間も短いため、根拠は限られていると著者らは評価しています。

作用の仕組みについては、ジンセノサイドが酸化ストレスや炎症を抑える、神経細胞の死を防ぐ、神経同士のつながりが変化して学習に適応する力(シナプス可塑性)や新しい神経細胞の形成に関わる、といった経路が前臨床研究などから示されているとまとめています。また、ジンセノサイドは腸内細菌によって活性のある代謝物に変えられるため、腸内細菌の個人差が効き方の違いや研究間で結果がそろわない一因になり得ることも指摘しています。

この研究が示すこと

著者らは、高麗人参は認知機能を支える機能性食品や栄養補助食品の候補になり得るとしつつも、研究ごとに対象者、製品の種類、摂取量、期間、評価方法がばらばらで、根拠の強さには差があると結論づけています。現時点で比較的しっかりした根拠があるのは、成人や高齢者、記憶に不安や障害のある人を対象とした研究であり、10代について直接の根拠は不十分だとしています。

このレビューは、高麗人参の効果をどの集団に、どの程度まで語れるのかを整理したものです。期待される効果を、実際に調べられた対象者や条件に見合った範囲で控えめに伝えることの大切さを示しています。

著者:Hanifah Fazilatun Nisa(Faculty of Military Pharmacy, The Republic of Indonesia Defence Universiti)、Rinda Dwi Sartika(Faculty of Military Pharmacy, The Republic of Indonesia Defence Universiti)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hanifah Fazilatun Nisa, Rinda Dwi Sartika. PANAX GINSENG AS A CANDIDATE FOR IMPROVING COGNITIVE FUNCTION : A SYNTHESIS OF PRECLINICAL AND CLINICAL EVIDENCE. Pendas Jurnal Ilmiah Pendidikan Dasar 2026-09-13. DOI: 10.23969/jp.v11i03.67567. 原著ライセンス:CC BY.