この研究は、インドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「植物内生菌」に注目したのか
多糖は、ブドウ糖などの小さな糖(単糖)が10個以上つながってできた大きな分子です。生き物の中ではエネルギーの貯蔵庫として働くほか、細胞壁や細胞膜をかたちづくる材料にもなっています。著者らによれば、多糖には抗腫瘍、免疫調節、抗炎症、抗菌、抗酸化、抗ウイルスといった幅広い生物活性が報告されており、そのために医療や産業の分野で関心が高まっているといいます。
多糖は植物、動物、藻類、微生物などから得られますが、論文は微生物由来のものがここ数十年で特に注目されてきたと説明します。理由は、発酵によって条件を管理しながら大量に作れること、生産にかかる時間が比較的短いこと、抽出しやすいこと、そして構造が多様で生体になじみやすく分解もされやすいことです。実際に食品分野では増粘剤や安定剤として、化粧品では保湿成分や皮膜をつくる成分として、医薬・生物医学の分野では薬を運ぶ担体や創傷被覆材などとして使われている例が挙げられています。
そのなかで著者らが取り上げたのが「内生菌(エンドファイト)」です。これは健康な植物組織の内部にすみつきながら、宿主の植物に病気を起こさない微生物のことを指します。長い共進化を通じて植物と相利的な関係を結び、植物からは守られた生育場所を得る一方、植物の防御力や環境ストレスへの耐性を高めるとされます。論文は、この宿主と微生物の密接な関係が内生菌の代謝に独特の物理的・化学的な圧力をかけ、その結果として構造や機能の面で特徴的な多糖が作られると述べています。内生菌由来の多糖、とりわけ細胞の外に分泌される「菌体外多糖(EPS)」は、微生物多糖の研究のなかでまだ十分に開拓されていない新しい領域である、というのが本総説の出発点です。
何を調べ、どのようにまとめたか
この論文は新たな実験を行った研究報告ではなく、既存の研究論文を集めて整理した総説(レビュー)です。著者らはScopus、Web of Science、PubMed、Google Scholarといった文献データベースを検索し、さらに関連論文の引用文献リストも確認して対象を広げました。収録の中心は、内生菌から得られた多糖の生産、抽出、精製、構造解析、生物活性を扱った比較的新しい研究論文で、背景説明のために一部の総説も参照しています。
収集にあたっては、2019年から2026年に公表された研究を優先し、なかでも2023年から2025年の論文に重点が置かれました。著者らは、細菌の内生菌と真菌(カビ・キノコの仲間)の内生菌で同じ検索方法を用いたものの、真菌に関する研究のほうが数多く見つかったと記しています。そのため本総説では真菌の事例がより多く紹介されており、著者らはこの偏りそのものが、細菌の内生菌に由来する多糖についてさらに研究が必要であることを示すものだと指摘しています。
報告されている多糖の姿と、それを調べる手順
微生物の多糖は、存在する場所によって三つに分けられると論文は整理します。細胞内でつくられて外へ分泌される菌体外多糖(EPS)、細胞質などの内部にとどまる細胞内多糖(IPS)、そして細胞壁を構成する細胞壁多糖(CWPS)です。このうちEPSは取り出しやすいため最もよく研究されてきた一方、IPSは菌糸体などから分離する作業が難しく、研究が進みにくかったとされています。
細菌の内生菌について著者らが表にまとめたところでは、報告されているEPSの多くは複数種類の糖からなる「ヘテロ多糖」で、主にグルコース、ガラクトース、マンノース、ラムノース、ウロン酸がさまざまな比率で含まれていました。分子量はおよそ5キロダルトンから400キロダルトンを超えるものまで幅があり、構造の多様さがうかがえます。生物活性としては抗酸化作用の報告が多く、著者らは、ウロン酸の含量が多いほどヒドロキシラジカルやスーパーオキシドアニオンといった活性種を捕捉する能力が高いという既報の関連に言及しています。また、抗菌作用とプレバイオティクス作用の両方を示す例も紹介されています。
真菌の内生菌に由来する多糖は、細菌のものと比べて構造の幅も分子量の範囲もさらに広いと報告されています。主成分はグルコース、マンノース、ガラクトースで、しばしばウロン酸などを伴います。グルコースに富む重合体はβ-グルカンとして同定されることが多く、真菌の細胞壁で重要な役割を果たす成分です。糖どうしのつなぎ方(グリコシド結合)を調べると、β-(1→6)結合やβ-(1→3)結合が頻繁に見つかり、α型とβ型が混在する例もありました。分子量は1〜5キロダルトン程度の小さなものから数千キロダルトンに及ぶものまであり、著者らはこれを菌株ごとの生合成の違いや枝分かれの仕方の違いを反映したものと説明しています。生物活性としては、抗酸化、免疫刺激、抗炎症、抗腫瘍、肝保護、創傷治癒、抗糖尿病といった報告が並び、ゲルをつくる性質や保湿性をもつものもあるとされています。
生産から解析までの流れも整理されています。まず植物組織の表面を殺菌し、葉・茎・根などから内生菌を分離します。次にコロニーの見た目やコンゴーレッド寒天・ルテニウムレッド寒天を使った発色試験、顕微鏡観察によって多糖をつくる菌株を一次選抜し、選ばれた菌株を液体培養や流加培養で発酵させます。培養後は遠心分離などで菌体と培養液を分け、加熱処理やトリクロロ酢酸によるタンパク質除去を行ったうえで、エタノールを加えて粗多糖を沈殿させます。さらに透析で低分子の不純物を取り除き、凍結乾燥して乾いた多糖画分を得る、という手順です。
著者らは、発酵条件の最適化がEPSの収量と構造を大きく左右する重要な要素でありながら、内生菌の研究では扱われることが比較的少ないと指摘します。内生菌は宿主細胞内という栄養や化学シグナルに富んだ環境に適応しているため、人工的な培養条件がその環境にどれだけ近いかによって生産性が変わり、同じ宿主植物から分離された菌株であっても最適な培地が異なりうるといいます。炭素源としてはグルコースが最もよく最適と報告されていますが、これも菌株ごと・代謝経路ごとに異なり、スクロースのほうが適する例も挙げられています。窒素源と炭素/窒素比は菌の増殖と多糖合成のバランスを左右し、窒素が多すぎると菌体の増加に傾いて多糖に回る炭素が減る一方、窒素を極端に減らすと合成に必要な酵素がつくられなくなるという釣り合いの問題が説明されています。pH、温度、通気も影響し、酸素が足りないと代謝が制限され、逆に撹拌が強すぎるとせん断応力によって分泌が減るとされます。
構造の解析については、分子量、単糖組成、グリコシド結合、全体構造を調べる必要があるとして、各種の手法が紹介されています。分子量の測定には、分子の大きさの違いで分離するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)とその高性能版が広く使われます。屈折率検出器を組み合わせる方法は費用対効果に優れる一方で得られるのは相対的な分子量であり、絶対値を求めるには多角度レーザー光散乱検出器などと組み合わせる手法があると整理されています。著者らは、EPSの構造と機能の関係はまだ十分に解明されていないため、生物活性や物性を評価する前に構造をきちんと明らかにすることが重要だと述べ、同時に、どれか一つの手法だけで複雑な高分子の構造を説明しきることはできず、複数の相補的な手法を組み合わせる必要があると強調しています。
この総説が示すこと
著者らは、健康な植物の内部にすむ細菌と真菌が、構造も生物活性も多彩な多糖の担い手として現れつつある現状を、個々の研究報告を横断するかたちで一望できるよう整理しました。どの宿主植物からどんな菌が分離され、どのような糖組成と分子量の多糖が得られ、どの手法で作られ、取り出され、調べられてきたのか——その対応関係を並べたことが、この総説の中心的な貢献です。
同時に浮かび上がったのは、知見の偏りと空白です。細菌の内生菌に関する報告は真菌に比べて少なく、発酵条件の最適化は収量と構造を左右するにもかかわらず十分に検討されていません。構造と機能の結びつきもまだ完全には理解されていない、と著者らは記しています。散在する報告を一箇所にまとめ、何が分かっていて何が分かっていないのかを線引きしたこと自体が、この新しく未開拓な分野を前に進めるための足場になる——そう読み取れる総説です。
著者:Meera Mathew(Department of Biotechnology, School of Biosciences and Technology, Vellore Institute of Technology, Vellore)、Mythili Sathiavelu(Department of Biotechnology, School of Biosciences and Technology, Vellore Institute of Technology, Vellore)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Meera Mathew, Mythili Sathiavelu. Endophytic bacteria and fungi as a source of polysaccharides: production and characterization techniques. Frontiers in Microbiology 2026-09-14. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1903754. 原著ライセンス:CC BY.