この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
カルシウムは骨の健康を保つうえで欠かせない栄養素ですが、世界の多くの国で摂取量が不足していると報告されています。一方、これまでの研究では、病気や薬の影響で骨がもろくなる「続発性骨粗鬆症」の人や、がんの既往がある人が対象から外されることが多くありました。そのため、骨折リスクが高いこうした人たちがどれだけカルシウムを摂っているかは、あまり分かっていませんでした。
研究チームが特に注目したのは、乳がんの治療後に再発予防のために受ける「補助内分泌療法」です。この治療は女性ホルモン(エストロゲン)の量や働きを抑えるもので、乳がんの生存率を高めてきました。一方で、エストロゲンには骨を保つ役割があるため、この治療は骨粗鬆症や骨折のリスクを高めることが知られています。さらに、乳製品と乳がんの関係については研究結果が分かれており、この治療を受ける女性は乳製品を控えるよう勧められることもあります。著者らは、骨の弱さを調べるために受診した患者について、食事からのカルシウム摂取量を調べました。その際、乳がんで補助内分泌療法を受ける女性に焦点を当てています。
何を調べたか
対象は、2020年1月から2021年12月までに、ある大学病院の内分泌科の骨粗鬆症外来を初めて受診した132人(女性122人、男性10人、平均年齢65歳)です。女性は全員、自然な閉経後か、補助内分泌療法によって卵巣の働きが抑えられた状態でした。患者は次の3つのグループに分けられました。1つ目は骨折歴のない閉経後女性のグループです。2つ目は、病気や治療の影響で骨がもろくなるおそれがある続発性骨粗鬆症のグループです。3つ目は重症骨粗鬆症のグループで、強い外力がないのに起こる「脆弱性骨折」を少なくとも1回経験した人が含まれます。
食事からのカルシウム摂取量は、国際骨粗鬆症財団のカルシウム計算ツールをもとにした質問票で推定しました。カルシウムの多い食品を典型的な1週間に何回分食べるかを、調査者が聞き取りました。量はコップや切れ数などの家庭での目安で尋ね、1日あたりの量に換算しています。あわせて、X線を使った骨密度検査、骨の内部構造の指標、骨折歴、治療薬、血液検査の値なども記録されました。
主な結果
全体の食事からのカルシウム摂取量は、平均で1日959ミリグラムでした。論文はイタリアの学会の推奨量(閉経後女性では1日1200ミリグラム以上など)を基準としています。この推奨量を下回っていたのは、女性の77.9%、男性の60%にのぼりました。カルシウムのサプリメントを飲んでいたのは14.4%にとどまりました。サプリメントの量は記録されていなかったため、サプリメントを含めた総摂取量は計算されていません。
女性では、年齢が上がるほど摂取量が多い傾向がありました。閉経後女性のグループでは、年齢層による差が統計的に意味のある水準に達しました。また、骨形成を促す注射薬(テリパラチド)で治療中の女性は、摂取量が有意に多いという結果でした。骨密度が正常な人、骨折歴のない人、続発性骨粗鬆症のグループでは摂取量が少ない傾向が見られましたが、統計的に意味のある差ではありませんでした。
乳がんで補助内分泌療法を受けていた女性は35人で、続発性骨粗鬆症のグループの64.8%を占めました。全員に骨密度の低下があり、20%が骨粗鬆症、80%がその手前の骨減少症でした。また、25.7%はすでに脆弱性骨折を経験していました。それにもかかわらず、食事からのカルシウム摂取量は平均1日854ミリグラムで、77.1%が推奨量を下回っていました。カルシウムのサプリメントを飲んでいたのは1人(2.9%)だけでした。なお、平均摂取量そのものは、閉経後女性や重症骨粗鬆症のグループと統計的な差はありませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、骨折リスクの高い患者の多くで、食事からのカルシウムが推奨量に届いていないと指摘しています。そのため、初診の段階からカルシウムの主な摂取源について助言することが重要だとしています。特に、若い人、骨密度の低下が軽い人、続発性骨粗鬆症のリスクがある人は、より注意を向けるべき層として挙げられています。
乳がんで補助内分泌療法を受ける女性については、骨が弱っているのに摂取量が少ないことが懸念点とされました。著者らは、乳製品を控えるよう勧められていることが関係している可能性に触れています。ただし、食習慣の理由は調べていないため、これは仮説にとどまるとしています。そのうえで、低脂肪や発酵タイプの乳製品やほかのカルシウム源を、最初から避けさせるべきではないと述べています。さらに、がん治療と骨の診療を連携させた個別の栄養指導が必要だとしています。
一方で、この研究は1施設の比較的少人数を一時点で調べたものです。そのため、摂取量の多さが診断や指導の前からなのか後からなのかは判断できません。見られた関連は、今後確かめるべき手がかりと位置づけられています。それでも、骨の弱さで受診した患者の多くが食事から十分なカルシウムを摂れていないことを示しました。とりわけ、骨折リスクの高い乳がん治療中の女性でも摂取量が推奨量に届いていない実態を示した点に、この研究の意味があります。
著者:Francesca Firmani(Division of Endocrinology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Alessandro Ciarloni(Division of Endocrinology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Sofia Sabatelli(Division of Endocrinology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Claudio Gianfelice(Division of Endocrinology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Gianmaria Salvio(Division of Endocrinology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Veronica Agostinelli(Division of Oncology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Rossana Berardi(Division of Oncology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Giancarlo Balercia(Division of Endocrinology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)、Gilberta Giacchetti(Division of Endocrinology, Department of Clinical and Molecular Sciences, Polytechnic University of Marche, Azienda Ospedaliero-Universitaria delle Marche, 60126 Ancona, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Francesca Firmani, Alessandro Ciarloni, Sofia Sabatelli, et al. Dietary Calcium Intake in Patients Evaluated for Bone Fragility, with a Focus on Women Receiving Adjuvant Endocrine Therapy for Breast Cancer: A Single-Center Cross-Sectional Study. Nutrients 2026-10-01. DOI: 10.3390/nu18193239. 原著ライセンス:CC BY.