川で育つ大型ナマズの仲間には、ふ化してまもない時期に仲間同士で食べ合ってしまう「共食い」に悩まされる種がいます。養殖の現場では、この共食いによって仔魚(ふ化直後の稚魚)の生存率が大きく下がってしまうことが課題になっているそうです。今回紹介する論文は、南米に生息するスタインダクネリドン属(Steindachneridion属)のナマズ、中でも「スルヴィ・ボクード」と呼ばれるS. scriptumという種を対象に、仔魚期にどのようなエサを与えると育ちやすいのかを実験的に調べた研究です。
研究チームによると、この属のナマズは仔魚飼育が難しいことが知られており、その背景には種内での攻撃性の高さがあり、明るさやエサの密度といった要因がそれに影響しているとされています。つまり、飼育環境の条件次第で仲間同士の攻撃行動が強まったり弱まったりする可能性があるということです。
研究でわかったこと
研究では、ふ化後まもない「後期仔魚(ポストラーバ)」を1リットルあたり10尾の密度で容器に入れ、20日間にわたる飼育試験を完全ランダム化デザインで実施しました。比較したのは次の3種類のエサで、それぞれ5反復ずつ用意されました。
- アルテミア(ブラインシュリンプ)のノープリウス幼生のみを与える区(AT区)
- 卵黄粉末とアルテミアを組み合わせて与える区(EYP+A区)
- 粉乳とアルテミアを組み合わせて与える区(MP+A区)
試験中は水質の各種パラメータと日々の死亡数が記録され、死亡した個体については実体顕微鏡を用いて「外傷の有無」で死因が分類されました。
その結果、卵黄粉末を併用したEYP+A区で、増体重および最終的な体重が他の区より有意に高くなったと報告されています(p<0.05)。一方で、生存率や共食いの発生率については、3つの区の間で統計的に明確な差は見られなかったとのことです。また、死亡の多くは飼育開始から最初の5日間に集中しており、これは仔魚が母体由来の栄養(内因性栄養)から自分でエサを食べる段階(外因性栄養)へと切り替わる時期と重なっていたと述べられています。
興味深いのは、粉乳を併用したMP+A区の結果です。この区は共食いの発生数そのものは実数として最も少なかったものの、外傷を伴う死亡の割合は他の区より有意に高かったとされています(p<0.05)。論文では、この区の仔魚に何らかの栄養不足があった可能性があり、そのために共食いの「攻撃」自体は最後まで完了できず、結果として外傷を負ったまま死んでしまう個体が増えたのではないか、という解釈が示されています。
これらの結果から、研究チームは、アルテミアのみで飼育する方法、または卵黄粉末を併用する方法は、この種の仔魚の初期発育において有効な戦略であると結論づけています。一方で、粉乳の併用については、攻撃性に起因する死亡を減らすうえでは効果的とはいえなかったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、S. scriptumという特定の種を対象に、20日間という限られた期間・特定の飼育条件のもとで行われた一つの実験結果です。エサの種類による違いが仔魚の成長や死因のパターンに影響しうることを示唆する内容ではありますが、この結果だけで養殖現場における最適な給餌方法が確定したわけではありません。今回の要旨で示されているのはあくまで統計的な差が見られた項目についてであり、それ以外の詳細な条件や、他の近縁種への当てはまりやすさなどについては、原論文本文や今後の追加研究を確認する必要があります。
まとめ
共食いによる生存率低下という、養殖の現場で実際に問題となっている課題に対し、この研究はエサの種類という切り口から一つの手がかりを示しています。卵黄粉末を組み合わせたエサが成長面で優れていたこと、そして粉乳を組み合わせたエサでは外傷による死亡が目立ったことは、単に「共食いの数」だけでなく「共食いがどのように起きて、どのような結果に至るか」まで見る必要があることを教えてくれる、興味深い報告といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:スタインダクネリドン属魚類の仔魚飼育:給餌戦略の概説とS. scriptumにおける代替飼料の実験的評価(アクアカルチャー・インターナショナル・2026年08月)