この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした論文か
著者らは、ニキビ(尋常性ざ瘡)と化膿性汗腺炎という二つの慢性的な皮膚の炎症性疾患について、亜鉛を口から補うこと(経口亜鉛補充)がどこまで役立つのかを、これまでに報告された研究をあらためて整理した総説を発表しました。
ニキビは毛穴と皮脂腺からなる部分に起こる炎症で、世界人口のおよそ9.4%が抱えていると論文は紹介しています。化膿性汗腺炎は毛包(毛が生える袋状の組織)の慢性的な炎症で、わきの下や股などに痛みを伴うしこりや膿の袋、皮膚の下のトンネル状の管(瘻孔)ができ、有病率はおよそ0.40%とされます。どちらも既存の治療薬はありますが、著者らは、副作用や使いにくさ、抗菌薬が効きにくくなる耐性の問題といった制約が残っていると述べています。
こうした背景のもと、両疾患の患者では血液中の亜鉛値が低いという報告があることから、亜鉛の状態が病気の勢いと関わるのか、また補助的な治療になりうるのかへの関心が高まってきました。本論文はあらかじめ手順を定めた系統的レビューではなく、臨床・基礎の研究を幅広く集めて批判的に見渡す「ナラティブレビュー」として書かれています。
亜鉛が皮膚で果たしている働き
著者らはまず、亜鉛がなぜ皮膚の炎症に関わりうるのかという生物学的な理屈を整理しています。亜鉛は300を超える酵素と2000以上の転写因子(遺伝子の働きをオン・オフする調節役のたんぱく質)の補因子として働く必須の微量元素で、細胞の増殖や分化、免疫の調節に欠かせません。
具体的には、活性酸素の害を抑える抗酸化作用、CRPやTNF-αといった炎症の指標を下げる報告、細菌を見分けて炎症の合図を出すToll様受容体2(TLR-2)の働きを弱める作用などが挙げられています。またニキビに関わる細菌であるキューティバクテリウム・アクネスを抑える作用や、細菌が作る膜状のかたまり(バイオフィルム)の形成を試験管内で妨げる性質も報告されています。さらに、試験管内の研究では男性ホルモンを活性の強い型に変える5α還元酵素を抑えることが示され、皮脂の分泌を通じた間接的な作用の可能性も指摘されています。傷の治りや皮膚の再生に亜鉛が必要であることも、以前から知られている点として紹介されています。
ただし論文は、これらの多くが実験的・機序的な知見であり、実際の患者にどこまで意味のある効果として現れるかは別に確かめる必要がある、という位置づけを明確にしています。
ニキビでの報告結果
亜鉛への関心は1970年代にさかのぼります。当時の対照試験では、硫酸亜鉛(亜鉛として1日135mg相当)を飲んだ患者で4週間後に炎症を伴う皮疹が有意に減り、ビタミンAを併用しても上乗せの効果はみられなかったと報告されました。英国で行われた無作為化試験では、硫酸亜鉛とオキシテトラサイクリンという抗菌薬が12週間でどちらも約70%の重症度低下を示し、両群に有意差はなかったとされています。一方で、面皰(コメド)などの炎症を伴わない皮疹では明確な利点が示されなかった研究もあり、結果は一様ではありませんでした。
用量については、研究で用いられた量はおおむね亜鉛として1日30〜135mgの範囲でした。初期の高用量の硫酸亜鉛では消化器症状が問題となり、研究によっては最大40%に副作用が生じ、強い吐き気で約20%が中止したと報告されています。そのため、より低い用量で使えるグルコン酸亜鉛や酢酸亜鉛が検討されてきましたが、著者らは、両者を直接比較した試験は存在せず、グルコン酸亜鉛のほうが忍容性に優れるという見方は間接的な証拠に基づくものだと注意を促しています。
大規模な比較試験としては、Drénoらが332人の炎症性ニキビ患者を対象に、グルコン酸亜鉛(亜鉛として1日30mg)とミノサイクリン1日100mgを比べた二重盲検試験が紹介されています。3か月後、炎症性皮疹が3分の2以上減る「臨床的成功」に至ったのはミノサイクリン群の63.4%に対し、亜鉛群は31.2%で、抗菌薬のほうが優れていました。それでも亜鉛群のおよそ3分の1に意味のある改善がみられ、忍容性は両群で同程度だったと報告されています。
より新しい統合解析として、Yeeらが25件の研究・2445人分のデータをまとめた系統的レビューとメタ解析が挙げられています。観察研究ではニキビ患者の血中亜鉛値が健康な人より有意に低く、介入研究では亜鉛補充によって炎症を伴う丘疹の数が有意に減った一方、面皰などの非炎症性の皮疹では一貫した効果は認められませんでした。副作用の増加も対照群に比べて有意ではなかったと報告されています。
このほか、イソトレチノインとの組み合わせを調べた予備的な試験も紹介されています。標準量(0.5mg/kg/日)の群と、低用量(0.25mg/kg/日)に経口亜鉛を加えた群を比べたところ、ニキビの消失に差はなく、口唇炎や皮膚の乾燥といった典型的な副作用が出た割合は併用群で20%、標準量群で76.7%でした。再発率は同程度だったと報告されています。著者らは、この知見はまだ予備的なものだと述べています。
化膿性汗腺炎での報告結果
化膿性汗腺炎では、多施設共同の症例対照研究により、血中亜鉛値の低さが患者で有意に多く、しかも重症度が高い場合(Hurley病期III、3か所以上の部位に及ぶ場合、陰部や会陰部の病変)と関連していたことが報告されています。また、経口亜鉛を3か月投与すると病変部の皮膚で抗菌ペプチドや自然免疫に関わる遺伝子の発現が高まったという前向き研究も紹介されています。
臨床試験は小規模なものが中心です。2007年の非盲検の予備的研究では、従来治療が効きにくい軽症〜中等症の患者22人にグルコン酸亜鉛90mg/日を4か月投与したところ、全員が何らかの改善を示し、8人が完全寛解に至りました。副作用は下痢や腹痛など軽い消化器症状が中心で、中止したのは1人でした。
後ろ向きの研究では、Hurley病期I〜IIの66人にグルコン酸亜鉛90mg/日と2%トリクロサンの外用を併用した3か月間で、炎症性の結節や新たな増悪が有意に減った一方、瘻孔の数には有意差がなく、すでにできた管状の病変を元に戻すことはできないと確認されました。また、ミノサイクリンによる治療の後にグルコン酸亜鉛90mg/日とニコチンアミドを維持療法として用いた後ろ向き研究では、6か月の観察で増悪の回数が有意に少なく、増悪のない期間が長くなりました。24週の時点で対照群の急性増悪が平均約9回だったのに対し、亜鉛群は約4回で、IHS4という重症度スコアは亜鉛群でほぼ横ばい、対照群では悪化したと報告されています。忍容性は良好で、軽い吐き気を訴えたのは2人でした。
ただし著者らは、化膿性汗腺炎での証拠はニキビよりもはるかに限られ、小規模な観察研究や対照群のない研究が中心であることを繰り返し強調しています。十分な規模の無作為化比較試験がないため、効果や治療全体の中での位置づけについて確かな結論は出せない、というのが論文の評価です。
安全性についての整理
両疾患を通じて、亜鉛補充はおおむね安全で忍容性が良いと報告されており、副作用は吐き気、腹部の不快感、胃の刺激感、消化不良など軽い消化器症状が中心で、患者のおよそ20%に生じるとされています。
一方、著者らが注意を促しているのが、高用量を長く続けた場合の亜鉛誘発性銅欠乏です。亜鉛と銅は腸での吸収を競い合うため、亜鉛として1日およそ100〜300mgを長期に摂ると銅欠乏が起こりうると報告されています。初期には貧血や白血球の一種である好中球の減少といった血液の異常が現れ、長引くと感覚性運動失調や末梢神経障害などの神経の合併症につながることがあり、治療しても完全には戻らない場合があるとされています。ある研究では亜鉛誘発性銅欠乏と確定した患者の約半数が当初は診断されていなかったこと、別の後ろ向き解析では高用量の亜鉛を受けた患者の約13%に銅欠乏と矛盾しない血液や神経の症状がみられたことが紹介されています。
もっとも、ニキビの治療で用いられるのは6〜13週程度の比較的短い期間が多く、リスクは低いと一般に考えられている、と論文は述べています。長期に続ける場合には定期的な検査や銅の併用を勧める意見があることも紹介されています。
この総説が示していること
著者らの整理をたどると、経口亜鉛は、ニキビにおいては炎症を伴う皮疹(丘疹や膿疱)に対して比較的一貫した効果が報告される一方、面皰のような非炎症性の皮疹には効果がはっきりせず、標準的な薬物治療を上回るものではない、という像が浮かび上がります。現在の多くの診療ガイドラインでも第一選択とはされていません。それでも、抗菌薬が使いにくい人や、長期の抗菌薬使用をできるだけ減らしたい場合の選択肢として、補助的あるいは代替的な役割がありうると位置づけられています。
化膿性汗腺炎については、亜鉛値の低さと重症度の関連や小規模研究での改善が報告されているものの、証拠の厚みはニキビに及ばず、著者らは無作為化比較試験の不足を明確な限界として挙げています。
論文全体を通じて繰り返されるのは、研究ごとに設計、亜鉛の種類や用量、治療期間、比較対象、評価方法が大きく異なるため、直接の比較が難しく、確定的な結論に至らないという点です。身近な微量元素をめぐる長年の関心に対して、現時点で何が言え、何がまだ言えないのかを見分ける材料を、この総説は提供しています。
著者:Sabrina Spiniello(Department of Pathophysiology and Transplantation, Università Degli Studi di Milano, 20122 Milan, Italy)、Davide Termini(Department of Pathophysiology and Transplantation, Università Degli Studi di Milano, 20122 Milan, Italy)、Gianluca Tavoletti(Dermatology Unit, Fondazione IRCCS Ca’ Granda Ospedale Maggiore Policlinico, 20122 Milan, Italy)、Gianluca Avallone(Department of Pathophysiology and Transplantation, Università Degli Studi di Milano, 20122 Milan, Italy)、Silvia Alberti‐Violetti(Department of Pathophysiology and Transplantation, Università Degli Studi di Milano, 20122 Milan, Italy)、Angelo Valerio Marzano(Department of Pathophysiology and Transplantation, Università Degli Studi di Milano, 20122 Milan, Italy)、Gianluca Nazzaro(Department of Pathophysiology and Transplantation, Università Degli Studi di Milano, 20122 Milan, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sabrina Spiniello, Davide Termini, Gianluca Tavoletti, et al. Oral Zinc Supplementation in Acne Vulgaris and Hidradenitis Suppurativa: An Updated Comprehensive Review. Nutrients 2026-09-02. DOI: 10.3390/nu18172865. 原著ライセンス:CC BY.