この研究は、フィンランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Agricultural and Food Chemistry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:酸化ストレスとビタミンK2
活性酸素(ROS)が過剰になって細胞内のバランスが崩れる状態を酸化ストレスと呼びます。著者らは、酸化ストレスが神経細胞の働きを損ない、神経変性が進む主要な要因の一つだと説明しています。ROSはDNA・脂質・たんぱく質を傷つけるほか、エネルギーを作るミトコンドリアや、たんぱく質の合成・輸送を担う小胞体(ER)とゴルジ体といった細胞小器官にも影響します。
研究チームが注目したのは、食品から摂取されるビタミンK2(メナキノン)です。ビタミンK2には複数の型があり、MK-4は脳に多く存在し、MK-7は吸収されやすく体内に長くとどまることが知られています。これまでの研究は、ミトコンドリアの指標など個別の項目に絞ったものが中心でした。そこで著者らは、二つの型を同じ実験条件で比べ、ミトコンドリア、ER・ゴルジ体、DNA、神経突起への影響をまとめて評価することを目指しました。
どのように調べたか
実験には、ヒト神経芽腫に由来するSH-SY5Y細胞を使いました。血清を段階的に減らし、レチノイン酸や神経栄養因子BDNFを加えて15日間培養すると、細胞は長い突起を伸ばし、成熟神経細胞の目印となるたんぱく質MAP2やNeuNを作るようになりました。研究チームは、この神経細胞に近い状態の「分化SH-SY5Y細胞」をモデルとして用いています。
細胞を傷つけるために使ったのはストレプトゾトシン(STZ)です。STZは、代謝の乱れや酸化ストレスに関連する神経障害を実験的に再現するためによく使われる化合物です。細胞を0.1〜1.5ミリモル濃度のSTZに24時間さらした後、MK-4またはMK-7(50マイクロモル濃度)をさらに24時間与え、損傷後に加えたビタミンK2がどのような変化をもたらすかを調べました。
評価項目は、細胞の生存率、細胞膜の損傷、ROS量、抗酸化能、細胞内のエネルギー物質ATPの量、DNA切断、ミトコンドリアの状態、ER・ゴルジ体の状態、神経突起の長さなどです。DNA切断の測定には、傷ついたDNAが電気泳動で彗星の尾のように伸びる様子を数値化する「コメットアッセイ」を用いました。
主な結果
STZは濃度に応じて細胞を傷つけ、1.5ミリモル濃度で生存率の低下が最も大きくなりました。STZで傷ついた細胞にMK-4やMK-7を与えると、STZのみの細胞に比べて生存率の指標が改善し、細胞膜の損傷を示す酵素LDHの漏れ出しも減りました。条件によっては、MK-7のほうがLDHの漏れ出しを大きく減らしたように見えたと報告されています。なお、MK-4やMK-7を単独で与えても、細胞毒性やDNA損傷は見られませんでした。
酸化ストレスの面では、ビタミンK2を後から与えると、最も高いSTZ濃度でもROSの蓄積が抑えられ、細胞の抗酸化能が高まりました。ATPについては、低めの濃度のSTZで減少した一方、高濃度では逆に急増しました。著者らはこの急増を、細胞死に先立つストレス性の代謝の乱れや代償反応を反映している可能性があると解釈しています。いずれの場合も、MK-4やMK-7を加えるとATP量は対照群に近い水準に戻りました。
DNA損傷については、STZによって増えたDNA切断が、0.5ミリモル濃度のSTZではMK-4・MK-7の両方で大きく減りました。最も高い1.5ミリモル濃度のSTZでも、MK-7では有意な減少が見られ、その減り方はMK-4より大きかったと報告されています。
さらに論文の要旨によると、ビタミンK2の二つの型は、ミトコンドリアの量的な広がり(フットプリント)を改善し、ミトコンドリア内のROSを減らし、傷んだミトコンドリアを分解する仕組み(マイトファジー)を調整しました。また、ER・ゴルジ体のストレスを和らげ、神経突起の伸びも改善したとされています。
この研究が示すこと
この研究は、ヒト由来の神経様細胞を用いた培養実験で、MK-4とMK-7が酸化ストレスによる損傷を、細胞のエネルギー状態、複数の細胞小器官、DNAといった幅広い面で和らげたことを報告しています。著者らは、ビタミンK2の型が、酸化ストレスに関連する神経細胞の不調のもとで細胞の恒常性を保つことに関わりうる、多面的な食品由来の生理活性成分だと位置づけています。
一方で、MK-7がいくつかの項目でより強い効果を示した理由について、著者らは側鎖の長さなど型ごとの性質が関係している可能性を挙げつつ、細胞内のMK-4・MK-7の量は直接測定していないと述べています。今回の成果は培養細胞での観察であり、二つの型の違いを含め、ビタミンK2が細胞レベルでどのように働くかを理解する手がかりを示したものといえます。
著者:Shruti Shandilya(Aalto University , , ,)、Janne Ruokolainen(Aalto University , , ,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shruti Shandilya, Janne Ruokolainen. Dietary Vitamin K2 Isoforms Restore Redox Balance, Organelle Integrity, and Genomic Stability under Streptozotocin-Induced Oxidative Stress in Differentiated SH-SY5Y Cells. Journal of Agricultural and Food Chemistry 2026-10-05. DOI: 10.1021/acs.jafc.6c03233. 原著ライセンス:CC BY.