この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
葉酸はビタミンB群の一種で、体内で「一炭素代謝」と呼ばれる重要な化学反応に関わっています。この代謝がうまく働かないと、アミノ酸の一種であるホモシステインという物質が血液中に増えてしまう「高ホモシステイン血症」につながることが知られており、葉酸不足は世界的な栄養課題の一つとされています。近年注目されているのが、腸内細菌そのものが葉酸を作り出す働きです。もし腸内でうまく葉酸を産生できる細菌を活用できれば、体内の葉酸状態を整える新しいアプローチになるのではないか——そうした発想から行われたのが今回紹介する研究です。
研究でわかったこと
研究チームは、まず高速・大量に培養とスクリーニング(選抜)を行う手法を使い、1,000株を超える細菌の中から葉酸を多く作り出す候補株を探索しました。その結果、Lactiplantibacillus plantarum(乳酸菌の一種)やHeyndrickxia coagulans(コアグランス菌)などを含む8株の「葉酸高産生プロバイオティクス候補株」が選び出されたと報告されています。
さらに全ゲノム配列の解析や代謝経路の再構築、発酵乳中の代謝物の分析を通じて、葉酸の合成メカニズムが調べられました。興味深いことに、よく使われるプロバイオティクスの多くは、葉酸合成に必要な「パラアミノ安息香酸(pABA)」という物質を自ら作る遺伝子を持たない一方、pABAを材料として使う下流の合成経路は備えていることが分かりました。これは、これらの菌がBacteroides属といった腸内の別の常在菌からpABAを受け取る「相互栄養(クロスフィーディング)」に依存している可能性を示唆するものだと述べられています。また、発酵乳での代謝物分析では、選抜された菌株が体内で活性の高い形とされる5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MeTHF)やテトラヒドロ葉酸を有意に増加させたことが示されました。
続いて、葉酸欠乏状態を再現したマウスを用いた動物実験が行われました。候補プロバイオティクスをブレンドした「カクテル」を投与したところ、高用量を与えた群でのみ、血清中の葉酸濃度が有意に上昇し、ホモシステイン濃度が有意に低下したと報告されています(いずれもp<0.05)。糞便中の細菌を定量PCRで調べると、投与した菌が用量依存的に、かつ一時的に腸内にとどまっていたことも確認されました。16S rRNA遺伝子を用いた腸内細菌叢の解析でも、これと一致して、高用量群で投与した菌種が有意に増えていたことが示されています。
さらに腸内細菌叢全体の構成を比べる解析(ベータ多様性解析)では、高用量の候補プロバイオティクス投与によって、葉酸欠乏食によって乱れた腸内細菌叢の構成が、正常に近いパターンへと部分的にシフトする傾向が見られたとされています。この変化には、短鎖脂肪酸を作る可能性がある菌(LachnospiraceaeやOscillospiraceaeなど)の増加と、日和見病原菌となりうる菌の減少が伴っていたことも報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、葉酸を作る力を持つプロバイオティクス候補株を見つけ出し、そのメカニズムと、葉酸欠乏マウスにおける効果を調べたものです。今回の効果は、あくまで葉酸欠乏状態にしたマウスを使った動物実験と、実験室での菌株解析・発酵乳での代謝物分析に基づくものであり、ヒトでの効果や安全性を直接確認したものではない点に注意が必要です。また、血清葉酸の上昇やホモシステインの低下といった効果が見られたのは「高用量」のカクテル投与群に限られており、投与量によって結果が異なることも示されています。一つの研究であり、これらの知見がそのままヒトの健康効果を保証するものではない点を踏まえて読む必要があります。
まとめ
今回の研究では、多数の細菌の中から葉酸を高く産生する候補プロバイオティクス株が選び出され、それらが活性型の葉酸である5-MeTHFを作り出せることが示されました。また、葉酸欠乏マウスにこれらの候補菌をブレンドしたものを投与したところ、葉酸の状態やホモシステイン代謝の改善、さらには有益とされる菌の増加を伴う腸内細菌叢の変化が見られたと報告されています。研究チームは、葉酸を産生するプロバイオティクスが、腸内細菌叢を介して葉酸の利用しやすさやホモシステイン代謝を整えるための、有望な手段となりうることを示唆していると述べています。今後、ヒトでの検証を含むさらなる研究の積み重ねが期待される分野だといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):葉酸産生プロバイオティクス候補株の分離とホモシステイン代謝および腸内細菌叢組成への効果(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)
著者:Mingfang Pan(Institute of Biopharmaceutical and Health Engineering, Shenzhen International Graduate School, Tsinghua University, Shenzhen, China)、Mingfang Pan(Shenzhen Evergreen Medical Institute, Shenzhen, China)、Changming Ye(Shenzhen Evergreen Medical Institute, Shenzhen, China)、Yun Song(Shenzhen Evergreen Medical Institute, Shenzhen, China)、Minqing Tian(Shenzhen Evergreen Medical Institute, Shenzhen, China)、Runming Wang(Institute of Biopharmaceutical and Health Engineering, Shenzhen International Graduate School, Tsinghua University, Shenzhen, China)、Ping Chen(Inspection and Testing Center, Key Laboratory of Cancer FSMP for State Market Regulation, Shenzhen, China)、Ping Chen(AUSA Research Institute, Shenzhen AUSA Pharmed Co., Ltd., Shenzhen, China)、Ping Chen(Precision Nutrition Innovation & Transformation Public Service Platform, Shenzhen, China)