この研究は、エジプト、イタリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
カスタードパウダーは、とうもろこしでんぷんを主体に香料やミネラル・ビタミンを加えた粉末食品で、熱湯を注いで手軽に調製できるため、熱帯地域の多くの国では朝食や離乳食として広く使われています。著者らは、この親しみやすく調理が容易な食品を、栄養素を届ける「器」として活用できる点に着目しました。
論文では、植物性中心の食事(ヴィーガン食)が世界的に広がる一方で、たんぱく質や亜鉛、鉄、カルシウム、ビタミンD、ビタミンB12などが不足しないよう注意が必要だと指摘されています。とくにカルシウムとビタミンDは骨の代謝に重要な役割を果たすものの、植物性の食材には豊富な供給源が限られているとされています。ビタミンDは腸でのカルシウム吸収を高め、骨の石灰化を促す脂溶性ビタミンで、不足すると骨のミネラル密度が低下し、骨折や骨粗しょう症が起こりやすくなることが知られています。
そこで研究チームは、カルシウムを天然に多く含む植物性素材を用い、さらにビタミンD3(コレカルシフェロール)を添加した新しい植物由来カスタードを試作しました。ヴィーガンの人、乳製品のアレルギーや乳糖不耐のある人、微量栄養素の不足が起こりやすい集団に向けた選択肢となりうるかを検討することが、研究の狙いです。
何をどう調べたか
試作品には、とうもろこしでんぷんを土台に、カルシウムなどのミネラルを多く含むバオバブ果実の粉とパールミレット(トウジンビエ)の粉、そして天然の風味づけと微量栄養素の供給源としてバナナ粉末が配合されました。バナナは薄切りにして真空赤外乾燥を行い、粉にしたものが使われています。ビタミンD3は粉末の形で少しずつ加え、高速ホモジナイザーで混ぜることで、カスタード全体に均一に行き渡るよう調整されました。
比較対象として、市販のカスタード(とうもろこしでんぷん、バニリン、着色料などから成る製品)が用いられました。調べられた項目は、粉と加熱後の色、20名の専門パネルによる官能評価(見た目・風味・口当たり・味・総合的な好ましさの9段階評価)、水への分散性・かさ密度・溶解性といった加工上の性質、加熱後の食感(硬さや凝集性などの機械測定)、栄養成分やカルシウム・リン・ビタミン類・総ポリフェノール・抗酸化活性です。
さらに、消化酵素を使った試験管内(in vitro)での消化モデルによって、カルシウムの「バイオアクセシビリティ」、つまり消化の過程で食品の組織から放出されるカルシウムの割合が測定されました。論文はこの指標について、腸からの実際の吸収量ではなく、試験管内の条件で得られた相対的な目安として解釈すべきだと明記しています。
加えて動物実験が行われました。雌のWistar系ラット35匹を5群(各7匹)に分け、30日間、通常のカルシウム量の飼料(陰性対照)、低カルシウム飼料のみ(陽性対照)、低カルシウム飼料に市販カスタードを10%加えたもの(第I群)、植物由来カスタードを10%加えたもの(第II群)、ビタミンD3を強化した植物由来カスタードを10%加えたもの(第III群)を与えました。摂餌量や体重、大腿骨の重さとカルシウム量、血中のカルシウム・副甲状腺ホルモン(PTH)・カルシトニン・アルカリホスファターゼ(ALP)・酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP)が測定され、大腿骨の組織像も顕微鏡で観察されました。
報告された主な結果
著者らの報告によると、植物性素材を加えたことで色の性質が変わり、粉の段階では明るさが下がって黄赤みが増し、加熱後は彩度が高く、より黄色の強い色調になりました。官能評価では、植物由来の2種類(ビタミンD3なし・あり)が、風味、口当たり、味、総合的な好ましさのいずれでも市販品より有意に高い評点を得ました。論文はこれを、バナナ粉末に含まれる香気成分の寄与によるものと考えています。
加工上の性質では、ビタミンD3強化品の分散性が63.27%で、市販品(69.07%)やビタミンD3なしの植物由来品(66.27%)より低く、分散性が低いほど調製時にだまができやすい傾向が示されました。一方でかさ密度は強化品が最も低い0.45 g/mLで、市販品は0.73 g/mLでした。溶解性は温度が上がるほど高まり、いずれの温度でも植物由来の2種が市販品を上回りました。食感の測定では、硬さは市販品9.17 N、植物由来品10.07 N、ビタミンD3強化品10.95 Nで、凝集性も強化品が最も高い0.56でした。弾力性(スプリンギネス)については市販品のほうが有意に高い値でした。
栄養面では、植物由来の2種が市販品より水分、脂質、たんぱく質、食物繊維、エネルギー、カルシウム、リンを有意に多く含み、利用可能な炭水化物は少なくなりました。ビタミンC、総ポリフェノール、DPPH法による抗酸化活性は市販品では検出されなかったのに対し、植物由来の2種ではいずれも測定可能な値が得られました。ビタミンDは、強化した配合でのみ検出されています。論文は、強化した粉末100 gがビタミンD3の推奨摂取量の333.3%に相当し、カルシウムについては対象となる年齢層や状態に応じて推奨量の3.12〜4.40%を満たすと報告しています。
試験管内消化後のカルシウムのバイオアクセシビリティは、ビタミンD3強化品で85.3%、ビタミンD3なしの植物由来品で71.3%、市販品で12.3%でした。著者らはこの差について、カルシウム含量が多いこと、ビタミンCの存在、食品の組織構造がカルシウムの放出を助けたことなどが関係している可能性を挙げています。
動物実験では、植物由来カスタードを与えた2群(第II・III群)で、体重増加率、摂餌量、飼料効率、大腿骨重量が、低カルシウム飼料のみの群や市販カスタード群より有意に高くなりました。ビタミンD3の摂取量は第III群が平均1.260で明確に高く、他の4群は0.547〜0.667の範囲で互いに有意差はありませんでした。血液の指標では、低カルシウム飼料のみの群と市販カスタード群で、血中カルシウム、カルシトニン、大腿骨のカルシウム量が有意に低下し、PTH、ALP、TRACPが有意に上昇しました。
骨の組織像では、通常のカルシウム飼料を与えた群に病理学的な変化は認められませんでした。低カルシウム飼料のみの群では皮質骨が薄くなり、ひび割れや骨梁の細さ、骨髄腔の拡大がみられ、市販カスタードを加えた群でも明らかな改善は認められませんでした。これに対し、植物由来カスタードを加えた群では中程度の改善が観察され、最も顕著な改善はビタミンD3強化品を与えた第III群で、骨形成を担う骨芽細胞の増殖を伴うほぼ正常な皮質骨が確認されました。定量的な形態計測でも、第III群は市販カスタード群と比べて骨芽細胞数と皮質骨の厚さが有意に改善したと報告されています。
この研究が示すこと
この研究は、日常的になじみのある簡便な粉末食品に植物性の素材とビタミンD3を組み合わせることで、栄養成分や抗酸化成分を高めながら、官能評価での受容性も損なわないカスタードを構成できることを示しました。試験管内の消化モデルではカルシウムが放出されやすくなり、低カルシウム飼料を与えたラットの実験では、骨の組織と関連する血液指標に違いが観察されています。
ただし、著者ら自身が述べているように、試験管内で得られた値は消化の過程で放出されるカルシウムの割合を示す相対的な指標であり、体内での吸収量そのものを測ったものではありません。動物での観察結果も含め、報告されているのは特定の実験条件下で得られた所見です。それでもこの成果は、乳製品を避ける食生活や微量栄養素が不足しやすい状況において、既に受け入れられている食品の形を活かして栄養素を届けるという設計の考え方を、具体的な試作品として提示したものと言えます。
著者:Marwa A. Sheir(Special Food and Nutrition Department, Food Technology Research Institute, Agricultural Research Center, Giza 12613, Egypt)、Rania A. Ahmed(Department of Zoology, Faculty of Science, Suez University, Suez 43511, Egypt)、Francesco Serrapica(Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, 80055 Portici, Italy)、Abeer M.F. Elbaz(Food Engineering and Packaging Department, Food Technology Research Institute, Agricultural Research Center, Giza 12613, Egypt)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marwa A. Sheir, Rania A. Ahmed, Francesco Serrapica, et al. Plant-Based Functional Custard Enriched with Vitamin D3: Insight into Technological Properties, Nutrition and Bone Tissue Regeneration. Foods 2026-09-20. DOI: 10.3390/foods15183337. 原著ライセンス:CC BY.