この研究は、中国、香港の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Plant Biotechnology Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ「枝の伸び方」を研究するのか

クコ(ゴジベリー)はナス科の落葉性の低木で、薬用・栄養面で価値の高い果実をつけます。しかし研究チームによると、需要が伸びる一方で収穫作業が産業拡大の大きな壁になっています。中国・寧夏では収穫期が6月から10月まで続き、果実の熟し方がそろわないため毎週摘み取る必要があり、労力とコストがかさむと報告されています。

この背景には、クコが「無限伸長型(indeterminate)」の生育性をもつことがあります。枝の先端が伸び続けるため、同じ株の上に発達段階の異なる花と果実が同時に存在し、機械収穫を難しくしています。これに対し、枝の先端に花がつくことで伸長が止まる「有限伸長型(determinate)」の品種は、果実の成熟がそろい、樹形もコンパクトになります。著者らは、他の作物ではこの性質が機械収穫を可能にしてきた点に着目し、クコで枝の伸び方を決める遺伝子を突き止めて機能を確かめることを研究の目的としました。

手がかりを遺伝子発現から探す

研究チームはまず、クコ(Lycium barbarum)の2品種を交配して得たF1集団を圃場に植え、400個体以上の中から2020年から2022年までの3年間の観察によって、枝の先端に花をつける個体とつけない個体を選び出しました。両方のタイプが同じ交配集団に由来し、同じ条件で育てられているため、遺伝的背景の違いによる紛れが小さい比較になっていると著者らは説明しています。

次に、走査型電子顕微鏡で枝の先端(茎頂)の発達過程を観察しました。無限伸長型では茎頂が栄養成長の性質を保ったまま8〜10枚の葉をつけてから最初の側生の花序をつくるのに対し、有限伸長型では茎頂が次第に小さくなり、先端に花序ができた時点で伸長が止まると報告されています。

さらに、3つのタイプの茎頂(無限伸長型の先端、有限伸長型の停止前、停止後)についてRNAシーケンシングで遺伝子の発現量を網羅的に比べました。ここで「発現量」とは、その遺伝子がどれだけ働いているかを転写産物の量で測る指標です。解析の結果、8154個の遺伝子に有意な発現差が見られ、その中から開花や成長の制御に関わると考えられる15個の候補遺伝子が絞り込まれました。

2つの遺伝子を壊して確かめる

候補の中から、著者らはトマトで有限伸長性を決めることが知られるSP遺伝子に似た遺伝子(LbSP1と命名)と、SlSP5Gに相当する遺伝子(LbSP5G1と命名)を選びました。これらはPEBPと呼ばれる共通の構造をもつ遺伝子ファミリーに属し、植物の花芽形成のタイミングや枝分かれの仕方を調節することが他の植物で報告されているグループです。

機能を確かめる手段としてCRISPR/Cas9ゲノム編集が用いられました。これは狙った遺伝子の配列を切断して働かなくさせる技術です。ただしL. barbarumでは安定した形質転換の手法がまだ確立されていないため、著者らは近縁種である黒クコ(Lycium ruthenicum)を材料に用いました。両種で標的配列が完全に一致することを確認したうえで、LbSP1単独、LbSP5G1単独、そして両方を同時に狙う3種類の編集を行いました。

その結果、単一遺伝子を壊した「有限伸長型」の系統と、2遺伝子を同時に壊した「二重有限伸長型」の系統が得られました。著者らはこれらの系統について、枝の高さ、枝の本数と長さ、最初の花序までの葉の数、果実数、株あたりの収量といった樹形・収量に関わる形質を野生型と比較し、コンパクトな樹形、枝先での開花、収量ポテンシャルの向上を報告しています。編集された系統では、RNAシーケンシングとRT-qPCRの両方で対象遺伝子の発現低下が確認されました。

この研究が示すもの

この研究は、クコにおいて枝の伸び方を決める分子的な仕組みの一端を示したものです。著者らによれば、無限伸長型と有限伸長型の茎頂を比較する包括的なトランスクリプトーム解析はクコで初めてであり、そこから見いだされた2つの遺伝子が実際に樹形と開花の様式を左右することが、ゲノム編集によって裏づけられました。

トマトなど他のナス科作物で知られていた制御の仕組みが、これまで研究の進んでいなかったクコでも働いていることが示された点に、この研究の意味があります。密植栽培や機械収穫に適した樹形をもつクコを育種するための分子的な枠組みが、これで一つ用意されたことになります。

著者:Fazal Rehman(College of Advanced Agricultural Sciences University of Chinese Academy of Sciences Beijing China)、Huanfang Liu(College of Advanced Agricultural Sciences University of Chinese Academy of Sciences Beijing China)、Yun Ma(State Key Laboratory of Plant Diversity and Specialty Crops, Guangdong Provincial Key Laboratory of Digital Botanical Garden, Key Laboratory of National Forestry and Grassland Administration on Plant Conservation and Utilization in Southern China, South China Botanical Garden, Chinese Academy of Sciences, South China National Botanical Garden Guangzhou China)、Shaohua Zeng(College of Advanced Agricultural Sciences University of Chinese Academy of Sciences Beijing China)、Yan Wu(College of Advanced Agricultural Sciences University of Chinese Academy of Sciences Beijing China)、Yuan Zong(School of Chinese Medicine Hong Kong Baptist University Hong Kong China)、Chao Yang(College of Advanced Agricultural Sciences University of Chinese Academy of Sciences Beijing China)、Ying Wang(College of Advanced Agricultural Sciences University of Chinese Academy of Sciences Beijing China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fazal Rehman, Huanfang Liu, Yun Ma, et al. CRISPR /Cas9‐Mediated Knockout of LbSP1 and LbSP5G1 Reveals Efficient Customization of Shoot Architecture in Black Goji Berry. Plant Biotechnology Journal 2026-09-02. DOI: 10.1111/pbi.70753. 原著ライセンス:CC BY.