この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的
豆腐や豆乳をつくる過程で大量に出る「おから」(大豆残渣)は、タンパク質や炭水化物を多く含み、家畜の飼料として使える可能性があります。しかし水分が多いため傷みやすく、保存が難しいという課題があります。そこで古くから使われてきたのが、微生物の力を借りて保存性と栄養価を高める「発酵」です。
研究チームは、発酵の条件を変えるとおからの中の微生物の集まり(微生物群集)と、そこで生まれる成分(代謝物)がどう変わるのかを体系的に調べようとしました。これまでの研究は発酵条件を一つずつ検討したものが多く、複数の条件を組み合わせてそれぞれの影響の大きさを比べた研究は限られていた、と著者らは述べています。
何をどう調べたか
著者らは中国浙江省湖州市で集めた新鮮なおからを、殺菌せずそのまま使いました。工場での実際の飼料生産に近い条件を再現するためです。そこへ4種類の細菌(枯草菌 Bacillus subtilis と、乳酸菌3種)を等量ずつ混ぜた種菌を加え、空気を抜いて密封した袋の中で発酵させました。
変えた条件は3つです。小麦ぬか(フスマ)を混ぜる割合(0〜15%)、発酵温度(24〜37℃)、発酵時間(24〜72時間)。発酵していない生のおからも比較用に用意し、それぞれ4回ずつ繰り返して試験しました。
発酵後の試料については、細菌の16S rRNA遺伝子という目印の配列を読み取ってどんな細菌がどれだけいるかを調べ、あわせて液体クロマトグラフィー質量分析という手法で含まれる成分を幅広く検出しました。さらに統計解析で、3つの条件のうちどれが変化をどれだけ説明できるかを数値として求めています。
報告された主な結果
微生物の入れ替わりを最も強く左右したのは、小麦ぬかの添加でした。統計解析では微生物群集の違いのうち49.1%を説明したと報告されています(P=0.002)。これに対して温度は10.3%、発酵時間は3.1%でした。小麦ぬかを加えると、生のおからで優勢だったプロテオバクテリア門から、乳酸菌や枯草菌が属するファーミキューテス門へと主役が入れ替わりました。同時に、腸内細菌科(エンテロバクテリア科)やシュードモナス属といった、食品や飼料を傷めたり病原性を持つ可能性のある細菌が抑えられたと報告されています。
一方、成分の変化を最も強く左右したのは温度で、代謝物の違いのうち18.1%を説明しました(P=0.002)。小麦ぬかは13.8%、発酵時間は8.0%でした。つまり「どんな微生物が増えるか」は主に基質(小麦ぬか)が決め、「どんな成分ができるか」は主に温度が決めるという、異なる傾向が示されたことになります。著者らは、微生物の酵素のはたらきが温度に敏感であることがこの違いに関係していると考察しています。
成分そのものについては、発酵によってトリプトファン(必須アミノ酸の一つ)、インドール乳酸、フェニル乳酸、トランス桂皮酸などのフェノール酸類が大きく増えました。逆に、生のおからに多かったダイジンやケルセチン、アピゲニンといったフラボノイド類やサポニン類は減りました。微生物と成分の関係を解析したネットワークでは、リモシラクトバチルス属やラクトバチルス属などの乳酸菌が、トリプトファンとそこから生まれるインドール乳酸などの成分と強く結びついていることが示されました。
なお発酵時間については、24〜72時間の範囲では微生物群集も代謝物も一貫した変化を示さなかったと報告されています。
この研究が示すこと
同じ「発酵」という言葉でまとめられる処理でも、何を混ぜるか、何度で行うかによって、育つ微生物と生まれる成分は別々の仕組みで決まっている――この研究が示したのはそうした見通しです。微生物を整えたいなら基質を、成分を整えたいなら温度を調整するという役割分担が、数値として示されたことになります。
著者らは、この結果がおからの発酵における基質主導の微生物制御を理解する手がかりとなり、飼料としての品質を高めるための発酵条件を検討する土台になると位置づけています。
著者:Gaorui Bian(Department of Animal Nutrition and Feed Science, College of Animal Science and Food Engineering, Jinling Institute of Technology, Nanjing, China)、Gaorui Bian(Laboratory of Gastrointestinal Microbiology, College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing, China)、Yamei Gu(Department of Animal Nutrition and Feed Science, College of Animal Science and Food Engineering, Jinling Institute of Technology, Nanjing, China)、Yaoxing Tang(Department of Animal Nutrition and Feed Science, College of Animal Science and Food Engineering, Jinling Institute of Technology, Nanjing, China)、Kaidong Deng(Department of Animal Nutrition and Feed Science, College of Animal Science and Food Engineering, Jinling Institute of Technology, Nanjing, China)、Qian Tang(Department of Animal Nutrition and Feed Science, College of Animal Science and Food Engineering, Jinling Institute of Technology, Nanjing, China)、Minyang Zhang(Department of Animal Nutrition and Feed Science, College of Animal Science and Food Engineering, Jinling Institute of Technology, Nanjing, China)、Weiyun Zhu(Laboratory of Gastrointestinal Microbiology, College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing, China)、Yuyang Yin(Laboratory of Gastrointestinal Microbiology, College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing, China)、Yuyang Yin(Huzhou Academy of Agricultural Sciences, Huzhou, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gaorui Bian, Gaorui Bian, Yamei Gu, et al. Substrate-driven shifts in microbial communities reshape metabolite profiles during soybean residue fermentation. Frontiers in Microbiology 2026-09-01. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1919307. 原著ライセンス:CC BY.