スーパーで買った牛肉のパックを開けたとき、一部だけ色がくすんで見えたことはないでしょうか。牛肉の色は鮮度の印象を大きく左右しますが、実は「なぜ変色するのか」というメカニズムには、まだ解明されていない部分が残っています。今回紹介する研究は、と畜場での湿式熟成の初期段階で見つかった、真空包装のまま変色していた牛肉サンプルを対象に、その原因を探ったものです。
研究チームは、変色が見られたサンプルと、通常の色を保っていた対照群のサンプルを比較しました。色の指標としてはL*、a*、b*値(明るさや赤み・黄みを数値化したもの)や、肉の赤色を担うタンパク質「ミオグロビン」がどの酸化状態にあるかを測定しています。さらに、変色の背景にある要因を探るため、pH値、酸化還元電位、総還元活性、乳酸濃度、抗酸化物質であるα-トコフェロールやβ-カロテンの濃度、そしてエネルギー代謝に関わるNAD+/NADHの濃度なども分析されました。
研究でわかったこと
結果として、色に関する数値やミオグロビンの酸化状態には、対照群と変色サンプルの間で統計的に有意な差が見られました。例えば赤みを示すa*値は対照群で11.21、変色サンプルで9.42。また、酸化型で肉の色がくすんで見える原因となるメトミオグロビンの割合は、対照群で0.79、変色サンプルで1.01と報告されています。
一方で興味深いのは、色そのものに直接関わる指標以外では、乳酸濃度にしか有意差が見られなかった点です。乳酸濃度は対照群で3.90mg/g、変色サンプルで5.60mg/gとなっていましたが、pH値には対照群5.60、変色サンプル5.61とほとんど差がありませんでした。乳酸は一般的に肉の色を安定させる方向に働くと報告されている物質のため、この結果は少し意外です。乳酸濃度が高いサンプルの方がむしろ変色していたことから、「乳酸が変色を引き起こしている」とは考えにくいと研究者らは指摘しています。
そのため、この研究では、変色の原因を単一の要因に絞り込むことはできず、内因性の複数のパラメーターが絡み合った相互作用や、と畜・脱骨・カット・包装といった加工工程で生じる外因性の要因が関わっている可能性が示唆されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
今回の研究では、変色の直接的な原因を特定するには至りませんでした。研究者ら自身も、この研究を「変色の原因を明らかにするためのさらなる研究の土台となる、探索的な調査」と位置づけています。内因性パラメーター同士の関係性について重要なデータを示した一方で、今回測定されなかった外因性の要因(加工工程における条件など)の影響は、この研究だけでは評価できません。一つの研究であり、変色メカニズムについて結論が確定したわけではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
牛肉の変色は、見た目の印象を左右する身近な現象でありながら、その仕組みは単純ではないことがこの研究からうかがえます。乳酸濃度に差があったものの、それが変色の直接原因とは考えにくいという結果は、食品の品質管理を考えるうえでも示唆に富むものです。今後、内因性・外因性の要因をさらに掘り下げる研究が進むことで、変色のメカニズム解明につながっていくことが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:真空包装牛肉における変色原因としての抗酸化物質および内因性要因の検討(フード・サイエンス・オブ・アニマル・リソーシズ・2026年08月)