魚の資源を守りながら漁業を続けるためには、『今どれくらいの魚が獲られていて、資源はどのくらい残っているのか』を科学的に把握することが欠かせません。しかし、多くの国や地域では、長期にわたる詳細な調査データが十分にそろっているわけではなく、こうした『データが限られた状況』でも資源状態を評価する手法の開発が世界的な課題になっています。今回紹介する研究は、西アフリカのギニア湾中央部に生息する二種の魚、ボンガシャッド(Ethmalosa fimbriata)とアフリカヒメシタビラメ(Galeoides decadactylus)を対象に、データが限られた条件下でも使える複数の資源評価モデルを組み合わせて、その資源状態を調べたものです。
どんな方法で調べたのか
研究チームは、AMSY(資源量指標に基づく最大持続生産量推定法)、CMSY++(漁獲量と生産性の事前情報を組み合わせる手法)、BSM(観測の不確実性を考慮したベイズ型状態空間モデル)という三つの異なるアプローチを併用しました。これらはいずれも、漁獲量や資源量の変動といった限られた情報から、資源の持続可能な利用水準を推定するために設計された手法です。
解析には、国連食糧農業機関(FAO)の統計データベース「FishstatJ」(2023年時点でアクセスしたもの)から得た1990年から2021年までの漁獲量の時系列データを用いました。なお、2022年から2023年分については公式な最新統計が一時的に得られなかったため、近年の傾向から慎重に外挿した値が使われています。さらに、カメルーンとナイジェリアの排他的経済水域(EEZ)で得られた資源量の相対的な指標データも、モデルの推定を支える情報として活用されました。
研究でわかったこと
ボンガシャッドについては、CMSY++では最大持続生産量(MSY、資源を減らさずに持続的に獲り続けられる漁獲量の目安)が年間約12万6千トン、BSMでは約9万5千500トンと推定されました。資源の利用状況を示す指標(F/FMSY、値が1を超えると獲りすぎの可能性を示す)は、AMSYでは0.83、CMSY++では1.03となり、これらの結果からは『満限利用(資源をほぼ限界まで使っている状態)』にあることが示唆されました。一方、BSMでは1.77という値が示され、こちらは『乱獲状態』の可能性を示すものでした。
アフリカヒメシタビラメについては、CMSY++でのMSY推定値が年間約9千100トン、BSMでは約1万3千400トンでした。資源利用状況の指標は、AMSYでは1.2となり乱獲状態が示唆された一方、CMSY++とBSMでは満限利用の状態が示されました。
なお論文では、対数スケールでのCPUE(単位努力量あたり漁獲量)のばらつきが想定される範囲内で対称的であったことや、モデルの推定パラメータの分布が適切にまとまっていたことから、モデルが収束の検証をクリアし、比較的頑健な推定が得られたと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、異なる前提や計算方法を持つ複数のモデルを組み合わせて資源状態を推定したものであり、モデルによって結果にある程度の幅が見られています。たとえばボンガシャッドでは『満限利用』とする結果と『乱獲』とする結果の両方が示されており、どのモデルの推定がより実態に近いかは今後の検証を要する部分と言えるでしょう。また、2022年以降の漁獲量データは推定値であることや、資源量指標が一部の海域(カメルーンとナイジェリアのEEZ)のものに限られている点も、結果を読み解くうえで留意すべきポイントです。この研究はあくまで一つの資源評価の試みであり、資源の状態を確定的に断じるものではない点に注意が必要です。
研究チームは、MSYに基づいた基準値の範囲内に漁獲量を維持することを一つの管理の目安(総漁獲可能量、TAC)として挙げるとともに、データの継続的な収集、関係国間の地域協力、そして予防的な資源管理の重要性を指摘しています。
まとめ
今回の研究は、ギニア湾中央部という広い海域を回遊するボンガシャッドとアフリカヒメシタビラメについて、限られたデータの中でも複数の統計的手法を組み合わせることで資源状態を推定しようとした取り組みです。結果としては、両種とも『満限利用』から『乱獲』の範囲にあることが示唆されており、今後の資源管理や国際的なデータ共有の重要性を考えるうえで参考になる研究といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ギニア湾中央部におけるボンガシャッド(Ethmalosa fimbriata)とアフリカヒメシタビラメ(Galeoides decadactylus)のデータ制限下資源評価(イーエフエスエー・ジャーナル(欧州食品安全機関)・2026年06月)